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失敗続きだった「小さい高級車」とノートオーラが成功した理由

 ノートオーラの躍進がつづいている。2022年5月のノートシリーズ(ノート、ノートオーラ、ノートオーテック、ノートオーテッククロスオーバー)の販売台数は6626台、そのうち2756台がノートオーラ(NISMO含む)と、ベースのノートよりも60万も高いのにも関わらず、約4割もオーラが占めている状況だ。

 これまで、国産車において「プレミアムコンパクト」を名乗るモデルは、どれも失敗していた。メディアの評価はそこそこよかったにもかかわらず、市場では評価されず、長続きせずに消滅していった。なぜ、国産プレミアムコンパクトは失敗続きだったのか。そして、オーラが成功している理由とは!??

文:吉川賢一
写真:NISSAN、HONDA、MAZDA

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「プレミアム」と呼ぶには中途半端だった

 国産車で(オーラ以外に)「プレミアムコンパクト」を目指したクルマといえば、シックで上質な内外装としたマツダ「ベリーサ」(2004年~2016年)や、「コンパクトミーツラグジュアリー」の謡い文句で登場した日産「ティーダ」(2004年~2012年※国内)、そのティーダの後継にあたる「ノート」メダリスト(2012年~2020年)、先代から大幅にクオリティアップした「マツダ2」(2014年~、2019年に「デミオ」から改名)、そのSUV版となるマツダ「CX-3」(2015年~)、などだ。

 どのクルマも、高級感のある本革シートを採用したり、エクステリアやインテリアは豪華に見えるよう細かな造り込みがなされ、さらには走行性能を磨きつつ、静粛性も高めるなど、当時の同サイズのコンパクトカーと比べれば、非常に贅沢な造りが自慢だ。自動車メディアからの評価も上々だったこうしたクルマたちだが、販売面で大ヒットしたかというと、どのモデルもそうとはいえない。

 決定的な弱点や欠点があったわけではないのだが、ベリーサでいえば豪華な本革シートの割には寂しいダッシュボード周りのデザインであったり、ティーダもお洒落なインテリアの造りに反して野暮ったいエクステリアデザインなど、「部分的にはちょっと上級」というスタンスだった。おそらく、本気で「プレミアムコンパクト」を目指したわけではない、中途半端なつくりであった。

マツダ「ベリーサ」。お洒落なエクステリアデザインと、高級感のある本革シートなど、小さな高級車としてのポテンシャルは高かったコンパクトカーであった

妥協なくつくられたオーラ

 フェアレディZやアリア、オーラなど、最近の日産車のカーデザインを統括する、日産自動車グローバルデザイン部第二プロダクトデザイン部プログラムデザインダイレクターの入江慎一郎氏へ取材した際、「プレミアムカーとなるための要素とは何か」とお聞きしたところ、デザイナーがまず考えるのは、「細かな部分まで意識を行きわたらせて、全てに魂を込める作業を延々と続けることだ」という。

 それは、内外装のデザインはもちろんのこと、走行性能や乗り心地、静粛性、シート座り心地といった乗り味に至るまでの全てが、平均以上となることが、まず大前提だという。ウィンドウモールの形状も上質に見えるかチェックしているという。さらにデザインに限っていえば、そのメーカーの伝統とトレンドを上手く取り込んでいるのか、新しいチャレンジも織り込んでいるか、デザインと機能が同居できているかなど、幾度も繰り返し検討して、地道に詰めていく作業を延々と続けてつくり上げていく必要があるそうだ。

 例えば、インパネやシート、ダッシュボードの一部を高級素材へ変更する、タイヤを大きなサイズに変えてホイールも大径にするなど、外装色も高級色を追加するなど、個々に変更しているうちは、「プレミアム」と呼べるほどには昇華は不可能、やることすべてに筋が通っている必要がある、というのだ。

 確かに、ノートオーラには隙は見当たらない。第2世代e-POWERと、新世代CMF-Bプラットフォームを採用、ボディは3ナンバーへワイド化してタイヤサイズをアップし、e-POWER 4WDによって4WDの走行性能は飛躍的に高い。またBセグコンパクトカーとしてはオーバークオリティな12.3インチのフルTFTメーターを採用し、ヘッドレストサイドにBOSE製スピーカーを仕込んだパーソナルプラスサウンドシステムを採用、さらには、ツイード表皮や木目調パネルなど、クオリティアップも半端ない。

 無駄なものはないが、どれも美しく調和がとれている。しかも、エントリーグレードは261万円、最上級の4WDレザーエディションが295万円、ノートよりは価格が上がったが、手が届きやすい予算範囲の上級仕様車としたこともよかったのだろう。日産の狙い通り、大きなSUVからのダウンサイザーや、輸入車からの乗り換えも起きているという。

 日産は、初代C11ティーダから続くモダンラグジュアリーのコンセプトを、初代「ノート」の「メダリスト」グレードへ継いだ。しかし「ノート」メダリストは、加飾が中途半端で、エンジン始動時のノイズがうるさいなど、弱点も多かった。その汚名を払拭するかのように、ノートオーラでは、デザインから性能まで全てを磨き上げてきた。過去の失敗を活かして、中途半端でごまかさなかった、というのが、オーラの勝因であろう。

本気でつくれば受け入れられる

 オーラのヒットは、これまで「プレミアム」を名乗りつつも、ヒットできなかった国産コンパクトカーにおいて、「国産コンパクトカーでも本気でつくればプレミアムコンパクトとして受け入れられる」ということを示した、大変意義のあることだ。そしてもうひとつ、前出の入江氏が「プレミアム」に必要な要素として、「いいものを作ったら、それをつくり続けることだ」としていた。どんなにいいクルマをつくったとしても、一発屋で終わってしまえば無駄になる。ユーザーに信頼してもらえるいいクルマを何代も続けることで、プレミアムブランドとして熟成させることができる。

 となれば、(少々気が早いが)次期型オーラにも期待が高まるところだが、入江氏は「映画もクルマも、ヒット作の次を作るのが非常に難しい」とも話していた。日本を代表するプレミアムコンパクトとして、注目が集まっているノートオーラが数年後、次期型でどういった姿をみせてくれるのか。今後が非常に楽しみだ。

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