ストックホルム国際平和研究所によると、2021年の世界の軍事費は2兆1130億ドル(約286兆円)と過去最高を記録した。ウクライナ危機を経て、さらに増額されるのは間違いない。日本でも自民党が参院選の公約に防衛費倍増を掲げた。各企業はこの”成長分野”にどう向き合うのだろうか。
世界史的視点に立てば、軍事費の増額は驚くに当たらない。「サピエンス全史」などの著作で知られるイスラエルの歴史家、ユバル・ノア・ハラリ氏によると「ここ数十年、私たちは驚くほど平和な時代を生きている。EUでは加盟国の軍事予算の平均額は国家予算の3%程度だった。これは歴史上の奇跡だ。有史以来ほぼ常に王や皇帝やスルタンの予算の5割から8割が戦争や軍隊に回されていた」。
奇跡的平和の時代は、ロシアによるウクライナ侵攻で終わろうとしている。
ドイツ連邦議会では6月3日、国防費として1000億ユーロ(約14兆円)の特別資金を拠出するための法案を可決した。過去20年間、国内総生産(GDP)比1%台前半に収まっていた国防費を2%超に拡大する。今後は毎年、この水準を維持する方針だ。
欧州連合(EU)では、3月に開いた首脳会議で「ベルサイユ宣言」を採択し、加盟国は防衛予算を大幅に増額させるとの方針で合意した。サイバーセキュリティーや宇宙分野を含め、あらゆる作戦の遂行能力の獲得に向けた、さらなる投資を実施し、中小企業を含む防衛産業を強化・発展させるための措置を講じるとしている。
自民党の公約も、こうした流れのなかにある。「NATO諸国の国防予算の対GDP比目標(2%以上)も念頭に、真に必要な防衛関係費を積み上げ、来年度から5年内に、防衛力の抜本的強化に必要な予算水準の達成を目指す」という。
また自民党の国防議員連盟は6月11日、国防予算増加を念頭に、防衛関連の研究開発費を大幅拡充し、22年度の2911億円を23年度に少なくとも5000億円以上、5年以内に1兆円に増やすことなどを盛り込んだ「産官学自一体となった防衛生産力・技術力の抜本的強化についての提言」を岸信夫防衛相に手渡した。「先端技術の社会実装が軍事分野の研究開発から生じることは、インターネットやGPSの開発の例からして明らか」と効用を説いている。
日本学術会議は17年に、戦後維持してきた「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」旨の声明を継承すると決定している。各企業も、態度を決めておく必要があるのではないか。
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