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経済産業省が5月に発表した「未来人材ビジョン」というレポートが話題を呼んでいる。端的に言えばこのレポートは、日本の“ヤバさ”を残酷なほどに指摘しているものだ。レポートは、「問題意識」「労働需要の推計」「雇用・人材育成」「教育」「結語」の5つの項目からなり、それぞれに対する危惧が記載されている。

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日本の“異常”な人材事情指摘

たとえば、「問題意識」の項では、「生産年齢人口は、2050年には現在の2/3に減少する」と指摘。出生率の増加も見込めない中、これまで通り、“日本”という国家を運営していくには外国人労働者の受け入れしかない。しかし、このレポートでは種々のデータから「日本は、高度外国人から選ばれない国になっている」としている。このような現状に際して、次のように綴っている。

企業ができることは何か。これからの時代に必要となる具体的な能力やスキルを示し、今働いている方、これから働き手になる学生、教育機関等、多くの方々に伝えることで、それぞれが変わっていくべき方向性が明確になるのではないか。

また、日本の各産業に対しても警鐘を鳴らしている。2020年から2050年までに労働者数は飲食店・宿泊業はマイナス13%、卸売・小売業はマイナス15%、洗濯や理容・美容、浴場業等の「生活関連サービス」はマイナス28%、鉱業や建設業はマイナス43%、農林水産業に至ってはマイナス50%になると予測している。

レポートでは「現在の産業を構成する職種のバランスが大きく変わるとともに、産業分類別にみた労働需要も3割増から5割減という大きなインパクトで変化する可能性があるということである」と結論づけている。そのうえで、2050年までには「全く異なる社会システムを前提に、バックキャストして、今からできることに着手する」と指摘している。

さらに、日本企業の年収の低さにも言及。「日本は、課長・部長への昇進が遅い。日本企業の部長の年収は、タイよりも低い」として、日系企業の給与の低さや昇進の遅さをアメリカやシンガポール、タイなどの諸外国と比較している。それによれば、「一般的な部長」の年収は確かにタイより低い。

「転職前後の賃金変化の国際比較」では、転職後に給与が増加した人が76%の中国、60%のドイツ、55%のアメリカに比べ、23%の日本の“異常”さをデータを用いて、明らかにしている。

「企業は人に投資せず、個人も学ばない」

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「企業は人に投資せず、個人も学ばない」の項では、人材投資へのGDP比を諸外国と比較。アメリカでは2010年から2014年にOJT(業務をしながら技術を学ぶトレーニング)以外の人材投資を行っている企業の投資額は2.08%だったが、日本の投資額は同じ期間で0.1%だった

しかも、0.41%(1995年から1999年)→0.33%(2000年から2004年)→0.15%(2005年から2009年)と、その比率は年を追うごとに下がっている

そのほかの項目も、「日本企業の経営者は、生え抜きが多く、同質性が高い」「グローバル競争が過熱する中でも、ドメスティックな経営者が多い」「役員・管理職に占める女性比率が低い」「東証一部上場企業の合計時価総額は、GAFAM5社に抜かれた」「日本の国際競争力は、この30年で1位から31位に落ちた」と、データを用いて日本の“ヤバさ”をこれでもかのように指摘している。

この衝撃的なレポートに反応する人は少なくない。“アレックス”の愛称で知られ、数々のスタートアップの立ち上げに携わってきた小田嶋太輔氏はFacebookで次のように論評。

もうどこから手を付ければいいのか分からなくなるレベルで、日本がゲームオーバーに近づいていることを実感させられる内容なのですが、多くの問題の根っこにあるのが「新しい未来よりも現状維持を優先する」という力学が色々な面で働いているからのように思えます。

水産学者で、東京海洋大学准教授の勝川俊雄氏はツイッターに次のように綴っていた。

経産省の未来人材ビジョンが面白い。人口減少と競争力の低下で、日本経済が回らなくなっているのがよくわかる。それに対する経産省なりの問題意識や解決の方向性が示されているのが良い。内容に賛同するしないは別として、データに目を通して、考えておくべき事柄ですね。

このレポートをきっかけに日本企業も真の意味での「働き方改革」が行われれば良いが……。しかし、目先の利益さえ確保できれば良いと考える「未来人材ビジョン」を考えないような経営者には馬耳東風な人が多いのだろうか。だとしたらこの国は、本当に“ヤバい”。