運転免許を取得するとき通う自動車教習所は、Web時代の到来・少子高齢化・コロナ禍など時代の変化によって、変わったことがあるのでしょうか。
今回は、時代の変化とともに教習所の運営や教え方などが変わっているのか、さまざまな視点から考察します。
文/齊藤優太
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やっぱり苦しい…自動車教習所の現状とは
免許センター(試験場)での技能試験が免除となる指定自動車教習所の運営は、厳しい状態が続いているといえます。
警察庁交通局運転免許課の「運転免許統計(令和3年版)」によると、指定自動車教習所の数、国家資格の指導員や検定員が減少していることが明らかです。指定自動車教習所の数は、平成24年時点では1358校ありましたが、令和3年時点では1300校となっています。なんと、直近10年で58校が閉校しました。
指定自動車教習所に在籍していなければならない教習指導員や技能検定員の数は、多少の変動はあるものの全体的に減少傾向です。指定自動車教習所の指導員・検定員の推移は次のとおりとなっています。
■平成24年:教習指導員3万2083名、技能検定員1万8813名
■平成25年:教習指導員3万2626名、技能検定員1万8828名
■平成26年:教習指導員3万2608名、技能検定員1万8835名
■平成27年:教習指導員3万2125名、技能検定員1万8872名
■平成28年:教習指導員3万2167名、技能検定員1万8686名
■平成29年:教習指導員3万2048名、技能検定員1万8993名
■平成30年:教習指導員3万1494名、技能検定員1万8689名
■令和元年:教習指導員3万1144名、技能検定員1万8453名
■令和2年:教習指導員3万1086名、技能検定員1万8385名
■令和3年:教習指導員3万1033名、技能検定員1万8305名
平成24年時点では教習指導員が3万2083名、技能検定員が1万8813名でしたが、令和3年度では教習指導員が3万1033名、技能検定員が1万8305名と10年で教習指導員が約1000名、技能検定員が約500名も減少しました。指定自動車教習所の閉校に伴い人数が減っているといえるでしょう。
教習所や指導員・検定員の減少は、公共交通機関の発達や少子高齢化なども影響していると考えられます。
内閣府が公開している「令和4年版交通安全白書」によると、免許保有者数のうち、35歳〜59歳の男性が95%以上、40歳〜54歳の女性が90%以上、運転免許を保有しています。しかし、20歳〜24歳の運転免許保有者数は、男性が78.7%、女性が70.3%。25歳〜29歳の運転免許保有者数は、男性が86.9%、女性が80.8%です。
人口に対する免許保有者数が減少していることから、公共交通機関の発達により、運転免許の必要性がないと考えている20代もいると考えられるでしょう。また、必要になったら免許を取得すると考えている方も多いです。筆者が教習所に勤務していたときも、「今まで車の免許がなくても何とかなっていましたが、どうしても必要になったので、働きながら取得しに来ています」という生徒が多くいました。
教習所は、運転免許の取得(安全な運転者の育成)以外にも、企業講習や高齢者講習など、すでに免許を保有している人に対する講習や指導も実施しています。さまざまな業務を行っているものの、教習所の主な業務は「安全な運転者の育成」です。
教習所の主な業務である「安全な運転者を育成(新規免許取得)」をするためには、免許を取得しようとする人がいなければなりません。しかし、少子高齢化が進み、新たに免許を取得しようとする人の数は減少傾向です。つまり、指定自動車教習所の閉校や指導員・検定員の減少は、少子化も影響しているといえます。
このように教習所は、少子化による新規免許取得者数の減少や公共交通機関の発達などにより、経営状態が厳しくなり、閉校や人員の削減をせざるを得ない状況が続いているといえるでしょう。
少子化・ウェブ時代の到来によって変わったことはあるのか?
かつて教習所といえば、鬼教官がいたり、怒られながら教習を受けたりしていた時代がありました。しかし、今の時代では、怒るより褒めるという方向にシフトしています。筆者が教習所に勤務していたときにも、「昔と今では、接遇も含めて、いろいろ変わったよ」と先輩から聞きました。
教習所は、時代の変化や少子化などの影響などにより、一人でも多くの生徒を入校させて卒業させたいという方向性に変わっています。かつての厳しい教習所から、優しい教習所へ変化しているのです。その代表例が「褒めちぎる教習」でしょう。とにかく褒めることで、生徒に自信を持たせて伸ばしていくという教習によって、メディアなどで話題となりました。
少子化による免許取得人数の減少や時代の変化により、教習所の教育方法も変化したといえるでしょう。
パソコン、携帯電話・スマートフォン、インターネット・ウェブの普及などにより、教習所のシステムも変化しました。
教習所のホームページ内には、ウェブを通じて技能教習の予約ができたり、学科試験の練習ができたりするなど、在校生向けのメニューを用意しているところが多いです。自宅や移動中のスキマ時間に技能教習の予約・キャンセルができたり、学科試験の練習ができたりするのは、ありがたいサービスといえるでしょう。
オンライン講習も! コロナ禍の影響で変わったことはあるのか?
2020年から始まったコロナ禍では、大きな変化がありました。それは、「オンラインによる学科教習」です。
令和3年12月22日に警察庁からオンライン学科教習に関する通達がされました。この通達を受け、実際にオンライン学科教習を取り入れている教習所もあるようです。ただし、警察庁の通達には、「教習所にオンライン学科教習を義務付けるものではないことに留意すること」と記載されています。つまり、オンライン学科教習を教習所に強制するものではないということです。そのため、オンライン学科教習を取り入れていない教習所も多いといえるでしょう。
もし、オンライン学科教習をする場合、どのような方法で実施するのでしょうか。
警察庁の通達によるとオンライン学科教習は、ライブ配信と録画配信のいずれかの方法で実施することとされています。オンラインによる学科教習では、自宅にいながら教習を受けることができたり、何度も同じ教程を見返したりできることなどがメリットです。しかし、対面ではないため、サボることもできてしまいそうです。
そのため、オンライン学科教習では、教習を受けていたかどうか指導員がチェックします。そのため、サボることはできません。つまり、対面での学科教習と同じようにしっかりと教習を受けていればハンコをもらえますが、サボっていると教習不成立として受け直しとなります。オンライン学科教習でもサボらないようにしましょう。
オンライン学科教習は、コロナ禍でいわれた「密」を避けることができるため、積極的に取り入れても良いのではないかと考えられます。しかし、指導員および検定員の人数減少、学科教習の受講をチェックする指導員の確保、機材や設備の準備など、さまざまな要因から今後普及するかどうかは未知数といえるでしょう。
まとめ:時代の変化とともに教習所も変わっている
教習所は、少子高齢化、ウェブ、パソコンやスマートフォンの普及などの時代の変化よって、教育方法やシステムなどが変わってきています。しかし、技能教習や応急救護など対面でなければ実施できない教習も多く、完全オンライン化やリモート教習などに移行するのは難しいでしょう。
また、教習を受けるためだけの教習所ではなく、託児所の併設や居心地が良い空間づくりなど、さまざまな工夫をしている教習所もあります。かつて教育業だった教習所は、時代が変わって、教育サービス業になっているといえるでしょう。
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