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 ボルボ大型トラックの旗艦、新型ボルボFHに追加設定された単車系は昨年11月のマイナーチェンジを機にラインナップに加えられた。

 先代のFHとFMの日本仕様には単車系モデルが設定されていたが、国産車との競合で販売は思わしくなく、新世代モデルへの移行とともに展開はいったん休止。

 しかし、現在のインポーターであるボルボ・トラックセールスによれば、ドライバー不足の顕在化を背景に近年マーケットのニーズが変化。効率やコスト一辺倒ではなくなり、安全で快適性の高い車両がもたらす離職率低下や求人確保、また安全意識の向上といった効果に対する価値観が高まってきたという。

 ボルボではこうした状況を国産車と直接ぶつかることなく販路を広げ得るチャンスと見定め、主力のセミトラクタに加えて国内の大勢を占める単車系への展開を6年ぶりに決断した。

 欧州プレミアムセグメントの最新モデルの実力は如何ほどか? 空荷・高速道路中心の走行ルートなど限られた条件下ではあったが単車系の長尺カーゴ車(デモカー)に試乗した。

文/多賀まりお 写真/フルロード編集部
※2022年6月発売「フルロード」第45号より


■欧州のプレミアムセグメントにふさわしい室内の快適性

 久しぶりに見るFHの単車カーゴは、新型のデリバリーがトラクタから始まったばかりということもあって新鮮な印象だ。

 試乗車は後2軸6×2駆動の標準床仕様(フルエアサスのGVW25t車)。リアボディは日本トレクス製のドライウイングである。

 キャブはハイルーフの「グローブトロッター」で、標準的なミディアムハイトシャシーでもキャブの高さは保安基準の3.8mに迫る大きさ。前から見るとセミトラクタ/トレーラと錯覚する威容である。

久しぶりに日本市場に投入されたFHの単車カーゴ。ミディアムハイトのシャシーでもグローブトロッターキャブは保安基準ギリギリの高さを誇る

 キャブは室内の装備品の設定を含めてセミトラクタと基本的に同じである。まず大きなドアを開くと3段のステップが現れ、左右の手すりを伝って運転席に上がる。

 試乗車は上級艤装の「ラグジュアリー」仕様のためシートは革張り。ヒーター/ベンチレータが備わり、ダンピングの効いたシートエアサスと厚い座面クッションによる乗り心地は、キャブサス、さらにシャシーのフルエアサスも手伝って非常に快適だった。これなら長距離走行の疲れも少なそうだ。

 調整機能は多彩で、ステアリングシャフト基部とステアリングコラム直下の2箇所に屈曲点を有するステアリングのチルト/テレスコピック機能と併せて幅広い体格に対応する。

 運転席のアイポイントは相応に高いが、ウインドスクリーン(フロントウインドウ)の下縁は低く、着座位置も(先代のFHより)若干前進したようで前が良く見える。

 ドアウインドウも前方が斜め下側に切れ込んだ形状とされ、直前や斜め前方の直接視界は良好。街中の走行でも不安は感じなかった。

 フロアは中央部にエンジンを避けた約90mmのトンネル段差があるが、グローブトロッターの室内高は中央部で1960mmと余裕の高さ。運転席から天井を見上げると電動チルト機能付きガラス製サンルーフが遠くに感じられる。

 運転席から立ち上がってそのまま室内を移動できる居住性はフロアトンネルの低い欧州車ならではの魅力だ。

 後方のベッドは長さ2000mm×最大幅815mmと、キャブ前後長の余裕を活かしたサイズ。ポケットコイルスプリング式のマットレスは2分割式で、電動リクライニング機能により上半身部分を起こしてくつろぐこともできる。

 収納スペースは当然のように潤沢で、ベッド下には冷蔵庫仕様も選べる引き出し2つと、車外からもアクセスできる左右のトランク、キャブ前後の上部には蓋付きの収納ボックスを備える。

 なお、新型にはパーキングヒーターとともに電動コンプレッサでエンジン駆動のエアコンを作動させるアイドリングストップクーラー「I‐パーク・クール」が全車に標準装備された。

 欧州のプレミアムセグメントに属するFHの居住性、質感のレベルは高く、トラクタ系に比べて輸入車の比率が小さい単車市場での反応が興味深い。

■カメラのおかげで不安を感じさせない後方視界

 室内のトリムカラーは落ち着いたグリーン基調、インパネのスイッチパネル周りはこれまでと同じマットブラックとなる。メータークラスターは12インチのスクリーンに置き換えられ、中央に大きな速度計を配したメイン画面のほか状況に合わせて複数のデザインのメーターを表示可能。

 またサイドパネル上部にはナビゲーションやカメラ画像、ドライバーガイド(操作説明やメンテナンス方法)、ロードインジケータ(エアサスの圧力センサーを利用した軸重計)などを表示する9インチのサイドディスプレイが追加された。

