長年F1を取材しているベテランジャーナリスト、ルイス・バスコンセロス氏が、全20人のドライバーのグランプリウイークエンドの戦いを詳細にチェック、独自の視点でそれぞれを10段階で評価する。今回はハンガリーGPでの戦いぶりを振り返る。
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■評価 10/10:『ドライバー・オブ・ザ・ウイークエンド』はハミルトン
ルイス・ハミルトン(メルセデス):予選7番手/決勝2位
私のなかでの『ドライバー・オブ・ザ・ウイークエンド』は、ルイス・ハミルトン(メルセデス)だった。7度のF1チャンピオンは、予選Q3でDRSトラブルがなければ、ポールポジションを獲得していたかもしれない。トラブルで予選7番手に終わったものの、決勝では驚くべき走りを見せ、3番目の速さしかないマシンで、タイヤを長持ちさせつつ、速さも発揮した。ソフトタイヤでの最終スティントはレジェンドというべき出来で、最後までファステストラップを維持し、実力で2位を勝ち取った。
■評価 9/10:フェルスタッペンが追い越しの難しいコースで10番手から驚きの優勝
マックス・フェルスタッペン(レッドブル):予選10番手/決勝1位
シャルル・ルクレール(フェラーリ):予選3番手/決勝6位
ジョージ・ラッセル(メルセデス):予選1番手/決勝3位
マックス・フェルスタッペン(レッドブル)は、ハンガロリンクでも中位グリッドからスタートして優勝することが可能だということを証明した。最初のふたつのスティントで勝利への足掛かりを築き、彼を含め、誰も予想しなかった結果を出した。予選ではパワーユニットトラブルによりポールポジション争いのチャンスを奪われたが、Q3最初のランでミスを犯していなければ、そこまで悪いグリッドにはならなかっただろう。決勝のターン13で珍しくスピンをする場面もあった。
シャルル・ルクレール(フェラーリ)は予選でのペースが良くなかったために満点はつけなかったが、決勝日の走りは完璧だった。チームの戦略ミスがなければ優勝できていただろう。セカンドスティントでのジョージ・ラッセルからリードを奪った際の動きは見事だった。ライバルよりもブレーキングをかなり遅らせたうえに、しっかりエイペックスをとらえていた。ルクレールは勝利に値する走りをしたのに、またしてもチームから足元をすくわれてしまった。
ジョージ・ラッセル(メルセデス)がF1キャリア初のポールポジションを獲得したのには、誰もが驚いたはずだ。レース前半ではリードを維持し、優勝も可能に見えたが、ミディアムタイヤの最初のセットが予想ほどうまく機能せず、ペースを維持しながらタイヤを持たせることができなかった。結局彼は7番グリッドスタートのハミルトンの後ろに下がってしまった。
■評価 8/10:サインツ、速さはあったが表彰台に届かず
カルロス・サインツ(フェラーリ):予選2番手/決勝4位
ランド・ノリス(マクラーレン):予選4番手/決勝7位
フェルナンド・アロンソ(アルピーヌ):予選6番手/決勝8位
セバスチャン・ベッテル(アストンマーティン):予選18番手/決勝10位
カルロス・サインツ(フェラーリ)は週末のほとんどでチームメイトよりも速く、ポールポジションの有力候補であったが、Q3最後のラップでいくつかミスをしたことが響いた。日曜ではルクレールほどの速さがなく、チームによってピットストップを通してチームメイトの後ろに下げられて、長いセカンドスティントを走らされた。それでも少なくとも最終スティントでチームにハードタイヤを履かされることはなかったために、ルクレールより前でフィニッシュすることができた。しかしラッセルを抜けず、フェラーリにとっては一台も表彰台に送り込めないという最悪の一日になった。
ランド・ノリス(マクラーレン)は予選のスターのひとりだった。またしても魔法のような走りを見せたのだ。決勝ではほぼ同等の競争力のマシンで2台のアルピーヌの前を走り続け、ひとりで彼らふたり分のポイントを稼いだ。
フェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)は珍しく予選でエステバン・オコンに敗れた。決勝前半はチームメイトの後ろでフラストレーションの溜まる時間を過ごし、ふたりで激しく戦っていたことでダニエル・リカルドに抜かれてしまった。その後、アロンソはオコンの前に出ることを許されて前のマシンを追ったが、つかまえることができなかった。
セバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)は、FP3でクラッシュし、予選ではQ1落ちと、不調だったが、レースでは本来の力を発揮した。クレバーな戦略のおかげもあり、大きく順位を上げていったのだ。またもやチームメイトにひどいブロックをされて、今回は接触も起きてしまったが、最終的にベッテルは前に出ることを許された。あと2周あれば、ひとつ順位を上げることができただろう。
■評価 7/10:絶望的に遅かったペレスは、決勝で挽回
エステバン・オコン(アルピーヌ):予選5番手/決勝9位
バルテリ・ボッタス(アルファロメオ):予選8番手/決勝20位(リタイア)
セルジオ・ペレス(レッドブル):予選11番手/決勝5位
