2022年8月3日、資源エネルギー庁から給油所小売価格調査が公表された。調査資料によると、全国平均1Lあたりでレギュラー169.9円、ハイオク180.7円、軽油149.9円とのことだ。5週連続の値下がりにはなっているものの、高値は続いている。
ガソリンの高騰化が続くと、価格を確認しているドライバーは多いのではないだろうか。「ここのガソリンスタンドは安い」、「高くなったな」と、感じる。また、クルマでドライブ観光するときに、各地方のガソリンスタンドを見かけて、住んでいる地域と価格差があることに驚くこともあるだろう。
この記事の担当編集である私自身もそのひとりである。先日、長野県にドライブ旅行した際に、地元よりもガソリン価格が高いことに気づいた。「輸送費が高いのか? それとも?」という素朴な疑問から、この記事の企画がスタートした。
そこで本稿では、多くの観光地がある長野県がなぜガソリン価格が高いのか、そして47都道府県でどこが一番高いのかについて解説。さらに、ガソリン価格を抑えるにはどうすべきか、考察する。
文/高根英幸
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ガソリン価格出典/ガソリン価格比較サイト gogo.gs
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なぜ長野県のガソリン価格は高いのか?
ガソリン価格が高止まりしている。地域や店舗によって差があるものの、全国平均でレギュラー1Lあたり170円といったところだ(原稿執筆時点)。
ガソリンの銘柄や店舗にこだわるドライバーもいるが、大抵のヒトは1円でも安い燃料を求めて地元を巡るのではないだろうか。それだけに地元のガソリン価格は肌感で把握している。
それだけになぜだか長野県内のガソリン価格が高く感じるのだ。これは先日、同地方をドライブ旅行した当記事の担当編集者(埼玉県在住)が感じた素朴な疑問だ。
改めて調べてみると、やはり長野県内のガソリン価格は高めだ。だがその理由は単純なものではなく、これにはさまざまな理由が絡み合っている。そもそも長野県はガソリン価格が高めになってしまう要素がいくつか存在している。
まずは製油所からの輸送問題だ。石油を輸入に頼っている関係もあって、製油所は沿岸地区に建設される。それに対して長野県は海なし県というだけでなく、太平洋側からも日本海側からも距離があり、山を越えないと辿り着けないところに位置している。それだけ輸送にはコストがかかることになる。
もともと高速道路網が充実しておらず、碓氷峠など一般道を経なければ軽井沢へはたどり着けないというアクセスが不便なことは、燃料の輸送コストに反映されていたのだろう。
長野自動車道が全線開通したのは1993年のことで、上信越道に至っては1999年のことだ。つまりそれまでは長野県にクルマで行くには大抵は一般道を利用するしかなく、遊びに行くにもハードルが少々高かったのである。
高速道路網が充実したことで、燃料の輸送コストはある程度削減されたかもしれないが、県境や峠の途中にはガソリンスタンドは少なく生活圏に集中することから、その地域でのガソリン価格が安定して維持されていく。
つまりその地域を出れば当分、ガソリンスタンドがないような環境であれば、競争原理が働かず価格競争をする必要がないのである。
さらに軽井沢などリゾート地ならではの物価が高めなことも、局地的には影響していたのかもしれない。しかし地元住民の移動手段としてもクルマは必須であり、燃料は生活必需品だけに割高でも利用し続ける。地方へ行くと野菜などが首都圏と比べて安いと感じることがあるが、こうした地域の物価とガソリン価格は、あまり関連性はないのである。
どこが安い? 都道府県別に見ると、最も高いのは長野県ではない?
