高速バスといえば安い移動手段というイメージがある。特に4列シート車はシートが2人掛けなので、場合によって知らない他人と肩を寄せ合って座ることもあり、これはなかなかキツイ!!
しかし、最近は選択肢が増え、そこまで耐え忍ぶようなものではなくなっている。例えば3列シート設定のバスを選択すれば、独立した1人掛けのシートが3つ並んでいるのでゆったり座ることができ、値段もリーズナブルだ。
今回はそれを超える最上級の個室シート装備車をご紹介しよう!
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
個室もさまざま
個室が装備されているバスは、それぞれの事業者の創意工夫でさまざまな種類が存在し同じ規格ではない。ただし共通するのは壁で仕切られた区画になっているため、大型バスの2.5m幅では2列しか設置できないことだろうか。
よって個室に乗車する場合は必ず「窓側」になる。フェリーのように窓のないインサイドという概念はない。本稿では個室の一例として老舗で「キング」の西日本鉄道(西鉄)「はかた号」の個室を取り上げる。
はかた号に個室が登場するまで
はかた号の個室は4室。つまり左右2列の部屋が前方から2列あるということだ。1990年に登場した当時は西鉄も京王帝都電鉄(現・京王バス)も、独立3列シートのスーパーハイデッカーだった。長時間乗車を考慮して最後尾のシートを定員外のベンチシートとし、簡易な仕切りを客室との間に設けた「サロン」を設置していた。
このサロンにはマガジンラックが置かれ、雑誌を読んだりタバコを吸ったり、セルフサービスのコーヒーやお茶を持ち込んでくつろぐことができた。2009年には西鉄が初のダブルデッカー車を導入して3クラス制となったものの、プレミアムシートは2列4席だが個室ではなかった。
2014年からはエアロクイーンのスーパーハイデッカーに戻り、2クラス制にしたうえでプレミアムシートが個室になった。若干の変更を加えて現在では個室装備車としては2代目だ。
はかた号の個室あれこれ
最近の個室を装備するバスには扉を設置し完全な個室になるバスも存在するが、はかた号個室には扉はなく、遮光性のある厚手のカーテンだ。窓側カーテンではなくブラインドで、上から降ろしてくるタイプだ。個室なので夜間走行中もブラインドはあけておいても構わない。
シートは本革製ですべての可動部が電動。コントローラーは通路側の壁に埋め込まれている。このシートはマッサージシートになっていて、コントローラーの操作で自由にマッサージ機能を動作させることができる。
冬季の運行のためにヒーターを装備したシートはそれほど珍しくないが、はかた号の個室には、座面に送風機能が付いていて夏季でも快適に着座することができる。
車内WIFIは装備されているので、ネット環境はどの座席でも手に入る。そして電源はUSB-Aがひじ掛けに2ポート装備。ACコンセントはない。また窓側にはワイヤレス充電ができるスマホ置きが設置されているので対応スマホであれば置くだけで充電できる。
大きな荷物は個室内に置く場所はないので、あらかじめトランクに預ける方が良い。シート後方にはそれなりのスペースがあるが、シートを倒すためのスペースなので、ここに荷物を置くとリクライニングができない。
またシートのリクライニング角度は、決して大きなものではなくフルフラットとは程遠い。しかし座面の沈み込みと大きくほぼ垂直まで立ち上がるフットレストのおかげで、リクライニング角度がさほど気になることはない。
実際に14時間超えの乗車で疲労や、腰やお尻の痛みを感じることはまったくなく、必要十分なシートだと感じた。夜行高速バスの伝統的な装備であったビデオ上映や先代のプレミアムシートにあったタブレット端末はない。これはスマホが一般的になったのと、WIFIサービスがあるので不要との判断だろう。
かつては供食サービスも!
またセルフサービスのお茶やコーヒー等の給湯サービスもない。ただし朝の降車休憩の際に紙パック入りの緑茶が一人1本サービスされるので、これで十分だと感じた。
なお、路線開設当初は給湯サービスに加え、朝食サービスもあった。中身は缶詰のコーススローサラダやマドレーヌとオレンジジュースだった。現在は供食サービスではなく、プレミアムシートでは蒸気アイマスク等のアメニティがサービスされる。
評価は乗車した人の主観によるので、絶対的な評価はできないものの、相当に考え抜かれた最上級クラスの個室であることは間違いないだろう。
果たして極楽浄土なのか?
ちなみに極楽浄土とは仏教用語で宗派により解釈が異なるが、浄土系ではだれでも極楽に往生できることになっている。一切の苦はなく「仏教的な」楽があるのみだとしている。
日本史で習った悪人正機説(唯円が著した歎異抄で説かれている)によれば、悪人(悪い人という意味ではなく悟りを得てない凡夫)こそが救われ、浄土に往生できることになっている。
バスの車種やエンジン型式、運行事業者がどうだこうだと煩悩まみれの記者のような悟りとは縁遠い「悪人」が取材を忘れて眠りこけ、はかた号の個室に「往生」した。その意味では確かに極楽浄土なのかもしれない。
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