2022年F1第10戦イギリスGPで各チームが走らせたマシンを、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが観察し、印象に残った点などについて解説。今回は、FIAがチームに送付した技術指令書がもたらす影響について語った。
FIAは、ポーパシング/バウンシングがドライバーの健康や安全に大きな影響を及ぼすことを懸念し、カナダGP直前にこれを軽減するための技術指令書をチームに対して送った。しかし後に修正版が発表され、発効はフランスGPからと定められた。
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今季の焦点の一つとなっているバウンシング(高速走行中の激しい縦揺れ現象)問題に関して、FIA(国際自動車連盟)はイギリスGP前に、改訂された技術指令書を全チームに送付した。
今回の改訂版では、車両が許容される最大バウンシング量の上限を一定時間超えた場合、チームとFIAに警告が送られる。この指令が発効する第12戦フランスGP以降、各チームは3回のみ上限を超えることが許される。つまり、フランスGPから3レース以内にバウンシングの現象を解消することができなければ、FIAは車高を上げるなどの対策をチームに課すことができるのだ。
これにはレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表が、強く反発している。
「FIAがセッティングを決定することは、危険な前例となる。そもそも技術指令の目的は規則を変えることではなく、それを明確にすることだ」
FIAはさらにフロア下にあるスキッドプレートにも言及し、パドックの面々を大いに驚かせた。周知のように、フラットボトム中央にはスキッドプレートが備えられており、このスキッドプレートは過度に摩耗せず、十分な剛性を備えることが求められる。技術規約3条5項9eと3条15項8aによれば、このスキッドプレートは「2mmを超えて変形させてはならない」ことになっている。ただしこれらの条文では、変形が許されないのは基板の2カ所(縁の部分とプレート後部)と記されており、本来ならプレート全体が変形すべきでないが、明確には書かれていない。
この曖昧さのために、FIAは一部のチーム(主にレッドブルとフェラーリ)がこの規則の精神に従っていないと疑っている。彼らはフラットボトムの性能向上のために、後部が2mm以上変形するボードを設計した可能性があるというのだ。それが事実なら、第12戦フランスGP以降は完全に規約違反となり、チームは対応が求められる。今回の措置にはレッドブル、フェラーリの2強とメルセデスとの、舞台裏の暗闘が関係しているようだ。メルセデスが、FIAにこの技術規則の明確化を働きかける先頭に立っているとの噂がある。
今年トップ2から大きく後れを取っているメルセデスは、イギリスGPでW13に、主にフロアととフロントサスペンションのアップデートを投入(下の画像参照)、期待どおりの成果が見られたということだが、路面がバンピーなサーキットでの改善を目指している。
技術指令書についてレッドブルは、「自分たちのマシンは改正指令の内容に完全に適合している」と主張している。しかし技術的な内幕に詳しいドイツの『Auto Motor und Sport』誌によれば、「レッドブルとフェラーリはスキッドプレート全体を硬くするFIAの意向に、強く反対している」とのことだ。