ダイムラー・トラックは2022年6月27日、液体水素を使用する燃料電池(FCEV)大型トラックの新世代プロトタイプを公開するとともに、試験走行を開始したと発表した。
ダイムラー傘下のメルセデス・ベンツブランドではFCEVトラックのプロトタイプを「GenH2」と呼称している。2020年に初めて公開されたGenH2は、ディーゼル車並みの長距離運行を可能にするために液体水素を使用するというコンセプトモデルであった。
翌2021年にプロトタイプが試作され、走行試験を開始。今回公開されたのは、GenH2プロトタイプの第2世代となる。
気体より密度の高い液体水素を使えば、同じ体積の燃料でより長距離を走ることができるが、マイナス253度という極低温を維持する必要があるなど、技術的なハードルも高い。
大型商用車の脱炭素化でFCEVとバッテリーEVの両面戦略をとるダイムラー・トラックは、水素技術に関してはライバル企業を含む他社とも協力して取り組んでいる。特に液体水素の取扱いについては技術をオープンにすることも検討する。
その目標は、2039年までに世界の主要市場すべてでCO2ニュートラルを実現することだ。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/Daimler Truck AG
液体水素を使用するプロトタイプトラックをモデルチェンジ
ドイツのダイムラー・トラックは水素を使用したサステイナブルな道路輸送において新たなマイルストーンに到達した。2022年6月27日、液体水素を使用する燃料電池(FCEV)大型トラックの新たなプロトタイプを製造し、走行試験を開始したと発表した。
2021年からFCEVのプロトタイプとなる「GenH2」トラックによる集中的な走行試験が、室内のテストトラックと共に公道でも行なわれているが、この度製造されたのは同シリーズの新たなプロトタイプだ(GenH2プロトタイプの第2世代)。
詳細なスペックは公開されていないが、公開された画像から、ホイールベース間のサイドレール左右に1つずつ(合計2つ)搭載する水素タンクが大きく変更されていることを確認できる。
また、ドイツのラインラント=プファルツ州の経済大臣を務めるダニエラ・シュミット氏は、同州のヴェルト・アム・ラインで開催された「水素ウィーク」イベントで同車に試乗し、開発プログラムへの政治的サポートを表明した。
鍵を握る水素タンクの開発
ヴェルトの試験・開発センター近くには液体水素の充填ステーション(これもプロトタイプ)が新たに設置された。なお、ダイムラー・トラックは最近、エア・リキード社と共同でトラックへの液体水素の充填に成功している。
液体水素の充填プロセスは、摂氏マイナス253度という極低温の水素を、シャシの左右両側に搭載する水素タンク(一つ当たり40kgの水素を貯蔵可能)に補充するというもの。
タンクの容量などは第1世代と変わっていないが、今回使用したタンクは断熱性能が非常に高く、比較的長時間に渡り低温をキープし、タンクの(アクティブな)冷却は不要だったという。
ダイムラー・トラックは水素駆動システムの開発において、気体の圧縮水素より、液体水素のほうが好ましいと考えている。
なぜなら、気体よりも液体のほうが顕著に密度が高く、エネルギーのキャリアとして優れているからだ。気体水素を数十MPaの高圧タンクで圧縮しても、エネルギー密度は液体水素のほうが高い(その代償として極低温が必要になるが……)。
エネルギー密度が高いということは、より航続距離が長くなるということで、従来のディーゼル車に匹敵する輸送性能が求められる分野であれば、液体水素の使用が妥当というわけである。
GenH2シリーズの(量産車での)開発目標は、1000km以上の航続距離実現だ。これを達成すれば、FCEVトラックは様々な用途に柔軟に使えることになる。とりわけ「重量物輸送」と「長距離輸送」はバッテリーEV(BEV)がやや苦手とする分野であり、販売台数から言っても重要なセグメントだ。
ダイムラー・トラックはFCEVトラックの量産開始を2020年代後半に予定している。23年頃に顧客の下での実証試験、25年以降に量産化し、27年頃に顧客に納車するというロードマップだ。
水素技術に対する広範なコミットメント
これに併せてダイムラー・トラックはリンデ社と共同で新しい液体水素の取り扱いプロセスを開発中だ。「sLH2」(subcooled liquid hydrogen)というこの新技術は、通常より高い圧力と温度管理を利用して、充填時の損失を回避し、より高い充填密度を実現するというもの。
このアプローチには普通の液体水素より充填が簡単になるというメリットもある。同技術を使った最初の充填ステーションを、2023年にドイツに建設する予定となっている。
sLH2技術に関してダイムラー・トラックとパートナー企業は高い透明性を目指しており、共同開発したインタフェースなどは、公開技術とする計画だ。
その目的は、より多くの企業や組織と協力することで、液体水素の新規格に関する充填・車両技術の開発を促進し、新しい燃料補給プロセスをグローバル市場において確立することだという。
インフラ面では、ダイムラーとシェル、BP、トタルエナジーズなどが共同で欧州の重要路線沿いに水素の充填ステーションを整備することにしている。また、ダイムラー・トラックは水素ステーションを運用するH2・モビリティ・ドイチュラントに出資している。
これに加えて、ダイムラー、イヴェコ、リンデ、OMV、シェル、トタル、ボルボの各社は、「H2アクセラレート」(H2A)利益団体の一員として、欧州で水素トラックを本格的に展開するための環境整備で協力する。
ダイムラーとボルボは商用車ではライバル関係にあるが、燃料電池開発・製造の合弁企業セルセントリック社を2021年に設立するなど、水素技術では提携している。
輸送の脱炭素化に向けて、ダイムラー・トラックは戦略的な方向性を明確に打ち出している。すなわち、バッテリー電気駆動と水素を使った駆動方式の両方を用いてポートフォリオを電動化する両面戦略だ。
ダイムラー・トラックは最終目標として、2039年までに世界の主要市場すべてで、販売する新車を走行時にCO2を排出しないカーボンニュートラルとすることを掲げている。
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