緻密な制御から生まれる完全無欠の乗り心地
言わずと知れたメルセデスのフラッグシップサルーンであるSクラスは、2021年1月に新型が日本導入された。当初のエンジンはいずれも3L直列6気筒のS500(ガソリン)とS400d(ディーゼル)のみ。歴代の例にならえばもっとハイパフォーマンスなモデルがいずれ追加されることは明白だったが、個人的には直6ディーゼルの、まるで電気モーターかと思わせるような音・振動の少なさや低回転域からトルキーな特性に心を掴まれていて、これ以上なにを望むのかと思っていたほどだ。Sクラスのキャラクターを考えると、エンジンがあまり存在感を主張しすぎず、それでもきっちりと望んだ仕事をしてくれるのが合っているとも思う。今回追加されたS580 4マチック・ロングはまさに最上級のハイパフォーマンスグレードであり、どんなものかと試乗に挑んだ。
【写真12枚】これぞセダンの最高峰、メルセデスベンツS580の詳細を写真で見る
エンジンはガソリンの4L V8ツインターボ。最高出力は503psと圧倒的で最大トルクもS400dと同等の700Nmだからトルキーで、交通の流れにのって走らせるだけなら音・振動が少なく、粛々と走るSクラスらしさがある。モーターとジェネレーターの役割を果たすISGが搭載されていて、駆動アシストは体感できるほどではないものの、アイドリングストップからの再始動やシフトチェンジなどではスムーズさが際立つ。その洗練された振る舞いはISG非搭載のS400d以上だ。
その一方でアクセルを踏み込んでいくと途端にエンジンが存在を主張し始める。4000〜5500rpmは吹け上がりが鋭く、サウンドも官能的で、良くできたマルチシリンダーエンジンの美点を堪能できる。これはディーゼルには出せない味わいだ。普段の走りでは黒子に徹するが、いざアクセルを踏み込めばドライバーを楽しませる二面性を持っている。しかも全域で動的質感が高く上質なのだからうっとりとしてしまう。
パワートレイン以上に圧巻だったのがシャシー性能だ。そもそもSクラスはすべてのグレードでAIRマティックサスペンションが標準装備されることもあって、まるで路面に分厚いカーペットを敷き詰めたかのような極上の乗り心地を披露するが、Eアクティブ・ボディ・コントロールを装備するS580はさらに上をいく。カメラで前方の路面の凹凸を見極めて電子制御ダンパーとエアスプリングをコントロールしているのだ。その効果は明らかで首都高速の目地段差などでは絶妙な足さばきをみせる。衝撃は綺麗に角が丸められて最小限に抑え込むが、だからといってソフトすぎない。しっかりとダンピングが効いているので上下動が後に残らずすっきりともしているのだ。普通はどちらかをとればどちらかが犠牲になるものだが、優しい入力と収束性の良さが見事に両立している。
ドライビングモードをCURVEにするとコーナーではダイナミックカーブ機能が働く。イン側へ傾くことで乗員はロールをほとんど感じることなく安定した姿勢が保てるのだが、動作に違和感はなくハイスピードなコーナリングでの安心感がすさまじく高い。
ブレーキのタッチも素晴らしい。試乗日はウェットだったのだが、タイヤと路面のグリップ状況が手に取るようにわかり、もっと強く踏み込んでもまだ余裕があるなど、きちんと伝わってくる。コントロール性も絶妙。快適で安心感が高いだけではなく、ドライバビリティがとんでもなく高いから、ステアリングを握り続けたくなる。
Sクラスの最上級、いわばトップ・オブ・トップだけあってすべてが完璧なS580 4マチック・ロング。乗り込むほどに感心させられてしまうのだ。
【Specification】メルセデス・ベンツS580 4MATICロング
■全長×全幅×全高=5320×1930×1505mm
■ホイールベース=3215mm
■車両重量=2310kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+ツインターボ/3982cc
■最高出力=503ps(370kW)/5500rpm
■最大トルク=700Nm(71.4kg-m)/2900-4500rpm
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=255/40R20:285/35R20
■車両本体価格(税込)=19,530,000円(参考価格)
■問い合わせ先=メルセデス・ベンツ日本 0120-190-610
写真で見るSクラスヒストリー
初代:W116
1972年登場のW116から正式にSクラスとなる。W108からの大きな変更点は、縦目から横目のヘッドライトを採用した点。
第2世代:W126
1979年に登場し、側面のサッコプレートが特徴で、安全機構としてエアバックやシートベルトプリテンショナーが装備された。
第3世代:W140
1991年に登場。ブラックアウトしたセンターピラーやフラッシュサーフェス構造のドアサッシュなどのデザインが特徴。
第4世代:W220
小さめのラジエターグリルと丸みを帯びたヘッドランプが特徴で、1998年にリリース。ナビゲーションシステムが初導入された。
第5世代:W221
2005年のフランクフルト・ショーでデビュー。先代より気品が高まったデザイン。5.5L V12ツインターボエンジンもラインナップ。
第6世代:W222
2013年に登場。大型グリルとクーペライクな流麗なルーフラインが特徴。マジックボディコントロールがオプションで用意される。
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