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 世の中には「珍車」と呼ばれるクルマがある。名車と呼ばれてもおかしくない強烈な個性を持っていたものの、あまりにも個性がブッ飛びすぎていたがゆえに、「珍」に分類されることになったクルマだ。

 そんなクルマたちを温故知新してみようじゃないか。ベテラン自動車評論家の清水草一が、往時の体験を振り返りながら、その魅力を語る尽くす当連載。今回は、過去にルノーが販売したカーマニアもびっくりの珍車たちをまとめて3台ご紹介する。

文/清水草一
写真/ルノージャポン

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■日本で愛される変態モデルを多く生み出すルノー

 日本におけるルノーと言えば、カングー、そしてメガーヌR.S.に代表されるとんがったスポーツモデルが2大勢力だ。どちらも日本のファンに長く愛され、一種のブランドになっている。

 が、ルノーには、もうひとつの「顔」がある。それは、超不人気の変態モデルたちである。正確に記すと、「一般的には超不人気ながら、変態的すぎて、ごくごく一部の変態に深く愛されたモデル」が存在した。それらの中から3台を選出させていただきました!

■超ブッ飛んだ奇襲攻撃的高級モデル 『ルノー アヴァンタイム』

5名乗車の3ドアクーペで未来的デザインのアヴァンタイムは、2002年から日本に導入されている

 アヴァンタイムの変態ぶりは、もはや伝説となっている。なにしろ、ミニバンみたいなカッコなのに、2ドアハードトップクーペなのだから!

 見た目は、SF映画の中に登場する未来のクルマそのもの。空を飛んで当然というたたずまいだ。フロント部は、ボンネットとフロントウィンドウの傾斜角がほとんど一直線。つまりランボルギーニ・カウンタックである。見切りは絶望的だ。

 さらにステキなのはリアで、ほぼ直立したリアウインドウの後部に、ちょこんとトランク部(?)がついている。この出っ張った部分がトランクなのかな? と思いきや、直立したガラス部ごとガバッと開くリアゲートになっている。よって、後席(注/3列目はないので2列目です)を前に倒せば、大きな荷物も積み込める。まぁ全長4660mmもあるので当たり前ですが。

 ドアは前述のように2枚。これが長くて重い。あまりにも長くて重くて開閉が大変なので、ルノーは変態的な工夫をしてくれた。複雑なヒンジ構造を採用して、ドアを開くと、ドア前部も外側に出るのだ。しかしそれで「わぁ、便利!」という歓声は上がらない。

 やっぱりドアが長いので開閉には気を使うし、クーペなので前席を前に倒さないと後席の乗り降りはできない。しかも全長の長さからは考えられないほど、後席の足元は狭かった。なんじゃこりゃ……。

 エンジンは2.9L V6。ミッションは5速AT。重いボディをごく普通に走らせるのみである。長大なハードトップボディゆえ、ボディ剛性はあまり高いとは言えず、操縦性はクーペよりミニバンに近かった。

 アヴァンタイムには「カブリオレ」としての顔もあった。前席天井中央部に設けられた「オープンエア」スイッチを押すと、ダブルサンルーフの前側の大きなスライドガラスとサイドウィンドウが、全部ガバッと開くのだ。サイドウィンドウが全開になると、ピラーがないだけにものすごい開放感!

 ただ、これを実行すると、車内はすさまじい暴風に見舞われる。通常のカブリオレをはるかに超える暴風だ。ボディ後部はオープンにならず、風が抜けないので、60km/hも出すと風が車内で竜巻と化し、すべての物を車外に放出しようとするのだ! 私は「オープンエア」状態のアヴァンタイムの車内で、ドリフの長さん(故・いかりや長介さん)のように「だめだこりゃ……」とつぶやくしかなかった。

 アヴァンタイムは、高級車の分野で後退を続けていたルノーが、「ならばこれでどうだ!」と、超ブッ飛んだ奇襲攻撃をかけたクルマだった。価格は500万円。20年前当時としてはかなりのお値段だったし、あまりにも奇襲攻撃すぎて、変態以外には理解不能。たったの2年で生産を終えた。日本では、わずか200台ほどが売れたのみだった。

 これだけの珍車だから、オーナーは独特の優越感に浸っただろう。ただ、一度でも試乗したことのある者は、あまり羨ましいとは思わない……ような気がする。

■「左ハンドルのMTのみ」で導入という英断に感服! 『ルノー ウインド』

2011年から2013年まで日本で販売されたコンパクトなクーペロードスター「ウインド」

 ウインドは、トゥインゴをベースに作られた2シーターオープンである。こう書くと「まぁオシャレ!」という感じになるが、ヤリスをベースに作られた2シーターオープンがあったらどう感じるだろう? 「まぁ変態!」となるのではないだろうか。

 オープン機構は極めてシンプルだ。リーフがリアピラーを支点にくるっと回転して、開いたトランクにスポッと収納される。

 ただ、フロントウィンドウが覆いかぶさるように伸びている上に、ウエストラインが高く、しかもオープンにしてもリアピラー(?)とリアウィンドウが残るので、開放感は低かった。正直、頭の真上が開くだけという感じで、天気のいい日はただ暑いだけだったりする。そのぶん冬のオープンは露天風呂気分で快適なのだろう(想像)。

 ウインドは、左ハンドルの5速MTだけが導入された。需要の小さい変態モデルゆえ、右ハンドル仕様は生産されなかったのだ。こんな変態的なマニアック車を、左ハンMTのまま日本で売ってくれたルノー・ジャポンには感謝しかない。

 感謝しかないが、正直、あまり楽しいクルマには感じなかった。見た目は到底カッコいいとは言えないユニークさだったし、走りも、なぜかトゥインゴRSのほうが全然よかったので……。メカ的には同じはずなのに不思議だが、走っていると、ただただキワモノ気分に満たされた。周囲の視線も「へんなのが走ってるなぁ」という感じで、羨望の視線はありませんでした。

■オープンエアを満喫できるカングーって? 『ルノー カングー ビボップ』

2代目カングーをベースに開閉式グラスルーフを備えたカングー ビボップは2010年に日本で販売された

 ルノーはなぜ、こんなに変態モデルが好きなのだろう。これも正直、私にはまったく理解不能だった。私はこれでもかなりのクルマ変態ですが、変態をして「変態すぎて理解不能!」と言わしめるのだから、尊敬するしかない。

「ルノー カングー ビボップ」。それは第2世代「カングー」の3ドア・ショートホイールベースバージョンだ。定員は4名。後席は2座独立型となっている。

 ビボップのハイライトは、この後席にある。スライディングルーフとワンタッチ開閉テールゲートグラスによって、後席のみ、オープンカーさながらの開放感を得られるのだ!(またかよ……)

 実際にオープン状態の後席に座ってみましたが、それはなんとも微妙だった。確かに開放感はあるが、開くのは頭の上から後ろだけなので、「後頭部がスースーするなぁ」にとどまった。後ろ向きに座れればよかったんだが。

 しかも、乗り心地がキツイ。さすがショートホイールベースだけあって、後輪からの突き上げがモロに来る。遊園地のアトラクション気分と言えば聞こえはいいが、快適とは言い難く、オープンカー的な優越感とも無縁。そこにあるのは、凄まじいばかりのキワモノ感だった! クルマ変態をして、「これ、誰が買うんだろう」とつぶやくしかなかったのである。

 ああ、すばらしきかなルノーの変態軍団よ!

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