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 今年4月20日にワールドプレミアされたレクサスでは初めてとなるBEV専用モデルとして登場したRZ。ステア・バイ・ワイヤーを独自の技術として導入しているのだが、その走りは果たしてどうなのか?

 すでに同様のアイテムを日産が現行スカイラインで採用していたが、システムの根幹がそもそも今回のRZのものとは違っている。その乗り味を下山テストコースで試乗した自動車ライター、渡辺敏史氏がレポートする。

文/渡辺敏史、写真/レクサス、ベストカー編集部

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■完全二重冗長システムで万全の体制に

レクサスRZステア・バイ・ワイヤーモデル。今回も試乗は下山テストコースで6月末に実施された

 レクサスとしては初の、専用設計プラットフォームを用いるBEVとして今年度中の発売を予定しているRZ。その技術的独自性を象徴するアイテムとして採用されるのが「ステア・バイ・ワイヤー」(SBW)だ。

 SBWはすでにV37型スカイラインが「ダイレクトアダプティブステアリング」(DAS)として実装しているが、こちらはフェイルセーフのためにステアリングシャフトを持ちつつ、その物理的接続をクラッチで制御しながら、通常時は操舵信号を電気的に舵角へと変換する仕組みだった。

 RZに搭載予定のSBWは、コラムとラックの間に物理的シャフトを持たない、完全分離のシステムを構築している。

 当然ながらリダンダンシー(冗長化)にまつわる課題は山積するが、RZのSBWはステアリング〜タイヤ間の情報通信や、舵取り用のモーターコントロールユニット、操舵フィードバック用のトルクアクチュエータに至るまで完全二重の冗長システムでトラブルに備えている。

加えて、システムを動かすための電源も車両側のシャットダウンを想定して独立系統のバックアップバッテリーを搭載する念の入れようだ。

■切れ角約150度に設定された操舵システム

ステア・バイ・ワイヤーモデルのステアリングを切り始めた時のタイヤの状態

 SBWの大きな効能は操舵量と舵角の関係をプログラムで自在に可変できることだが、RZのそれはコンベンショナルなステアリングの操舵応答性に対して、約100km/hを境に低速側ではクイックに、高速側ではルーズに応答するようギア比が設定されている。

 そこに加えてキャラクターを決定づけているのが、切れ角約150度、つまりロックtoロックで一周しないという極端なトラベルに設定された操舵システムだ。持ち替えて回すという当たり前の操作を無にする、それゆえに採用されたのが、ホイールとは言い難い面食らうような形状のステアリングということになる。

 そこまでしてSBWを採用する意味……その土台となるのはADASの進化、その向こうにある来たるべき自動運転の時代に向けた重要な要素技術ということになる。例えば緊急回避や自動パーキング時のせわしない転舵は、舵と前輪との物理的な接続のないSBWならばゼロ化することも可能だ。

 が、RZのSBWはドライバーのオーバーライド時に方向を見失わないよう、現状はあえてステアリングを作動させているという。

■SBWに期待されるのは運転時の身体条件緩和

RZは自律移動を前提にしたクルマの可能性をひろげると筆者は語る

 加えて個人的に期待するのは、運転にまつわる身体的な条件を緩めてくれるという効能だ。例えば上肢に障害がある方や、加齢で可動域が小さくなったという方がクルマを操れる可能性を高めてくれるとすれば、移動の自由という大切な人権を享受できる可能性がより広がるわけだ。

 RZのSBWであればフルデジタル制御ゆえ、ドライバー間で操舵特性を任意設定することも、より小さなアングルで大きく曲げることも理論上は充分可能だ。パワートレーン云々は置いておいて、こういう新しさは自律移動を前提としたクルマの可能性を隅々に広げることになると思う。

 今も煮詰めが進むRZのSBWモデルに乗る機会を得たのは、レクサスの開発拠点として着々と準備が進む愛知の下山テストコースだった。そのファーストコンタクトはさすがに肌なじみよく……というわけにはいかず、用心しながら速度と舵角の関係を体になじませていく。

 建物の周りをしずしずと回るぶんには内輪差が気になるほど舵が切れすぎるが、これは可変操舵レシオをもつ従来のクルマでも体験してきたことだ。

 ドライバー側の感覚補正が求められることは間違いないが、目くじらを立てるほどのネガとは思わない。そして完全に慣れれば、切り返しのために舵を持ち直す普通のクルマに乗ることが面倒くさくなる……ことは容易に想像できる。

■際立つ「スッキリした操舵フィーリング」

筆者はハンドルを握っていてステア・バイ・ワイヤーモデルならではの効果として外乱に惑わされないスッキリとした操舵フィーリングを実感したという

 動きを確認しながらコースに出て速度を徐々に高めていくと、SBWの効能がレクサスの商品性にとって要となる質感の側から感じられる。開発車両を鍛え抜く目的で相当意地悪な設計となっている下山テストコースには、さまざまなパターンの凹凸や山谷の跨ぎ、逆バンクなどで挙動を確認できるところが随所に織り込まれている。

 そういうポイントを好んで踏んでいくとまず気づくのが、外乱に惑わされないすっきりした操舵フィーリングだ。この点はスカイラインのDASでも経験していたつもりだったが、やはり物理的接続をいっさい廃したRZのSBWでは、そのクリアぶりが大きく異なっている。

 一方、物理的接続がないことによるインフォメーションの心許なさは上手く補われているように感じられた。当然ながらセルフセンタリングを含めた操舵反力も人工的に作り込まれているが、速度や舵角によっては普通のモデルよりも手応えに実感がある。

 常速域の動きの軽さに対しての高速域の盤石感、そういうダイナミックレンジの広さは、やはり従来のコンベンショナルなクルマとは比べようがない。すなわち、これがレクサスの動的プレミアムということになるだろう。

■当初はマスタードライバーのモリゾウも「走る気がしない」と厳しい評価……

下山テストコースでの試乗風景。市販に向けて今後もキャリブレーションが重ねられていくRZだが……

 SBWで操舵実感を伝えるためには、●●km/hでこの路面状況を走る際、モーターが発する周波数を介して、入った舵角に対してどういうフィードバックを伝えるか……的なパラメータを山ほど積み上げていくことになる。

 気が遠くなるほど膨大な作業がそこには待っているわけだ。その途中には、マスタードライバーである豊田章男社長に舵を託す機会もあったというが、その際の評価はインフォメーションの薄さを指して「走る気がしない」という厳しいものだったという。

 現在も上市に向けてキャリブレーションを重ねているというSBWだが、今のハードであればマスタードライバーも納得してもらえるのではないか。そのくらいのレベルに仕上がっていることは間違いない。

 単なる客引きの目新しさだけではなく、レクサスとしての魅力向上にも寄与するそのシステムが日の目を見る時は着々と近づいている。

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