岸田政権初となる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)が7日に閣議決定された。岸田首相が掲げる経済政策「新しい資本主義」を看板にした内容となったが、近年、政策課題としてDXの重要性が増すにつれ、提言の方向性が似てきたとの指摘もされる日本経団連と新経済連盟(新経連)のトップはどこを見ていたのか。
経団連「財政健全化の旗は降ろすな」
経団連は7日、十倉雅和会長(住友化学会長)の談話を発表。「新しい資本主義」について
社会課題解決を新たな市場創出ととらえ、「市場も国家も」、「官も民も」連携して取り組む必要性が示されている。こうした考え方は、経団連が掲げるサステイナブルな資本主義の実現と合致するものであり、高く評価したい。
と基本的に歓迎。特に重視しているものとしてGX(グリーン・トランスフォーメーション)に言及しており、
今後10年間に官民協調で150兆円規模の投資を実現すべく、「GX経済移行債」の創設、「GX実行会議」の設置、「GX投資のための10年ロードマップ」を策定すること等が盛り込まれたことを歓迎する。
と両手をあげて賛意を示した。一方で、経団連の注目ポイントの特徴と言えるのが経済財政運営に対する注文だ。談話では「経済財政運営に関しては、単年度主義の弊害を是正し、民間投資の呼び水となる効果的・効率的な支出(ワイズスペンディング)を思い切って行うとの方針が示された」と概況をなぞらえることにとどまっていたが、前日6日の記者会見の要旨によれば、十倉会長は「経団連のスタンスは『経済あっての財政』である。ただ、中長期的な政策を講じるにあたり財政が安定していなければ支障をきたすので、財政健全化の旗は降ろしてはいけない」などと述べるなど、消費税増税に理解を示してきた経団連らしさを示した。
新経連「構造改革が必要不可欠」
一方、新経連は閣議決定から一夜明けた8日、三木谷浩史代表理事(楽天会長兼社長)の談話を発表。三木谷代表理事は「我々が2012年6月に活動開始して以来ずっと主張してきた」政策として、
人や新しい技術・スタートアップへの投資、 Web3.0等の新事象に対応した国家戦略の構築、 ダイバーシティの必要性、 ベンチャー・フィランソロピーの促進、 デジタル規制改革などが、 項目として盛り込まれていることをまずは評価する。
と述べ、一定の満足感を示した。ただ、過去にも成長戦略は掛け声倒れに終わってきた経緯もあることから「重要なことは、 今後の実行と具体化であり、 そのためには、 徹底的な構造改革(規制面・税制面・会計制度面等の諸制度に関する改革)が必要不可欠である」と釘を刺すことも忘れなかった。その上で三木谷氏は新経連がここ最近提唱している未来戦略「JX(Japan Transformation)」を改めてアピール。「民でできることは民に」「世界でも稀に見る高い税率の削減」「部分的ではなく一体的な改革」などを求めた。
各経済団体の差異はどこに?
骨太の方針を巡っては、経済団体が談話を発表するのが慣例となっている。経団連や新経連のほかにも、経済同友会の櫻田謙悟代表幹事は「戦略的投資によって成長を目指す姿勢が明確に示されている点を評価する」と述べた上で、経団連と同じく経済財政への目配りも要求。「政府債務を未曾有の水準に押し上げたコロナ対策費の償還方法の具体化、そして、国民が高い関心を寄せる社会保障の持続可能性向上に向けた抜本改革を期待する」とコメント。
日本商工会議所の三村明夫会頭も「政府がリスクをシェアしつつ、市場の効率性を最大限に活用し、民間の投資を強力に後押ししてイノベーションを促し、経済の長期停滞から脱却する契機となることを強く望む」と基本的には歓迎。その上で、「労働力の確保や将来不安の払拭のため、全世代を通じて給付と負担のバランスを考慮した、持続可能な社会保障制度の構築は必須であり、その実現に向けた議論においては、現役世代や事業主の負担増にも配慮することを強く望む」と、こちらも財政や社会保障への意識をうかがわせた。
DXやGX、規制改革については大きな差異は見られなかったが、歴史のある3団体は財政や社会保障の持続可能性への関心を示した一方で、新経連は 所得税・相続税・法人税などの減税や、規制改革、行政改革に推進による「小さな政府」カラーをより強くにじませた格好だ。