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亡くなった多田洋祐さん(ツイッターより)

転職サイト「ビズリーチ」の運営会社(東京都渋谷区)社長の多田洋祐氏が今月2日に急性心不全で亡くなっていたことがわかった。同社の持ち株会社ビジョナルが6日夜、明らかにした。お別れの会を後日予定している。

後継人事は同日付で、ビズリーチ社副社長の酒井哲也氏が社長に昇格し、新設した会長職に創業者でもあるビジョナル社長の南壮一郎氏が就任した。

突然の訃報に衝撃広がる

多田さんの訃報は昨晩、南さんのフェイスブック投稿で知った。筆者個人はプライベートでの付き合いこそなかったが、多田さんとは後述するようなお付き合いがあり、あまりにも早すぎる死に衝撃を受けた。南さんの投稿には彼の楽天球団時代の上司、ヤフー社長の小澤隆生さんも「とにかく悲しい。こんなに悲しいことはないです。ただただ、悲しいです」と悲痛なコメントを寄せていた。

南さんの投稿によると、2日に高校時代の友人と出かけたゴルフのプレー中に突然倒れ、そのまま帰らぬ人となったという。生まれつき心臓の持病があったようだ。

昨年4月の上場に際して、ビズリーチ社は持ち株会社ビジョナルが統括する現行体制に移行。南さんは近年、祖業の転職サイト事業から、M&Aのマッチングなどの新規事業開発に軸足を移し、多田さんがビズリーチ事業などの株式会社ビズリーチを統括していた。

多田さんも南さんもサッカー少年。自他ともに「ゼロからイチにするのが好き」な南さんが前線をえぐるストライカーのように大胆な挑戦を続けられるのは、多田さんがボランチのように攻守のバランスを取り、“2代目”として、祖業のビズリーチをしっかりハンドリングできているからこそだった。多田さんの急死は、南さんにとって文字通り右腕を突然もぎ取られたような思いだったのではないか。

創業時からビジネスメディアで数多く露出してきたビジョナルだが、近年は「顔」である南さんに代わり、多田さんが登場することも多くなっていた。

直近では先月中旬、「財界」の取材に応じ、「企業に依存せず、自律的にキャリアを形成する必要があると感じている人が『ビズリーチ』のアンケートでは9割を超えています」と述べるなど、人々の働く意識や労働市場がどう変わっているのかを説明していた。

昨年9月も毎日新聞の取材には、「情報があふれ、選択肢が多いからこそ、自分らしいキャリアとは何かを主体的に考える必要性が高まった」との認識を示した上で、「今や、ある会社に入ることがキャリアを決めることではありませんし、会社が自分のキャリア形成まで考えてくれるわけでもありません。つまり会社がキャリアを決めてくれる時代は過ぎ去りました」と、個人が主体的にキャリア形成することの重要性を述べていた。実務家の“有識者”としてもメディア側が注目する存在になりつつあった。

ビジョナル社サイトより

次女のダウン症公表

多田さんにはもうひとつ違う面で、社会的に注目されていた。2人の幼い女の子の父親としての顔だ。今年で2歳になる次女がダウン症であることをSNSで公表した。生まれた直後、ダウン症であることが判明した時には夫婦ともに泣き通しだったというが、NICUでの治療を経て成長する我が子の姿を見て、「本人がこんなに力強く生きようとしているのに、自分は何を悲しんでいるのか」と思い直した。

公表してからはダウン症の子どもを持つ親や友人からさまざまな情報や励ましの声が届くようになり、今度は逆に自分たちが発信することで誰かを救いたいという思いだったことを、会社の公式ブログで明らかにしている。

ブログを綴った元日経記者の自社社員の取材に対し、多田さんは「人生の個人的なミッションとしては、障がいを持つ子の可能性を広げていくことにも関わっていきたいですね」とも意欲を見せていた。

筆者の勝手な推測だが、元気で居続ければ、ビズリーチの経営で一区切りをつけた段階にでもライフワークとして社会的な事業にも取り組んだのではないだろうか。

実は多田さんと筆者が“知り合った”のは、筆者が新聞記者からのキャリアチェンジを模索していた10年以上前にさかのぼる。ヘッドハンターや転職エージェントに何人かお世話になったが、その1人がビズリーチに転じる前の多田さんだった。

互いに多忙だったため、メールベースでの相談だったが、当時はいまのようにネットメディアもない時代。新卒で記者職しか経験のない30代半ばの人間が新聞社の外に出て、実業界に行くのは極めて難しく、さすがの多田さんも困らせてしまったが、多忙な中で誠実に向き合ってくださったことが印象に残っていた。後年、南さんの会社に合流した時には、ちょっとしたご縁を感じたものだった。

訃報が明らかになった昨日は筆者の誕生日で、家族に祝福されてバースデーケーキを食べようとする直前だった。筆者も同じく幼いこども2人を持っているだけに、多田さんとご家族の無念を察して余りある。心からお悔やみを申し上げたい。