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 ドラえもんのタケコプターで友達と空を飛ぶのび太たちの姿を見て、一度は同じように空を飛んでみたいと思ったことないだろうか。

 実はそんな近未来の世界がすぐそこまでやってきている。

「未来社会の実験場」をコンセプトに、2025年4月13日から10月13日までの184日間にわたって開催される「日本国際博覧会(大阪・関西万博)」で、「空飛ぶクルマ」が本格導入される方針が明らかになったからだ。

 関西空港や神戸空港などと万博の会場となる大阪市の人工島「夢洲(ゆめしま)」を「空飛ぶクルマ」でつなぎ、来場客を輸送する構想などが検討されているという。

 経済産業省(次世代空モビリティ―政策室)は「万博を契機に空飛ぶクルマを全国に普及させていきたい」と語っている。すでにANAホールディングスや日本航空が参加に強い関心を示しているほか、日本のスタートアップ企業の「スカイドライブ(本社愛知県豊田市)」は大阪府・市と提携。さらにスカイドライブと近鉄グループや南海鉄道も提携、「空飛ぶクルマ」の事業参入に関心を寄せている。

文/松崎隆司、写真/HONDA、AdobeStock(アイキャッチ写真は@3D motion)

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■ヘリコプターの10分の1の価格で実現

「空飛ぶクルマ」の正式名称は「eVTOL(電動垂直離着陸機)」。飛行機が高度1万2000~1万3000mの空域、ヘリコプターが4600mの空域を飛ぶのに対して、「空飛ぶクルマ」はこれまでまったく使われてこなかった300~600mの空域を飛ぶことから、「空の産業革命」と呼ばれている。

ホンダが開発する「Honda eVTOL」。航空機やヘリコプターに比べると安価だというところがポイント

 基本構造はドローンと同じように電動モーターによって複数のローターを回して垂直離着陸や飛行を行う小型ヘリコプターのようなものだが、電動モーターで可動するので安全で音も静か、量産化が実現すればヘリコプターの10の1程度の価格で販売することができるようになるという。

「ヘリコプターが駆動するためには2台のガスタービンエンジンを取り付けなければなりません。一台が止まってしまった場合には、予備のエンジンで駆動できるようにしなければならないからです。そのためヘリ一台が数億円、メンテナンスでも年間数億円かかってしまいます。一方で空飛ぶクルマはバッテリーモーターを使用してローターを回すシンプルな構造で、機体価格は劇的に下がりますし、メンテナンス費用も少なくて済みます」

 千葉県の幕張メッセで6月21~23日に開催された「ジャパンドローン2022」を主催する日本UAS産業振興協議会理事長で東京大学未来ビジョン研究センター特任教授の鈴木真二氏はこう語る。

 用途としては都市間移動や都市、ローカル間など、短中距離の移動手段として期待され、全世界で約200の企業、団体が開発に取り組んでいる。

 すでに米国、中国、日本、ドイツなどを拠点に開発が進み、エアバス、ボーイング、ポルシェ、ロールスロイスなど世界中の航空会社や自動車メーカー、スタートアップ企業などが開発にしのぎを削っている。

 日本の自動車業界でも「空飛ぶクルマ」への関心は高い。トヨタは2020年1月に米国のスタートアップ企業、ジョビー・アビエーションに3億9400万ドル(約430億円)を出資、生産技術や電動化のノウハウをジョビー・アビエーションに供与。スズキは22年3月にスカイドライブと提携、機体開発や量産化を協業し、インドを中心とした海外市場の開拓を進めていくという。

 そのような中で独自での「空飛ぶクルマ」の開発に動き出しているのが本田技研工業(ホンダ)だ。

■ホンダが持つさまざまな技術が転用可能

 ホンダと本田技術研究所は2021年9月30日、新技術の一部を公開。ここで目玉となったのが空飛ぶクルマ「Honda eVTOL」の開発だった。本田技術研究所の大津啓司社長は「既存のコア技術を重ね合わせることで、新しい技術や商品を実現し、新たな領域に事業を拡大していきたい」と語っている。

