伝統的な紙のマンガは、本のページを開いて読むことを前提とした「コマ割り」「見開き」といった表現スタイルが一般的です。
これに対し日本のデジタル出版では、携帯電話(フィーチャーフォン)のパケット定額プランが登場した2003年以降に[40]いわゆる「ケータイコミック」が一世を風靡します[41]。
当時の携帯電話の低解像度で小さな画面は、マンガをページ単位で表示するのが難しかったことから、コマ単位に分割して1コマずつ表示する手法が生み出されます。
「コマ売り」「話作品」などとも呼ばれ、いまでも一部の電子書店では購入可能です[42]。
同時期に韓国では、アマチュア作家などを中心に、最初からウェブで公開することを前提とし、コマ割りを用いず、マンガ的な絵と短いナレーションのみで表現する手法が発達していきます[43]。
ただ、大ゴマや見開きなどインパクトの強い表現手法が使えないこともあり、当初はストーリーマンガではなく、ささやかな日常生活を描く短いエピソードマンガが多かったそうです。
スマートフォンが急激に普及し始めた2010年以降、日本のケータイ向け市場は「スマホシフト」で縮小し、紙のレプリカであるページマンガのデジタル市場が急拡大していきます。
韓国の縦スクロールマンガは、2011年にネイバージャパンが日本への展開を開始するなどの先行事例もありますが[44]、
一般に普及し始めたのは2013年にサービスを開始したNHN PlayArt(当時)[45]の「comico」がきっかけでした[46]。
comicoは、コマ割りのない縦スクロール&フルカラーのオリジナル作品をアプリで週刊連載するスタイルで、
広告なしの無料配信によって作品の認知を広げ、単行本の販売やIPビジネスによって収益を得るモデルでした[47]。
代表作には夜宵草『ReLIFE』が挙げられます。単行本化にはページレイアウト&コマ割りへの再構成作業が必須であり、収益化のハードルが高くなっていました[48]。
このため、2016年11月から一部を有料化するなど、ビジネスモデルの転換を余儀なくされています。
韓国型縦スクロールマンガと日本型ページめくりマンガは異なる表現メディア ―― デジタル出版論 第3章 第5節
https://hon.jp/news/1.0/0/36447
引用元: ・韓国発祥の縦スクロール式漫画が世界を席巻へ 「見開きをめくる日本式漫画とはもはや別物」 [323057825]
>>1
入れ替わるように登場したのが、カカオジャパン(当時)[49]の「ピッコマ」です。
23時間待てば無料で次の1話が読める「待てば¥0」(つまり待てないなら有料)などの施策が当たり、急成長していきます。
2019年3月に連載を開始した『俺だけレベルアップな件』のヒットなどにより縦スクロールマンガ[50]の売上も急激に伸び、
作品数の割合では数パーセントなのに「売上を見ると50:50」というレベルにまで至っています[51]。
そろそろ縦スクロールマンガだけでも収益化が図れるようになってきたかもしれません。
カカオジャパン(当時)は、2021年5月に香港系投資ファンドから600億円を調達、企業価値が8000億円超と評価されました[52]。
縦スクロールマンガはグローバル展開のしやすさが期待されており、2028年には世界市場が262億1359万ドル(本稿執筆時点の為替レートで約3兆5450億円)に達するという予測もあります[53]。
このトレンドに乗り遅れるなと言わんばかりに、日本でもさまざまな業界から新規参入が相次いでおり、カオスな状況になっています。
今の段階で筆者が言えることは、韓国型の縦スクロールマンガと日本型のページめくりマンガは、
同じ「マンガ」と呼ばれていても異なる表現メディアとして捉えたほうがよい、ということです。
絵と文字を用いた表現手法という大枠は同じですが、縦長表示のディスプレイに最適化された縦スクロールマンガと、
ページを開いた状態(見開き)では横長表示になることを前提とした紙のレプリカマンガとでは、性質が自ずと異なります。
個人的に、縦スクロールマンガの性質は、かつての「ケータイコミック」と似ているように感じています。
縦スクロールマンガ向けに制作された作品を、ページめくりマンガ向けにするには、再構成作業が必須です。
同じように、ページめくりマンガ向けに制作された作品を、縦スクロールマンガ向けにするには、やはり再構成作業が必須です。
小説のアニメ化、コミックのアニメ化、小説のコミカライズ、コミックのノベライズなどと同じように、
縦スクロールマンガもいずれはメディアミックス展開の一つを占めるようになることでしょう。
無駄にでかいコマ
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