エステバン・オコン(アルピーヌ)にとって今回最高の瞬間は、予選でアロンソに勝ったことだろう。だが決勝での彼は、とにかくチームメイトの前にとどまりたいということしか考えていないように見えた。何度か強引な動きを見せて、アロンソを怒らせ、ピットウォールを心配させた。タイヤのデグラデーションが高かったために、アロンソを前に出した。アロンソはポジションアップを目指したが、かなわず、オコンにポジションを返すこともしなかった……。
マシンのアップグレードを得たバルテリ・ボッタス(アルファロメオ)は、予選ではチームの期待どおりの8番手という堅実な結果を達成した。しかし1回ストップでは必須の好スタートを決めることができず、この日、誰も速さを引き出せなかったハードタイヤで走り続けたことで浮上できないまま、再びトラブルに見舞われ、残り3周でリタイアしなければならなかった。
セルジオ・ペレス(レッドブル)はプラクティスと予選では絶望的なほど遅く、優勝する力を持ったマシンに乗りながら、Q2で敗退してしまった。しかし決勝の1周目でポジションを上げ、堅実な走りをしたことで、最悪の週末になることは免れた。サインツを抜くことはできなかったが、終盤に追加のピットストップを行ったルクレールの前の位置を守り切り、チームに貢献した。
■評価 6/10:予選は大失敗だったが、決勝で何とか持ち直したガスリー
ランス・ストロール(アストンマーティン):予選14番手/決勝11位
ダニエル・リカルド(マクラーレン):予選9番手/決勝15位
ピエール・ガスリー(アルファタウリ):予選19番手/決勝12位
周冠宇(アルファロメオ):予選12番手/決勝13位
ランス・ストロール(アストンマーティン)は、今回はチームメイトとの10位争いに敗れた。接触が起きた後、ストロールはベッテルを前に出したのだ。予選では久しぶりにQ2に進出したが、レースペースではチームメイトにおよばなかった。
レースでのダニエル・リカルド(マクラーレン)は痛々しかった。チームメイトよりもはるかに遅く、タイヤのデグラデーションもひどかった。予選はうまくいっていた。Q2の終わりまではノリスに近い速さを見せ、Q3に進出したのだ。決勝ではアルピーヌのふたりの内輪争いに乗じて2台をパスした場面も、この週末の彼にとってのハイライトのひとつだった。ただ、ブレーキングでミスをしてストロールにヒットし、5秒ペナルティを受けたのはいただけなかった。
ピエール・ガスリー(アルファタウリ)は、チームの責任もあり予選では失敗したが、決勝で良い走りを見せた。マシンのセットアップをモディファイして臨み、ポジションを上げていったのだ。だが残念ながらポイントには届かなかった。
新しいフロアを使えなかったものの、周冠宇(アルファロメオ)は予選で素晴らしい走りをした。だがチームメイトと同様に、スタートで大きくポジションを落とし(なんと5つもだ)、ポイント争いには持ち込めなかった。彼もボッタスと同じく1回ストップの計画でハードタイヤを装着、結局後になって2回目のピットストップを行ったが、事態は好転しなかった。
■評価 5/10:苦しいレースとなった角田裕毅
角田裕毅(アルファタウリ):予選16番手/決勝19位
ケビン・マグヌッセン(ハース):予選13番手/決勝16位
ミック・シューマッハー(ハース):予選15番手/決勝14位
アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ):予選17番手/決勝17位
ニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ):予選20番手/決勝18位
角田裕毅(アルファタウリ)は予選ではガスリーよりも良い仕事をしたが、チームが土曜日に選んだセットアップの影響で、決勝中、チームメイトのようにポジションを上げていくことができなかった。また、タイヤデグラデーションにも苦しみ、アウトラップでのスピンもあり、良いレースとはいえなかった。
ハースのふたりはこの週末、精彩を欠いていた。経験豊かなケビン・マグヌッセン(ハース)は、大規模なアップデートが入れられたシャシーを使っていたが、エンドプレートにダメージを負ったことで厳しくブラック&オレンジフラッグが示され、ポイント獲得のかすかな可能性も消えてしまった。
アップデートなしのミック・シューマッハー(ハース)は、予選でQ2に進んだ後、Q1の自分のタイムを更新できずに終わった。決勝では素晴らしいスタートで、3つポジションを上げ、ファーストスティントを通してボッタスを抑えきったが、1回目のピットストップ後、ポジションを落とし、14位完走にとどまった。
ウイリアムズにとって良い週末ではなかった。アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)は決勝序盤にベッテルのマシンに接触、緊急ピットストップが必要となり、最後尾に落ちてしまい、挽回することができなかった。
ニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)がFP3でトップタイムを出したのには驚いた。予選では最終コーナーで愚かなミスをしなければ、余裕でQ2に進んでいただろう。しかしレースペースは非常に遅かった。