ホンダ製の「空飛ぶクルマ」は、これまで開発してきたホンダのさまざまな技術が転用可能であり、さまざなま分野を結ぶ「モビリティエコシステム」の構築を狙うという。この「空の革命」で主導権を握るのは誰か

 ホンダが開発中のeVTOLは垂直離着陸用の8つの電動ローターと推進用の2つの電動ローターが設置され、定員4人が想定されているという。

 キャビンは乗員の快適さを重視し広く設計されている。ちょうどホンダ車と同じくらいのヘッドクリアランスだという。

 航続距離で約400㎞、最高速度は270㎞/h以上、巡航高度は6000~1万フィート、積載重量は400㎏以上を目指している。

 ホンダが垂直離着陸用ローターと推進用ローターを分けたのには理由がある。

 ローターの角度を可変させることで垂直離着陸と推進機能を統合したティルトローターは燃費の面では有利だが、いったん事故が起こってしまうと、他の機能で補うことが難しい。

 垂直離着陸と推進用のローターを分けたことで緊急時の余力を確保。機体にはタンデムウイング(2枚翼)が採用され、巡航時の消費エネルギーを最小化し、プロペラが停止した場合に飛行機のように滑走路への緊急着陸できるよう設計、旅客機と同等の安全性を実現しようとしている。

 それだけではない。マルチローターを採用したことでローターの小径化を可能にし、ヘリコプターと比較しても音が静かで、乗員はもちろん離着陸時や飛行時の周辺環境への影響も最小限に抑えることができる構造となっている。

 そして他社のeVTOLにはない特徴として挙げられるのが航続距離を大きく伸ばすことのできる「ガスタービン・ハイブリッド・パワーユニット」を採用するという点だ。これはガスタービンエンジンで発電し、発電した電気でローターを駆動するという「シリーズ(直列)ハイブリッド方式」のモーターだ。

 バッテリーに蓄えられたエネルギーだけで飛行する他社のeVTOLは100㎞前後の飛行距離で、都市近郊でのタクシーのような短距離での使用を想定しているのに対して、ハイブリットを採用したホンダのeVTOLは都市間移動をカバーする中距離での使用を想定し、400㎞の航続距離の飛行が可能だという。

 ではなぜホンダは航続距離の延伸を可能にできるのか。

■航空機、F1、ハイブリッド…

 ホンダには小型航空機「Honda Jet」の開発の経験とそこで培われた技術があるからだという。航空機の機体とエンジンの両方で米国連邦航空局(FAA)の認定を受けているのは世界の中でもホンダだけだ。

ホンダ三部敏宏社長が就任半年後に「新領域」への挑戦を発表。「空飛ぶクルマ」はその一環となる。三部社長は「すべてのモビリティにホンダマークをつけたい」というビジョンを語った

「Honda Jet」の開発では軸流式ジェットエンジン「HF120」の量産化に成功している。ここで培われたガスタービンの技術をeVTOLでも活用していくほか、クルマで培われたハイブリッド技術が生かされる。

 それだけではない。eVTOLの開発ではホンダのF1の技術も有形無形の形で注ぎ込まれている。F1のパワーユニット(動力発生装置)技術をeVTOLの超高回転ジェネレーター(発電機)などに取り入れたほか、空力開発のシミュレーション解析技術や設備も活用。速度域や空気流の乱れが旅客機よりもF1に近いため、レースの車体技術もeVTOLに反映させるという。

「Honda Jet」やF1、ハイブリット車、安全運転支援技術など経験したエンジニアをプロジェクトのメンバーとして参加させ、総力あげて開発を進めていくという。

 2023年には米国でプロトタイプの飛行試験を開始、25年にはハイブリットシステムを搭載した機体で航空実験に移行。20年代後半までに米国のFAA(米連邦航空局)での認定取得を完了し、30年代のグローバルでの事業化をイメージしているという。eVTOLの自立飛行が可能となる2050年ごろにはグローバルで、30兆円規模の市場が想定されているという。

 はたしてホンダはどこまでこの新市場に食い込むことができるのか、今後の成り行きが注目される。

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