三菱商事と三井物産は2日、両社が権益を持つ、ロシア極東の石油・天然ガス事業「サハリン2」の資産価値を減額すると発表した。サハリン2の資産価値について、三菱商事は811億円、三井物産は1366億円引き下げた。
サハリン2については、ロシアのプーチン大統領が6月30日に運営会社をロシア法人に移管する大統領令にサインしている。言うまでもなく、ウクライナ侵攻への制裁対抗措置として、ロシアが事実上「サハリン2」を接収すべく動きを強めていることが背景にある。
オーストラリア行政機関、政府に輸出制限を提言
ロシアのプーチン大統領は6月30日、サハリン2の運営会社をロシア法人に移管する大統領令にサインした。そしてロシア政府は今月4日、サハリン2の運営を引き継ぐロシア法人をサハリン州の州都・ユジノサハリンスクに設立することを発表したが、いつ設立されるかはまだ明らかになっていない。設立された新会社のもと、三菱商事と三井物産がサハリン2の権益を維持できるかは、ロシア政府、というよりプーチン大統領の考え次第のため、まったく不透明だ。
両社がサハリン2の権益を維持できずに、ロシアから液化天然ガス(LNG)の輸出がストップしてしまう可能性も十分あるだろう。両社の決算短信によると、今後、サハリン2の権益が確保できるか不明な点を資産価値減額の理由に挙げている。
そうした中、日本のエネルギー需給にとって「二重の危機」に繋がりかねないニュースが飛び込んできた。オーストラリアの公正取引委員会にあたる「オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)」が、2023年に国内の天然ガス需要の1割が不足する見通しだとして、政府に輸出を制限することを提言したのだ。
オーストラリアは世界有数のLNG輸出国だが、オーストラリア南東部にある国内向けガス田の生産が減少する一方で、石炭火力発電所の老朽化などにより、ガス火力発電の需要増が見込まれている。ACCCとしては、「LNGの国内需要が高まる中、輸出している場合ではない。まず国内で使う分を確保してくれ」といったところだろう。
オーストラリア政府がこの提言を受けて、実際にLNGの輸出規制に乗り出すかは今のところ不透明だが、輸出規制に踏み切った場合、日本への影響は避けられない。
LNG輸入量の約40%、オーストラリアに依存
それは、日本がLNGの多くをオーストラリアからの輸入に頼っているからだ。財務省貿易統計によると、2019年の日本のLNG輸入量は7650万トン。そのうち、オーストラリアからの輸入量は2997万トンに上る。LNG輸入量の実に約40%がオーストラリアからの輸入だ。対して、サハリン2のあるロシアからの輸入量は631万トン。全体の8%ほどに過ぎない。影響としてはオーストラリアの方がはるかに大きい。
もしロシアからもオーストラリアからもLNGを輸入できない「LNGのダブルパンチ」が起こったら、日本はどう対応すればいいのか。EUのように15%の「節ガス要請」でもするしかないのか。しかし実は、岸田首相はどう対応すればいいかわかっているのではないかという節がある。
今年4月、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」に出演した際、岸田首相は「原発を1基動かすことができれば、世界のLNG市場に年間100万トンを新たに供給する効果がある」と述べているのだ。岸田首相は、もはやお得意の「検討」を繰り返している場合ではないことは自身でもわかっているのではないか。また、そうでなければ困る。