ガソリン代は高くなるし、気候変動は厳しくなるしで、「次に買うならEV(電気自動車)かなあ」と考えている人は多いはず。でも電気自動車はまだまだ高いし、航続距離や充電設備に不安もある。
はたして、こうした悩みは解決されて、EVの「買い時」はやってくるのか? EVにつきまとう「価格」「充電時間と航続距離」「充電インフラ」という「三大課題」について、自動車ビジネスやテクノロジーに詳しいモータージャーナリスト、桃田健史氏に分析してもらった。
文/桃田健史、写真/NISSAN、TOYOTA、Grecaud Paul@AdobeStock、ベストカー
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EVの人気上昇はデータからもあきらか
2022年の日本市場は、欧州ブランドや日系メーカーから新型EVが続々と登場している状況だ。
となれば、「そろそろウチもEVにしようか」と真剣にEV購入を考える人が増えてくるのは当然だろう。
実際、そうしたトレンドを裏付けるようなデータもある。
一般社団法人 日本自動車工業会(通称:自工会)が2年に一度行う、乗用車市場調査では、直近の2021年度調査のトピック調査として「次世代車への意識」を深堀りしている。
それによると、名称の認知度では、ハイブリッド車とEVが6割前後と高く、プラグインハイブリッド車の約3割や燃料電池車の2割強と大きな差になった。
また、「EV購入を検討したい、またはやや購入を検討したい」というアンケート項目を地域別にみると、首都圏が先回(2019年調査)と比べて11ポイントアップ、首都圏近郊(40km圏内)では14ポイントアップ、さらに40km圏内を越える首都圏周辺でも8ポイントアップなど、増加傾向が見て取れる。
一方、中都市では5ポイント減、小都市では8ポイント減など、日常生活の中で自動車に乗る機会が多い地域では、まだEV購入に対してコンサバな人が少なくないことが分かる。
価格が高い最大要因は電池のコスト
自工会調査では、ユーザーがEVに対して持つ課題点についても洗い出しているが、それらは、これまで長きに渡って指摘されてた課題が目立つ。
いわゆる、EVの三大課題は、ユーザー目線では今も変わっていないという印象だ。
EVの三大課題とは、(1)価格、(2)充電時間と航続距離、そして(3)充電インフラという大きく3つの括りである。
では、これら3大課題を「EVの買い時はいつなのか?」という観点で検証してみよう。
価格については、まだまだ高い。
最新モデルである、アリア、bZ4X、ソルテラなどが500万円台~600万円台。これらを基準値として、ヒョンデやテスラなどが”戦略的価格”を設定しているとはいえ、車格としてみれば同程度のクルマより割高感があるのは否めない。
こうしたEVを製造するメーカー各社や、関連する自動車部品大手の関係者と意見交換すると、価格が高い最大の要因は「電池のコスト」という。
2010年代初頭にリーフやi-MiEVが自動車メーカー大手として初めての大量生産型EVとして登場した当時に比べれば、電池コストは3分の1程度まで下がってきているとはいえ、一般的な自動車部品のコストでみれば、現時点での車載用リチウムイオン電池のコストはまだまだ高いということだ。
EV全体のコストが下がるのは2030年代
その他、EVの主要構成部品であるモーターやインバーターなどの制御系部品については「コストはまだ高いものの、電池の割高感はその比ではない」という声が多い。
こうした状況に対して、国としても国内での車載電池製造の支援策などを打ち出しているが、電池コストが下がり、EV全体のコストが本格的に下がるのは2030年代に入ってからになりそうだ。
そのため、当面はEVのコスト抑制で最も有効なのは、搭載電池容量を抑えることであり、その代表例がeKクロスEVとサクラということになる。
また、別の視点で価格を見ると、リセールバリュー(下取り価格)が気になるところだ。結論からいえば、まだ不確定要素が多い。トヨタがbZ4Xを売り切り型ではなく、日本での個人向けはサブスクKINTOのみとしていることが、その証明だといえるだろう。
また、補助金や税制優遇などは、あくまでも普及を後押しするための時限立法的な措置だ。それをもって買い時と考えるのか、またはそれはリセールバリューも含めてまだコストへの課題が多いためにリスクもあるという解釈をするのかは、ユーザーそれぞれの判断であろう。
3大課題の2つめ、充電時間と航続距離についても、車載電池の容量に直結する話だ。距離を稼ぐには電池が大きくなり、価格も上がる。大きな電池をより短い時間で充電しようと思うと充電器の出力を上げる必要がある。
そして、3つ目の課題である充電インフラとしては、大出力型・急速充電器の整備について「EV需要の拡大の少し先を見ながら進める」(充電インフラ最大手の代表者)という。
家庭での普通充電(200V)を、日常生活の中でルーティーンにできる人はよいが、機動性の面ではガソリン車やハイブリッド車に劣ることは否めない。
社会的にはまだ不透明な部分も
このように、EVの三大課題の解消に向けては、まだ道半ばといったところだ。見方を変えると、EVはガソリン車やハイブリッド車の代替ではないため、ユーザーのみならず社会全体でEVのあり方を考えていく必要があるともいえる。
いまいまの世界的EVブームは、EU(欧州連合)の執務機関であるEC(欧州委員会)が推進する欧州グリーンディール政策による政治的な動きが根源だ。その影響が、アメリカや日本に飛び火し、また中国での独自の新エネルギー政策を後押しした形だ。
日本でもグリーン成長戦略により、当面はEV推しの機運があるだろうが、実際に社会がEVをどのように許容していくのか、その先行きは未だに不透明と言わざるを得ない。
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