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新型クラウンで議論沸騰!! 伝統のFRから全車AWD化で「走り」はどうなる???

 2022年7月15日に発表されたトヨタ「新型クラウン」。まさかの4モデル展開に、「やられた!!」と思った方は多かったことだろう。

 ただ、往年のクルマファンとしては、クラウンが、これまでの後輪駆動ベースから、前輪駆動ベースの4WDとなったことも、大きな衝撃だったと思う。トヨタ内部でも、本当にそれ(FFベース4WD)でよいのか、という論議が幾度もされたそう。クラウンクロスオーバーではハイリフトもされていることから、その走りがどうなっているのかは、非常に気になるところ。

 はたして、新生クラウンの「走行性能」はどうなっているのか。「FRらしいクラウンの走り」とは何かを考えつつ、考察しよう。

文:吉川賢一
写真:TOYOTA

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フワフワなクラウンから、静かで速いクラウンへ

 「クラウンの走り」は、その世代によって性格が大きく異なる。11代目である、S170系クラウン(1999~2003年)までは、クラウンといえばフワフワして柔らかい足回りだった。スポーツ路線の「アスリート」もあったが、ラグジュアリー路線の「ロイヤル」が中心であり、低中速でおおらかな走りとなるよう、足回りもハンドルの重さも、いい意味で「ダル」に味付けされていた。

 後輪駆動ではあったが、後輪駆動車の魅力であるキビキビとしたハンドリング、というよりは、優雅にゆったりと流す、といった乗り味で、「この時代の乗り味のほうが良かった」という層もいまだに多いし、筆者もこの時代のクラウンこそが「クラウンらしい」と考えている。

 しかし、「ゼロクラウン」と銘打って登場した12代目となるS180系(2003~2007年)以降、走りの方向性が徐々に変わってゆく。トヨタが購買層の若返りを狙った背景もあり、新プラットフォームや新型V6エンジン、剛性を高めた車体などを採用し、「静かで速いクラウン」へと進化をした。

先代では、欧州セダン以上に進化

 そして、先代である15代目 S210系クラウン(2018~2022年)では、トヨタが「走りのターゲットは欧州セダンだったと公表しているとおり、走りの性能は欧州車と同等以上に。高速直進性が高く、コーナーでも俊敏さと落ち着きを両立させており、乗り心地は、225/45R18サイズのブリヂストンREGNO GR001という低扁平のタイヤをはいているクルマ相応の乗り味だ。

 「アスリート」の方向性ではあるが、「ダンピングが効いて引き締まったサスペンション」といった印象で、欧州車の乗り味が好きな方には非常に好ましい乗り心地であった。ただ、これを「FRらしいクラウンの走り」とするならば、新型クラウンの走りは、だいぶ違ってくるはずだ。

先代15代目クラウン。欧州セダン以上の走りの性能を得たが、キビキビとした走りがクラウンらしかったかというと、意見が分かれるところではないだろうか

おっとりとした落ち着きある乗り味になっているのでは??

 新型クラウンでは、先代で採用した「GA-Lナロー」プラットフォームを撤廃し、カムリやハリアーと同じく、FFベースの「GA-K」プラットフォームを大改良したうえで採用している。リアサスペンションを前後方向にも左右方向にも剛性感の高い、新型マルチリンク式リアサスへと変更し(カムリのリアサスはダブルウィッシュボーン)、そのうえで、「飛び道具」となる「DRS(後輪操舵)」を、全グレード標準装備とした。

 DRS(低速では逆相に、中高速では同相に操舵するシステム)は、レクサスLCではスポーティを優先したセッティングであったが、新型クラウンでは、快適性を優先したセッティングへと用途を変更したとのこと。ヨー方向の軽快感と安定感はDRSで生み出し、そのぶんサスペンションは極力柔らかくして、乗り心地重視でつくり込んでいるそうだ。

 担当したトヨタのエンジニアによると、「クラウンに欠かせない落ち着きとフラット感を実現した」そうだが、欧州車(メルセデスCクラスやBMW5シリーズ)では、後輪操舵は電制ショックアブソーバーとセットで採用されているなか、新型クラウンのショックアブソーバーはコンベンショナル(※先代クラウンRSには可変ダンパーがあった)。一般道での乗り心地を良くするならば、ロール方向の揺れを制御する電制スタビライザーもセットで付ける方が圧倒的に良くなると思うのだが、それも採用がない。

 後輪操舵を採用しているのに、電制のショックアブソーバーやスタビライザーを採用していない新型クラウンでは、欧州車の運動性能を真似することは不可能であることを考えれば、先代クラウンの運動性能とは、路線が違うものになると考えられる。シャープなハンドリングというよりも、ボディモーションを許容した、おっとりとした落ち着きある乗り味になっているのではないだろうか。

 また、「FRでなくなったこと」については、近年は、最新の電子制御ステアリングシステムや、後輪操舵などを駆使すればFRの回頭性に近づけることができるため、走行性能におけるネガティブポイントにはなりにくい。

「極低速での高品質感」こそがクラウンらしさでは??

 トヨタ車における運動性能のすべてに関わる部分の監査(評価)を担当するという、凄腕技能養成部の片山智之氏によると、新型クラウンの足回りは、机上計算だけでなく、何度も走りこみを行い、時速10km、20kmといった極低速に、これまで以上にこだわったという。極低速で高品質だと感じてもらうために、わずかな質感の変化に注目して、サスアームの塗装の膜厚を10分の数ミリ厚くしたり、コイルスプリングにプロテクタを追加するなど、工夫と努力を積み重ねてつくり上げたそうだ。

 この「極低速での高品質感」は、高速走行主体のヨーロッパばかりを見てきたことで、ここ数世代のクラウンでは欠けていたように思う。高速走行での安心感ももちろん重要ではあるが(正直この辺は、しっかりしたタイヤと空力、サスジオメトリがそろっていれば問題ない)、走りはじめから優雅に感じるクルマの動きこそが、多くの方がクラウンに求めているものだと筆者は思う。とにかく、公道試乗が非常に楽しみだ。

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