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東京大学2年の男子学生が、新型コロナに感染して授業を欠席したのに、救済措置が受けられず、留年する見通しになったと記者会見で訴えたことを巡って異例のバトルが起きている。

記者会見前から学生の言い分を報じてきた東京新聞の記事に対し、大学側が「事実に基づかない報道」だとして抗議文を送付していたことが5日分かった。

学生の所属する教養学部の森山工学部長はこの日、東京新聞の報道について、「ジャーナリズムとしてあるべき取材の適正性、事態の全体を視野に入れた上での記事の公平性・公正性に大幅に悖(もと)る」などと猛烈に抗議した。

jaimax /iStock

学生vs.大学、全面対決

この学生は医学部への進級が多い同学部の理科3類に所属。代理人弁護士とともに4日に文科省の記者クラブで記者会見を開き、事態の経緯を報道陣に説明。それによると、今年5月17日にコロナを発症し、同日と同24日にあった必修科目の「基礎生命科学実験」オンライン授業を受けられなかった。

学生は担当教員に対し、補講などの救済を求めたが、学内のシステムで欠席届を当日の午前11時までに出さなかったことを理由に認められなかった。これに対し、学生側は「1人暮らしのために介抱する人はなく、意識はもうろうとしていた」(毎日新聞)状態だったとし、記者会見では「コロナに感染した過失ない学生の教育を受ける権利が奪われている」などと主張。今回の事態が「アカハラ(アカデミックハラスメント」だとして、学内のハラスメント防止委員会に救済を求めている。

これに対し、大学側は抗議文の中で、当該学生がシステムに5月17日夕刻にアクセスした記録があることから「所定の手続きを取れないほど重篤ではあったは認められない」と反論。コロナ感染への一般的な対応と、特定の学生が特定科目の単位を習得し損ねて留年を余儀なくされることは「まったく相互に無関係の事象」と強調し、東京新聞に対し「あたかも二つがリンクしているかのように読者に対して印象づけられている」と指摘している。

なぜ東京新聞だけに抗議

他方、学生の記者会見は毎日新聞やフジテレビなど他の在京大手メディアも報道しているが、なぜ東京新聞だけに東大側は抗議しているのだろうか。実は東大側が抗議した対象の同紙の記事は、会見後の報道ではなく、会見3日前の8月1日付で同紙の特別報道部(特報部)が書いたものだ。

東京・日比谷の東京新聞社屋(中日新聞東京本社:Lombroso , CC 4.0

特報部はどこの会社よりも早く7月17日付の朝刊で「東大、コロナ巡り理不尽な対応」と題して大々的に取り上げた。この記事では、他大学のコロナ対策と比較したり、教育評論家や医学者など著名な有識者が東大の対応を批判する意見を並び立てたりしている。東大側にも取材はしているが、「再検討の余地はない」などの短いコメントを載せたのみで、記事を編集したデスクの余録コラムでは東大に対し「最難関大のおごり」とまで糾弾していた。

そして問題の8月1日付の記事でも1500字ほどのうち、東大側の言い分は88文字のみ。他の大半は、学生側の言い分や再び登場した医学者の東大批判談話に割いていた。

なお、東京新聞のニュースサイトでは、これらの特報部の記事は掲載されておらず、無料で読める学生の記者会見の記事は共同通信の配信記事だけのようだ。

他方、記者会見を報じた毎日新聞は、教養学部に取材し、「(単位不認定は)17日の欠席によるものではなく、リポートなどにかかる評点の合計が『可』(50点)以上の基準に満たなかったため」「評価は適切なものと考えている」などの回答を紹介している。NHKも教養学部側に救済措置について尋ね、「虚偽の申請をした学生が学習時間を多く確保して追試を受けられるという点で、成績の公平性の確保に大きな課題があった。現在は感染対策も定着し、新型コロナ以外の病気や事故で試験を欠席した場合とも整合性をとる必要があり、廃止を決定した」などのコメントを紹介している。

こうした状況から、東大側は他メディアと比べても際立つ“アンバランス”な報道が続いたことで業を煮やし、全面的に反論したとみられる。

ネットでは賛否両論

ツイッターでは、

コロナで休んでも救済措置が一切ないというのはおかしいよね(東大卒の医師)

同じ大学生として到底許せない事態だと思います。

などと、学生側に同情する声もあるが、

これ、どうみても東大側の説明のほうが納得できるんですけど(大学教授)

東京新聞は大学側の言い分を載せていない。失格。

というように、東大支持の声も少なからずある。

学生と大学側が全面的に争う構図に加え、大学側が新聞社の“偏向ぶり”を糾弾する「場外乱闘」。異例づくめのバトルはどうなるだろうか。