岸田政権がスタートアップ企業への支援を強化するため、参院選後の内閣改造時にも新たに“スタートアップ担当大臣”を設ける方向という。一部報道について、木原官房副長官は4日の記者会見で「担当大臣の設置について決まった方針はない」と述べたものの、司令塔機能を明確化する方針については明言。その方向性に間違いはないようだ。
資金調達支援の“今さら感”
政府が6月にまとめた「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では、今後の経済成長や社会的課題の解決に向けて担い手となるスタートアップ企業への投資額を5年で10倍に増やす計画を年末に策定するとしている。大臣ポストの新設はこれを受けてのものだが、スタートアップ企業育成のために資金調達を支援するというのは、 “今さら感”が否めない。
かつて、スタートアップ企業は金融機関など機関投資家のベンチャーに対する無理解によって、資金調達に苦労したことがあったのは事実だ。だが、昨今はスタートアップ企業の資金調達環境は以前に比べれば格段に向上している。海外の機関投資家から資金流入もあるし、クラウドファンディングによる資金調達も当たり前になっている。
スタートアップ情報プラットフォーム「INITIAL」は、今年2月に2021年の国内スタートアップ資金調達状況をまとめた「Japan Startup Finance 2021』」公開したが、スタートアップ企業の資金調達額は前年比46%増の7801億円だった。さらに後から判明するデータもあるため、実態としては少なくとも8500億円程度になるという。 今や1兆円に迫る勢いなのだ。コロナ禍によって企業は必然的にDX化、デジタル化をせざるを得ない環境になり、これに対応した事業を手掛けるスタートアップ企業が注目を集め、資金を調達しやすくなったことも、金額が増えた要因の1つだ。
新興企業の成長を最も妨げるものは?
もちろん政府に資金調達を支援してもらえれば、それに越したことはないし、支援が必要なスタートアップ企業もあるだろう。だが、彼らにとって一番の課題はそこではない。スタートアップ企業の成長を何よりも妨げているものは、彼らを取り巻くさまざまな“規制”である。
スタートアップ企業のようなベンチャーが、これまでの想定を超える事業やサービスを社会に普及させようとするとき、従来の規制が立ちはだかることがある。例えば今年1月からようやく全面解禁となった初診からのオンライン診療は、医療費抑制のためにも以前からその必要性が叫ばれてきたが、これに長らく反対していたのが日本医師会。言うまでもなく、同会は自民党の有力支持団体である。
また、フィンテック産業の成長がわが国で遅れているのも、旧来の金融業界を守るための業法や規制によるところが大きい。規制緩和というアクセルを踏みつつ、規制強化というブレーキを踏んできたのが、これまでの自民党政治ではなかったのか。
スタートアップ企業の資金調達を支援するのは決して間違ってはいないが、問題の本質を見誤ってしまうと単に大臣ポストが増えて政治家が喜んだだけ、という結果になりかねない。