親が離婚した後の子育てについて、G7で唯一、単独親権制度しか認めていない日本で、国際的なルールに合わせた共同親権・共同養育を認めるべきか、参院選を前に政策的なヤマ場が生まれつつある。
「法務省 vs. 民間」2つの法制審
日本では片親が子どもを一方的に連れ去る事案が後を絶たない。日本は2013年に「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」(ハーグ条約)に批准した後も、親権制度がこの国際的なルールに適応する形で変更されておらず、日本人の配偶者による連れ去り事案が相次いだ欧州では、EU議会が日本に対し「子の連れ去りに関する国際的なルールを遵守していないように見受けられる」と決議している。
国際的な圧力もかかってきたことで近年、日本側も制度改正を検討し始め、法務省の諮問機関、法制審議会の家族法制部会が昨年3月から検討を進めてきた。しかし、同部会の委員には、共同親権導入に抵抗する左派の人権派有識者もいるためか、現行の親権制度の見直し案は国際基準から程遠い「骨抜き」になりつつある。
審議中の資料などから浮かび上がってくるのは、共同親権は形式的には認めるものの、監護権は引き続き片親のみに認めるとする案に固まりつつあり、共同親権推進派からは「家族制度が崩壊する」などの懸念が示されている。
これに対し、推進派は、弁護士・大学教授などがつくる民間法制審議会の家族法制部会が別の制度案を提起し、法務省案に対抗する構えに打って出た。5月31日には同部会長で、テレビ番組でも知られる北村晴男弁護士らが記者会見。独自の「中間試案」を発表し、自民党の高市政調会長にも提出した。
民間側の試案では、
- 全ての欧米諸国、台湾や韓国も採用する離婚後『共同親権・共同監護』制度の創設
- 婚姻中の家族の在り方を規定する現行の民法体系と整合性のとれた制度の創設
- 父母が配偶者暴力(DV)や児童虐待を行っている場合など、特殊な事例にも対応した制度の創設
- ハーグ条約(国際的な子の連れ去りを禁止する条約)不履行国と国際的に非難される原因となっている国内法の改正
がポイントに挙げている。(1)や(4)が示すように国際基準に則った内容になっているのが特徴だ。
実効性あるDV対策、自民は異例の対応
一方で、日本で共同親権導入が進まなかった大きな要因としてはDV(配偶者暴力)だ。例えば、離婚後共同親権に反対する市民の会は「加害者は子どもと会う権利や機会を利用し、支配を続けようとする」(公式サイト)などと主張し、根強く抵抗している、
このDV問題をどうするか。(3)で提起しているDVなどの問題事案への対応について、試案の詳細版では、両親が離婚する際に「共同監護計画」の作成と公正証書化を義務付けた上で、「離婚後の面会交流、養育費に関する規律」を要求。
父母の一方が、配偶者暴力防止法の規定に基づく保護命令を裁判所に申し立てたときは、裁判所は、当該父母に対し、婦人相談所等が提供する父母間の連絡調整及び子の受渡し支援サービスの利用を命ずる規律を設ける。
などと提起している。関係者は「民間法制審案は、DVの申し立てがあれば配偶者との接触は禁止するが、親子の交流は継続しなければならない規定になっている」と説明する。
DV問題に関連して、これまで一部の親が相手と子どもの面会を拒絶したいがために、実態がないDVを主張するケースもあったが、この民間法制審案を導入した場合は、手続きに第三者が入ることで、関係者は「子どもをもう一方の親と会わせない理由としてDVは使えなくなる。本当にDVを受けていた人にはメリットがある一方で、嘘のDVを申し立てていた人には、デメリットばかり増えることになる」と実効性を期待している。
民間法制審の中間試案の影響力は小さくない。試案を受け取った自民党サイドは、法務省の法制審案と比較検討して今後の立法化を進めるという異例の対応をする方針を示している。
党政調会法務部会(部会長:山田美樹衆院議員)は7日、民間法制審の試案を俎上に載せて討議した。参院選での政策論議や、秋の臨時国会以後に新たな展開があるのか注目される。
【更新10:50】規律の引用部分を最適化しました。