参院選の投票日まであと1日半となった。全国屈指の激戦区となった首都東京は、地縁や組織の影響に限度もあり、各陣営とも終盤戦では、巨大な無党派層の存在を意識して空中戦でのアピールに必死だ。
その中で昨秋の衆院選の時に注目されたのが団塊ジュニアなど就職氷河期世代(ロスジェネ)の動向だ。当時の出口調査の世代別投票率では、維新やれいわが40代の支持を集める傾向があり、歴史の長い政党が長らくこの世代の政策的ニーズに十分応えてこなかったことへの不満が透けて見えた。
後半戦で追加公約のワケ
「街頭演説をやっていて労働・雇用(政策)への要望は高いものがあるなと感じた」。6日、臨時記者会見で初めての選挙戦の反応をこう振り返ったのが無所属の乙武洋匡氏だ。選挙後半になり、3つの追加公約を発表。「電気代/携帯料金の1年無償化」「こどもに年間100万円支給」とともに掲げたのが「賃金400万円を100万人創出」だ。給与所得の平均で男性の半分の女性や、年200万に止まる非正規の人たちへの待遇底上げをアピールした。
乙武氏はこの選挙戦「あきらめない社会」を掲げ、障害者や性的マイノリティを包摂する社会づくりを訴えてきたが、陣営関係者は「本人も1976年生まれで学生時代の友人たちがまさに就職氷河期で、この世代も政治にマイノリティ扱いされてきた点では同じだ」と力説する。陣営が見据えるのは、やはり“ボリュームゾーン”の大きいロスジェネの存在だ。
2020年の人口動態では、団塊ジュニア世代(1972〜74年生)など40代が生産年齢人口で最も多く、これまで最多世代だった前期老年人口の団塊世代(1947〜49年生)に匹敵する。時に「シルバーデモクラシー」と揶揄されるほど、これまでの選挙戦では、シニア層の存在感が圧倒的だったが、70代で7割に登っていた投票率も、80代になれば実は“若者並み”の5割未満に一気に低下する。今後5年程度のスパンで考えると、団塊世代から団塊ジュニア世代へのパワーシフトが起きるのは必至な情勢だ。
“氷河期世代”支持を集めるのは?
しかし、これまで上の世代を主な票田としてきた歴史の長い政党は、必ずしも政策的ニーズに応え切れていない。折りしも毎日新聞が7日付の朝刊で「2019年夏の参院選直前に政府が打ち上げた、就職氷河期世代の正社員を3年間(20~22年度)で30万人増やす計画が、国の統計上、最終年度となる現段階で目標の10分の1(3万人増)しか達成できていない」という検証結果を報じた。
当時は安倍政権の時代。安倍政権といえば平成前期までの自民党政権と異なり世論調査や出口調査でも「若年層に人気がある」という評価がなされていた。“氷河期対策”も政策に折り込まれたのはそうした背景があるが、(毎日新聞の「反安倍」論調を考慮するにせよ)結果を出しきれてないのは確かだ。
他方、昨年の衆院選で躍進したのが、議席を4倍近くに増やした「維新」と、3人の当選者を出し、衆参合わせて5人と政党要件を文句なしに満たした「れいわ」だ。東京都内の衆院比例票では維新は85万票と、19年参院選の47万票から大幅増。れいわも36万票を集めて、国民民主や社民を上回る存在感を見せつけた。当時の出口調査での世代別得票率を見れば、自民が全世代で最多だったものの、維新もれいわも獲得票の中で世代別では40代が特に多い(出所:NHK調査)。
この傾向は実は今回も見て取れる。参院選公示後最初の週末に自民が行った東京選挙区の情勢調査では、全体では6番手だったれいわの山本太郎氏が、40代の支持率に限ると、自民の朝日健太郎氏に次ぐ2番手に浮上。維新の海老澤由紀氏も全体で7番手なのが、40代では3番手につけていた。前出の乙武氏も選挙戦は苦戦するものの、「五体不満足」ブームのリアルタイム世代とも言える30、40、50代の数字はやや高い。
ちなみに共産の山添拓氏はこの調査で、18〜29歳、30代、50代、60代以上で2桁ポイントの支持を集めたのに対し、40代だけは1桁に沈み、公明の竹谷とし子氏と同率5番手だった。共産は2000年代に組織の高齢化で低調だった反省から13年の参院選東京で、若手の吉良佳子氏を擁立。後期氷河期世代ともいる1982年生まれで、”ブラック企業退治“を掲げた彼女の訴えが新たな支持層を掘り起こした。どうやら山添氏とは“客層”が違うようだが、30代の支持率では全候補者でトップに立つ。
また、小池百合子都知事が支援するファーストの会の荒木千陽氏(国民推薦)は30代の支持率では蓮舫氏を上回り、山添氏に次ぐ3番手だった。
「脱団塊」へ先に踏み出せるか
40代の支持を集める政党の政策的な特徴は何か。
維新は「次世代への投資をする」(吉村副代表の3日の演説)と出産無償化や教育無償化など子育て世代支援や、雇用労働政策でも解雇紛争の金銭解決を可能にするなどを含めた労働市場改革を打ち出す。れいわは「国の財源を活用して、新卒者にとどまらず、幅広い世代、とりわけロスジェネ世代で、正規雇用を増やす」(公式サイト)と訴えている。
もちろん自民も旧民主系の立民なども相応に“氷河期対策”を打ち出してはおり、それらの政党を支持する40代も多いが、維新とれいわが一定度、この世代で存在感を示しているのは、業界団体や労組組織を支持基盤としてきた既存政党では「脱団塊」への政策シフトの適合するスピード感はというと微妙に思われている点がありそうだ。
衆院選後、本サイトでは選挙市場で進む「脱団塊」にスポットを当てた記事を何本か掲載したが、そのうち1本を書いた医療行政アナリストの中田智之氏は当時の記事で、
いままでの雇用形態や社会保障の枠組みでは解決できない問題を前に、社会構造の現状維持はもはや限界。新しい主役であるロスジェネたちは、これまでのような国民負担増と企業・施設主導型の社会福祉ではなく、減税×地域経済、減税×庶民の暮らしという新しい社会政策によって、「先」へと向かおうとしています。
と指摘している。「先」を見据えて動いている姿勢を示し、行動力があるのかどうかも各党、各陣営に最終的に問われるところだ。
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