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 7月2~3日にスロバキアリンクで争われた2022年ETRCヨーロピアン・トラック・レーシング・チャンピオンシップ第3戦は、王者ノルベルト・キス(レベス・レーシング/マン)が開幕戦から続く連続ポールポジション記録を“6”にまで伸ばすと同時に、週末4戦で3勝を挙げる驚異的強さを継続。また、シリーズは同週末を前にFIA WMSC世界モータースポーツ評議会の承認を受け、2023年からの新たな車両技術規則の導入を表明し、フルEVやハイブリッドでの参戦を解禁することとなった。

 6月末にフランス・パリで開催されたWMSCの会合を経て、FIA内に設置されたトラックレーシング委員会は、持続可能性ロードマップに沿って現行の内燃機関搭載車両に加え、フルEVやハイブリッド方式を採用するレーシングトラックのエントリーを許可する方針を示した。

「代替パワートレインを搭載した車両が、トラックレーシング界のグリッドに参加する道が開かれ、これほど喜ばしくワクワクする瞬間はない」と語るのは、ETRAマネージングディレクターのゲオルグ・フックス。

「我々はFIA技術部門と協力し、同じグリッド上で合成燃料、ハイブリッド、または電気を動力源とするあらゆる技術とエネルギー形態を歓迎するため、エネルギー変換プロセスに取り組むなど技術的準備を進めて来た」と続けるフックス。

 EVに対するモーター出力の上限やバッテリーの搭載量と仕様、さらに内燃機関と協調するハイブリッドの機構や方式など、技術的詳細はまだ未定の部分もあり、そこが「今後の課題」としつつ、フックスはシリーズを支える関係者やファンに対しての“意識改革”もETRCの重要な役割だと考えている。

「より持続可能な技術をグリッド上に取り込むという委員会の承認は、我々の持続可能性変革におけるさらに重要なステップとなる。シリーズの戦略の要は、あらゆる種類のテクノロジーにオープンであると同時に、トラックとモータースポーツのファン、彼らのトラックレースへの情熱に焦点を合わせ続けることだ」

「その感情とポジティブな熱意を通じて我々は独自の立場にあり、この輸送業界の代表者に新しいテクノロジーを示し、カスタマーやエンドユーザーであるプロのトラック運転手の間で持続可能なソリューションの受け入れ態勢をサポートし、その感情を後押ししていくのが使命だ」

 またWMSCではシリーズプロモーターのETRAと協力し、次世代パワーユニットとは別のプロジェクトとして、トラックによる長距離耐久レースのフォーマットを実行する可能性を探っていく、としている。

サッシャ・レンツ(SL Trucksport 30/MAN)と、前人未到シリーズ6冠を誇るヨッヘン・ハーン(Team Hahn Racing/IVECO)を両脇に従え、王者ノルベルト・キス(Révész Racing/MAN)がレース1を制圧
レース2ではPromoter’s Cup登録のジェイミー・アンダーソン(Anderson Racing/MAN)がシリーズ初優勝を達成した

■週末に59ポイントを稼ぎ出したキスが選手権ポイント160点に到達

 こうして始まったスロバキアリンクの週末は、土曜の予選からふたたびチャンピオンが圧倒的なパフォーマンスを見せ、後続を1.1秒以上も突き放してのポールポジションを獲得。そのキスに対し、セッションの早い段階から「誰がチャレンジャーになれるか」が焦点となり、王者に並ぶフロントロウにサッシャ・レンツ(SLトラックスポーツ30/マン)、2列目に前人未到のシリーズ6冠を誇るヨッヘン・ハーン(チーム・ハーン・レーシング/イベコ)、2017年王者アダム・ラッコ(バギラーZMレーシング/フレートライナー)と、いつもの顔ぶれが続くグリッドとなった。

 迎えたレース1もオープニングラップこそ2番手レンツがポールシッターのテールに喰い下がったものの、コントロールラインを過ぎると“牽引が外れた”かのようにキスがスパート。残る7周で8秒のマージンを築いた王者の完勝で、最終的にグリッド位置そのままのポディウムとなった。

 続くレース2はリバースポールの優位を活かしたプロモーターズカップ登録のジェイミー・アンダーソン(アンダーソン・レーシング/マン)に対し、後続の実力者たちがどこまで迫れるかの展開となり、序盤戦はアントニオ・アルバセテ(Tスポーツ・ベルナウ/マン)がテール・トゥ・ノーズで迫り、先頭走者のミスを誘発するべくプレッシャーを掛けていく。

 しかし、この正念場を落ち着いて乗り越えたアンダーソンは、終盤に向け3秒のマージンを構築。すると8番手発進だったチャンピオンが別次元の速さでフィールドを駆け上がり、レンツとシュテフィ・ハルム(チーム・シュバーベントラック/イベコ)を華麗に仕留め、2番手のアルバセテに迫っていく。

 残り3周でサイド・バイ・サイドとなった勝負は、ほとんど2台が張り付いた状態で1周を走破すると、最終コーナーで合わせたキスがオーバーテイク。これでチャンピオンが残り2周からの首位追撃態勢に入る。

 このラップでみるみる3秒のギャップが削り取られたアンダーソンは、ファイナルラップ突入でキスからフェンダーを突かれる状況となるも、わずか0.197秒差でポジションを守り抜きチェッカー。絶対王者を従えて自身初のオーバーオール、総合優勝を手にすることとなった。

 しかし、スロバキアリンクでのドラマはこの土曜までとなり、明けた日曜は再びの“キス劇場”となり、レース3もポール・トゥ・ウインを決めたハンガリー出身のチャンピオンがキャリア通算70勝目をマーク。

 リバースのレース4も前日の借りを返すとばかりに8番グリッドから大逆転劇を決め、週末59ポイントを稼ぎ出したキスは160点に到達。ランク2位のレンツは128点、同3位のハーンは115点と、早くも独走体制に入った。続く2022年のETRC第4戦は7月16~17日にトラックレーシングの“聖地”ドイツ・ニュルブルクリンクで争われる。

レース4ではアンドレ・クルシム(Don’t Touch Racing/IVECO)が粘りの3位表彰台に
続く2022年のETRC第4戦は7月16~17日にトラックレーシングの”聖地”ドイツ・ニュルブルクリンクで争われる