最近は製油所も統廃合されたことで、製油所からの配送距離は長くなったところが増えているだろうが、石油元売り各社は、精製したガソリンをお互い融通し合って配送のコストを削減するなど、流通量が減っているもののガソリン価格のコスト抑制には努力しているという事情もある。
ガソリン価格を各都道府県の平均価格で見ると、最も安いのは愛知県で、次いで千葉県、岩手県、和歌山県と続く。この結果を考えれば、東海や関東、東北といった地域による価格の傾向はないことがうかがえる。
しかも各都道府県でのガソリン価格を個別に見れば、やはり愛知や岩手、和歌山のガソリンスタンドが安値の上位に入ってくるが、県内での最安値と最高値ではかなりの開きがある。つまり平均価格は価格が安いスタンドと高いスタンドが混在している状態であり、県レベルで判断するのはちょっと強引な判断なのである。
それでも長野県は最安値でも160円、最高値は188円と全体的に高めな傾向にあるのは間違いない。
ただし、平均価格でみて最もガソリン価格が高いのは長野県ではないのだ。長野県は高い順からみると3位で、そのうえには大分県、高知県とそれぞれ九州と四国地方に点在しており、どこか一部の地域に高値圏が集中している訳ではなく、それぞれにガソリン価格が高くなる事情がある地域が存在するのだ。
大分県は九州石油時代から製油所が存在しており、現在もENEOSが稼働させている。つまり輸送コストは最小レベルと言ってもいいほどで、近隣県の方がむしろ割高になる条件だが、実際の売価は逆転している。どうやら大分県は石油販売の協同組合の結束が固く、安売り競争とならないようにしているらしい。
では、最も高い高知県はどういう事情でガソリン価格が高くなっているかというと、こちらは製油所が近くになく、さらに大分県同様、安売りをしないという商慣習があることから、他県と比べると高い価格が維持されているようだ。
いくら隣県の方が安いといっても、そこまで行って給油する時間と燃料費を考えれば、地元で給油するドライバーが多いため、独特の経済構造が成り立つのだ。
ちなみに店舗別での最高額だけ見れば地価の高い東京都心部が1位(八丈島も同等)だが、東京都全体でみれば拠点数が多く価格競争もある地域では薄利多売に走っているので、全国で見れば9番目の安さとなっている。
燃料の価格はこれからも上昇し続けるのか?
我々ドライバーにとって、ガソリン価格は1円でも安い方が助かるが、ガソリンスタンドが安売り合戦をした結果、経営が行き詰まってしまって、もし廃業されれば、利便性が低下したり、価格が急上昇するような事態に陥る可能性がある。無理な販売合戦により一時的には割安感を味わっても、結局はドライバーが不利益を被るようでは意味がないのだ。
そんなことよりも抜本的な税制改革によって、ガソリン価格を抑えるべきだろう。そもそもこのところの燃料価格の高騰はウクライナへの侵攻による経済制裁と円安が主な要因のはずだ。
現在の政策のように、原油価格の上昇を補助金によって抑え込むのは無理がある。これから先、燃料価格が安くなることは(一時的には下落することもあるかもしれないが)期待しない方がいい。
参議院選挙も終わったことだし、ガソリン税についてはまず暫定税率の廃止と、本則税率についてもトリガー条項を設けて燃料価格高騰時には課税を停止するような措置を講ずるべきだろう。なぜなら燃料価格が高騰すると経済活動の多くに影響が出て、景気が冷え込んでしまうからである。
では、それによって不足する税収をどこで補うべきかというと、それはEV(電気自動車)の充電に対する課税だろう。それでは本末転倒だと思われるドライバーもいるかもしれないが、EVには環境保全に寄与するという大義名分がある。
現在は普及のために税金を投入して補助金事業でEV購入や充電設備の設置を促してはいるが、そろそろ化石燃料による発電から脱却するためにも、EVへの電力に対して課税を検討すべき段階になってくるハズだ。
燃料に比べて安いからEVを選ぶ、という時代はすぐに終わりを告げることになるだろう。脱炭素社会を実現するためのEVであれば、コストを最優先すべきではないことは明白なのだ。
もちろんエンジン車も燃料への課税から逃れることはできないし、合成燃料や水素エンジンが普及する頃には、燃料の価格は現在よりも高くなっているに違いない。バーチャル空間での情報取得や体験がどんどん普及しつつある現在、リアルな空間での移動は贅沢なモノへと変化し始めているのだ。
これを抑えるには、さらにクルマはエネルギー効率の高いモビリティへと進化を続ける必要がある。今は移動の自由を楽しみつつ、自動車メーカーのエンジニア達に希望を託そうではないか。
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