米政府関係者がオランダの半導体製造装置メーカーASMLに対して、主要装置を中国に販売することを禁止するよう、オランダ政府に働きかけていると報じられている。
この試みが成功すれば、中国が世界的な半導体生産国になろうとする取り組みに大きな打撃を与え、製造強国をめざす「メイド・イン・チャイナ2025」計画を阻止することにもなるだろう。
米Bloombergの報道によれば、米政府側はASMLに旧式の深紫外線(DUV)露光装置を販売できないようにする制限を提案しているそうだ。旧式とはいってもDUVは、PCやサーバー、モバイル電子機器、自動車、ロボットなどに必要な汎用半導体の製造に今も広く使われている。
すでに米国は、米国企業の開発した先端技術を利用することを禁じる「エンティティーリスト」に一部の中国企業を追加している。2020年にはファーウェイや関連企業への輸出管理を強化し、同社のチップ部門であるHiSiliconを廃業寸前にまで追い込んでいる。
米政府の意向を受けて、すでにオランダ政府はASMLに最先端の極端紫外線(EUV)露光装置の輸出を禁じている。これら半導体製造の主要装置はノウハウの塊であり、中国内での独自開発は不可能に近いだろう。
一方でオランダ政府を説得し、中国企業への露光装置の販売を完全に禁止させることは、容易ではないと思われる。Hua Hong、SMIC、YMTCなどの地元企業、あるいはTSMCやサムスン、SK Hynixなど国際的な企業が運営する中国工場への売上は、2021年のASMLの収益における約16%を占めているからだ。
米国が中国のチップ産業育成を足止めする手段は、ASMLへの働きかけだけではない。半導体工場ではアプライドマテリアルズやKLA、ラムリサーチなど多数の米国企業によるツールが使われており、中国との協業を禁じるだけで壊滅的な影響を与えられるだろう。
とはいえ、中国企業の半導体製造装置の入手を妨げれば、世界中に影響を及ぼすことになる。たとえばDRAMや3D NANDメモリは、かなりの部分が中国国内で製造されている。またサムスンやSK Hynix、YMTCなどの企業が中国の工場を失えば、世界のチップと電子機器のサプライチェーンもただでは済まないだろう。TSMCやSMIC、Hua Hongによる中国でのレガシーなチップ生産が縮小されれば、半導体不足がさらに悪化する恐れさえある。
Bloombergによれば、米政府は日本に対しても、中国の半導体メーカーへ同様の技術の出荷をやめるよう、圧力をかけることを検討しているそうだ。新型コロナウイルスやロシアのウクライナ侵攻によりサプライチェーンが混乱し、かえって国際的な経済相互依存の関係が浮き彫りとなっているが、米中の緊張関係はその痛みを増すことになるかもしれない。