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2020年2月に韓国・加平郡で行われた統一教会の合同結婚式(写真:AP/アフロ)

旧統一教会を巡る報道はどんどんおかしな方向に向かっているが、とりわけ呆れ返ったのが毎日新聞の7月29日付記事『旧統一教会の名称変更、異例の大臣事前報告』だ。

「第三の加計疑惑」追い求める毎日新聞

この記事は、かつての「加計疑惑」報道と以下2点でそっくりだ。

  1. どちらも前川喜平・元文部科学次官が登場して「政治の力で行政が歪められた」と主張し、それに基づき疑惑を報じている。
  2. しかし、実際にはどちらも「もともと法令に基づかず歪んだ行政がなされていた」に過ぎない。

記事によれば、前川氏は宗務課長(宗教法人担当)を務めた1997年頃、当時の統一教会の名称変更申請を拒んだそうだ。「『教会の実態が変わっていないのだから、申請は認められない』と言って、受理をせずに水際で止めた」という。

毎日新聞はこれが正しい行政対応だったとの前提で、政治の力で歪められた「疑惑」を報じているが、もし記事のとおりならば、前川氏の対応は違法行為だ。

  • まず、宗教法人法上、名称変更の申請があったとき、一定の形式要件を満たしていれば「認証しなければならない」とされている。「教会の実態が変わっていない」ことは認証を拒む理由にならない。
  • おそらく前川氏がそれがわかっていて「受理しない」との対処をしたのだろうが、これも法律違反だ。「申請不受理」は昭和の時代は当たり前になされていたが、1993年に行政手続法が定められ、申請は受理して審査しなければならないことになった。

とても「正しい行政対応」とはいえない。

それでも、杓子定規に法令適用したら国民の生命・財産を脅かしかねない緊急事態では、超法規的な対処も全くありえないわけではない。しかし本件では、もし前川氏が法令違反を犯すほど強い危機感を持って「名称変更を認めたら霊感商法など社会的問題が拡大しかねない」と考えていたならば、少なくとも同時に、宗教法人法改正(名称変更を拒む理由の追加)を提案して何としても実現しただろうし、関係機関と連携して霊感商法などの取締を徹底強化したはずだ。

前川氏に見る不透明な行政運営

文科省時代の前川氏(文科省サイト, CC 表示 4.0

ところが、実際にはそんな宗教法人法改正はなされなかった。文科省のイニシャティブで取締強化が図られた形跡もない。

私は2000年代初頭(前川氏が宗務課長を務めた少しあと)に経産省で悪徳商法対策(特定商取引法の制度運用)を担当し、霊感商法などの各種トラブルにつき警察や消費者センターなど関係機関と緊密に情報交換していたが、文科省の宗務課はほとんど存在感がなかった。何らかの問題提起や情報提供を受けた記憶も一切ない。経過から判断する限り、前川氏らは行政官の使命を果たさず、こそこそと申請不受理を続けていたようにしかみえない。

さらに問題は、そうした法令無視の不透明な行政運営こそが、宗教法人が政治に接触する動機を高めた可能性も否めないことだ。法治主義の不徹底な途上国で賄賂が横行しがちなのと同じ構造だ。

毎日新聞は本来こうした問題点を解明して報道すべきだったはずだが、残念ながら的外れな疑惑追及ごっこに終わっている。

毎日新聞はかつて「加計問題」に関し、朝日新聞などとともに的外れな疑惑追及を延々と続けた。私は国家戦略特区の委員で当事者だったので、的外れであることを国会などで指摘した。すると毎日新聞は今度は、私が国家戦略特区関連で不正を働いたとの事実無根の記事を掲載し、「第二の加計疑惑」とばかりに一大キャンペーンを展開した。私は名誉毀損訴訟を提起し、今年7月4日に東京高裁判決で名誉毀損が認定されたところだ(現在上告手続中)。

「第二」の失敗でさすがに懲りたかと思っていたが、さらに「第三の加計疑惑」を追い求めているのだから、つける薬がない。

古き既得権保護行政に逆行する文科省

「加計疑惑」の本当の問題は、文科省が学校法人法の規定に反して「獣医学部の新設禁止(申請を受け付けない)」との独自ルール(文科省告示)を定め、52年間も新規参入を排除し続けてきたことだった。安倍内閣で国家戦略特区の仕組みを用いてこれになんとか穴をあけたら、既得権益の猛反発を招き、ありもしない疑惑追及がなされることになった。

ところが、驚愕することに、文科省は今度は「薬学部の新設禁止」をもくろんでいるという。7月19日付の読売新聞記事で報じられたとおりだ。

文科省は、岸田内閣の改革後ろ向き路線に乗じ、

  • 「獣医学部の新設禁止」は正しい規制だった、
  • さらに拡大し、「薬学部の新設禁止」も追加する、

ということにしたいのかもしれないが、「獣医学部新設は一部マスコミ・野党が追及していたとおり間違いだった」というに等しく、とんでもない話だ。

文部科学省との合同庁舎に入居する文化庁(Art_tetsu /PhotoAC)

時代遅れな役所の需給調整

そもそも、役所が需給調整を行う方式は、昭和の時代には多くの行政分野で広くみられたが、とっくの昔にほぼ消え去った過去の遺物だ。しかも、仮に需給調整を行うとしても、「新設禁止」は理屈が立たない。ダメな事業者は退出させ、より優れた新規参入は受け入れればよいだけだ。

薬学部の場合、この20年ほどで急増し、その中には定員充足率や薬剤師試験ストレート合格率が極めて低水準のものが少なからず存在するのだからなおさらだ。

(薬学部新設に関して、より詳しくは先日のJB Pressで論じた)

それにもかかわらず、「新設禁止」という話になる背景は天下りだ。薬学部のある大学や運営法人等には2009年以降で21法人・25人の文科省OBの再就職がなされている(下記参照、図はクリックして拡大)。いったん作られた大学・学部はこうして文科省と共同の利権になっていくので、退出を促すことには後ろ向きで、「新設禁止」に走るわけだ。

筆者作成(※クリックすると拡大します)

第1次安倍内閣が天下り規制が導入したが(2007年)、文科省の前川氏らは公然と無視して天下りあっせんを続けていた。これも、文科省の「法令無視」行政の1つだ。

問題は薬学部だけではない。18歳人口が減り続ける中で、大学の数が増え続け、留学生の大量受入れなどを政策的に進めて経営維持を図っている背景もやはり同じだ。こんなことをやっていたのでは、大学教育の質は低下するばかりだろう。

そうした中、文科省はさらに古き既得権保護行政への逆行を目指し、マスコミは相変わらず「第三の加計疑惑」を追い求め本当の問題は一向に報じない。日本はよくなりそうにない。