 一部の機能設定は同画面を見ながらタッチパネルスイッチもしくはステアリングスイッチで行なう。

 エンジンを掛け、一回りコンパクトになった運転席左側のI‐シフト操作レバーをA(自動変速)にセット。インパネ上にスイッチが配置された電動パーキングブレーキを解除して走りだす。

 右ハンドルでも方向指示器レバーは日本車と逆のステアリングコラムの左側、リターダレバーは右側にあるので最初は注意が必要だ(ハザードスイッチもインパネ上のステアリング右側にある)。

 これまで日本仕様のサイドミラーは助手席側のミラーを専用のステーで前方に配置する国産車に準じたレイアウトを採っていたが、新型は左右とも欧州(英国)と共通のドアミラー仕様に改められた。

 助手席側のドア窓を介して確認する左側のサイドミラーは、乗用車のドアミラーに似た感覚。視線の移動量が多いのは気になるものの、視野は確保されており、間もなく慣れる。

 また、助手席側ドアには国産車のような安全確認窓がないが、方向指示器で左折の合図を出すと自動的に立ち上がる(手動操作で常時表示可能)「パッセンジャーコーナーカメラ」が備わるので、心強い。

左側の直前視界を補完するパッセンジャーコーナーカメラ

 これは左ミラーアーム基部に内蔵したカメラの映像をサイドディスプレイに映し出すもの。画角は左斜め前方の直接視界と左ミラーの視野の間を補完する設定で、左折時や車線変更時の安全確認を助ける。

 このほか、後退ギアに入れた際も荷箱後面上端部に装着されたリアビューカメラの映像が表示される設定になっていた。同モニターには最大8台までカメラを設定できるという。

 日本向けのFHのエンジンは欧州仕様と基本的に共通のD13K型(2777㏄)。排ガス仕様は最新のユーロVIステップD規制対応で、国際基準調和のおかげでそのまま日本の平成28年規制に適合。

 馬力仕様はトラクタと同じ460PSと540PSの2種類が用意されるが、6×2駆動の試乗車は460PSのみとなる。トルクは234kgmと、GVW25tの単車カーゴにはいささか過剰な気もするが、国産車にはない馬力帯が必要とされる用途もあるという。

 ギアボックスは12段直結のAMT「I‐シフト」(AT2612F型。540PS仕様にはデュアルクラッチ式が組み合わされる)。2.64の減速比を介して後前輪を駆動する。

■パーソナルセッティング機能が付いたVDS

 今回は空荷だったため25t車としての走りの実力は不明だが、発進時や加速時には低速トルクの豊かな13リットル級エンジンらしい応答性、力強さが感じられた。やはり排気量は大きいほうが良い。

 ロードインジケータによると試乗時のGVWは12.2t。総輪エアサスのおかげで車重が軽くてもバネは堅すぎず、乗り心地が快適に保たれるのも印象的だった。

 新型FHには調整機能を備えた第2世代の「ボルボ・ダイナミック・ステアリング」(VDS)が搭載された。

 VDSはボルボ独自のステアリング制御機構である。パワーステアリングギアボックスにハンドルと路面側の双方から入力量を検知するセンサーと電動モーターを取り付け、既存の加速度センサーなどの情報と合わせてECUが走行状態を類推。必要に応じてモーターを制御することで、ステアリング操作を支援する。

 昨年にはUDトラックスにも技術が展開され「UDアクティブ・ステアリング」(UDAS)としてクオンの一部車型にオプション設定された。

 VDSの主な効果は低速時のステアリングの軽さ、高速時の直進安定性向上、不整路でのキックバック軽減、横風に対する操舵補正、ステアリングの自動センタリングの5点。第2世代ではパーソナルセッティング機能が追加され、各要素の制御の強さを調整できるようになった。

 操作はサイドディスプレイのタッチパネルで行なう。走行中に直進性とセンタリングの項目を変えてみたところ、最強と最弱の間では明らかな違いが感じられた。基本的にVDSの作動はUDASよりも明確。

 以前は低速での操舵力が軽すぎる、センタリングの戻り方が強すぎるといった意見も聞かれたので、調整機能は有用だろう。もちろんデフォルトのセッティングを選ぶことも可能だ。

FHにはボルボ・ダイナミック・ステアリング(VDS)が標準装備されている。低速時のステアリング操作は指一本で回せるほど軽いが、車速が上がれば手応えが増す

 このほか、アダプティブ・クルーズコントロール(ACC)は全車速対応になり、渋滞時のストップ・ゴーでも機能するようになった。操作用のステアリングスイッチはデザインが改められ、車間距離設定のボタンも使いやすい。

 もともとボルボは欧州車らしい優れた直進安定性を備えるが、VDSによって進路はより安定。鬼が金棒を得た印象である。豊かなトルクを発生するエンジン、フラットな乗り心地もあって高速道路の移動は快適そのもの。ずっと走っていたい気持ち良さだった。

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