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6日に都内で開催された講演会での、日本銀行(日銀)の黒田東彦総裁の発言が波紋を広げ続けている。産経新聞によると、黒田総裁は、このところ商品やサービスが相次いで値上げされていることに関して「日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」と発言したという。この発言が伝えられるとマスコミ各社も一斉に報道。多くは黒田発言に否定的な論調だった。

燃えちゃいました…(写真は20年3月の記者会見、AFP/アフロ)

マスコミ各社が一斉に報道

テレビ朝日は7日、『「家計が値上げを受け入れ」日銀総裁発言に疑問の声』の見出しでこの発言を報じ、「物価の優等生」と言われる卵の価格高騰にとまどう買い物客の声を紹介していた。東京新聞も同日、『日銀・黒田総裁の「値上げ許容」発言 家計にどれだけ目配りできているか疑問』という見出しの記事を配信した。週刊女性は、『日銀総裁「家計が値上げを受け入れている」発言に「世間知らず」「月給20万円で生活してみろ」と非難轟々』の見出しの記事を配信し、ネット上に溢れる怒りの声を紹介していた。

週刊女性が報じたように、ツイッターなどのSNSではこの発言を擁護あるいは肯定的に捉えている人はほとんどいないようだ。

東京・大田区議会議員の荻野稔氏はツイッターで「無責任な人だ」と一刀両断。ドキュメンタリー映画監督の五百旗頭幸男氏は、「世論調査をすべき」とツイートしていた。

本当に「家計が値上げを受け入れている」 のか、それこそ世論調査ではっきりさせればよい。家計が値上げを受け入れていなかった場合、日銀総裁はその事実を受け入れるだろうか

衆議院議員の米山隆一氏は、次のようにツイートし、黒田総裁と自民党を痛烈に批判していた。

黒田総裁「家計が値上げを受け入れている」から、「さらに、持続的な物価上昇の実現を目指す」そうです。要するに黒田総裁と、彼を支持する自民党政権である限り物価上昇は止まらず、しかも「受け入れているからいいだろ」という事でろくな対策も打たれないという事です。

実業家で匿名掲示板「2ちゃんねる」創設者の西村博之氏は次のようにツイートしていた。

どういったデータを元に言ってるのか知りたいです。中央銀行総裁が願望を事実のように言い始めるのはヤバいと思うおいらです。

ちなみに、黒田総裁は先週、物価高騰を感じているかを記者から聞かれた際に次のようにコメントしている。

「私自身、スーパーに行って、物を買ったことがありますけれども。基本的には、家内がやっておりますので。包括的に物価の動向を、直接買うことによって、感じているというほどではありません」

recep-bg /iStock

利上げへの布石説?

ある経済ジャーナリストは「利上げすることの布石なのでは」と裏読みする。ネット上でも、マクロ経済や投資に詳しい一部の人たちの間では、発言の真意について「値上げを受け入れ」という字面をそのまま読むのではなく、国民が一連のインフレで食品や生活必需品を買わざるを得ない状況を指摘することで、長年続けてきた金融緩和の政策変更に向けた“ジャブ”にしていると見る人もいるようだ。

一般的に中央銀行が利上げをすると、銀行などの民間金融機関の預金金利や市場金利が上昇する。企業が借金をしている場合、その支払利息が増えるということになる。さらに、個人にとっては住宅ローンの返済金利も上昇するため、支払総額が増える。

金利が上昇することから、企業は新たな借り入れにはより慎重にならざるを得ない。簡単に借り入れできないことによって、企業は設備投資などを控えるようになる。そうなると巡り巡って、売り上げの減少や企業収益の圧迫につながる。結果的に、社会全体の経済活動が低下する。さらに、株価にも悪影響を及ぼす可能性が高い。

その一方、アメリカやヨーロッパとの金利差は小さくなるため、現在よりドルやユーロに対して円の価値が上昇。輸入品だよりの食品や生活必需品の価格の下落が期待できる。

そもそも、利上げとは景気が過熱しているタイミングで実施されるものだ。現状、日本は景気が良いとはとてもではないが言えない状態にある。このタイミングで利上げをすると、国内経済が壊滅的なダメージを負うとの見方も専門家の間では出ている。