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 8月5~7日にフランス・アルザス地方に位置するアノー・デュ・ハンで開催された2022年WTCR世界ツーリングカー・カップ第7戦を前に、昨季のチャンピオンチームでもあるリンク&コー・シアン・レーシングがシリーズで使用されているグッドイヤーのコントロールタイヤに関する安全性の懸念が継続しているとして「今季WTCRプログラムの即時中止」と撤退をアナウンスした。これに対し、TCR規定を統括するWSCグループ代表のマルチェロ・ロッティや、シリーズプロモーターを務めるディスカバリー・スポーツイベント、そしてシリーズディレクターのジャン-バティスト・レイら関係者から驚きと疑念の声が数多く挙がっている。

 5月に開催されたドイツ・ニュルブルクリンクでの第2戦に端を発したこの問題は、ノルドシュライフェで走行を開始したホンダやリンク&コー陣営を中心に、タイヤの予期せぬパンクや層間剥離のような症状が頻発し、予選までを実施した段階でレース開催自体がキャンセルされる緊急事態となった。

 さらにイタリア・バレルンガで7月23~24日に開催された第6戦では、ふたたび同じ症状が複数のマニュファクチャラーで発生。グリッド上で最多ウエイトを搭載するリンク&コー・シアン・レーシングは「ドライバーの身の安全を守る上で、迅速かつ必要な措置」を求めたが、予選後になっても満足な回答が得られなかったとして同戦からの撤退を決断する事態に発展していた。

 その第6戦時点のリンク&コー03 TCR車両総重量は、基本のBoPと戦績によるコンペンセイション・ウエイトを合わせて1355kgに到達しており、この数値はライバルのどの車種と比較しても、実に50kg以上もヘビーな「危険な状態」となっていた。

 陣営の5台全車がレース参加を拒否する異常事態を経て、グッドイヤーも「全タイヤを回収し、あらゆる情報から根本的要因を精査する」としていたが、4冠王者イヴァン・ミューラーや、3連覇に挑むヤン・エルラシェールの故郷での1戦を前に、改めて「製造上の問題は発見されておらず、今後のレースタイヤの仕様に変更はない」との声明を発表した。

 その上で「一部のマシンのタイヤ温度がドイツ戦を除き、過去2年のWTCRで見られたどのレベルよりも高く、使用推奨範囲を超えていた」として、マシンの「セットアップ、コースの厳しさ、路面温度の影響分析など原因を完全に理解する」べく全チームとの情報開示を含む完全協力を確約。シリーズとも協議し、このアルザスでの週末はコンペンセイション・ウエイトを特例的に20kg削減し、供給セット数増加と2回の追加セッションを設けるとしていた。

 しかし、走行開始直前の金曜未明にシアン・レーシングのチームマネージャーであるフレデリック・ウォーレンはコメントを発表し「進行中の話し合いにより、チームの懸念に対する解決策を見つけることができなかった」として、WTCRでのすべての活動を即時に中止する決定を下した。

「今年のタイヤは、すべてのトラックでクルマの性能とその重量を許容できない状態であり、その問題が適正に処理されないままレースウイークを迎える事態となった。その結果、我々のドライバーは高速でのタイヤ故障やクラッシュにさらされており、シアン・レーシングが安全にシーズンを続けることは不可能だと判断した」と語ったウォーレン。

「すべてのメンバーが勝つためにここに来ているし、今日のこの場所に到達するために多くのことを犠牲にしてきた。それだけに、これは我々がこれまでに下したもっとも難しい決定だった。しかし現在の状況では安全な方法でレースを戦うことはできず、安全が最優先事項だ。この厳しい状況でのFIAのサポートに感謝したい」

イタリア・バレルンガで7月23~24日に開催された第6戦では、複数のマニュファクチャラーでふたたびタイヤの問題が発生
第6戦時点のLynk&Co 03 TCR車両総重量は、基本のBoPと戦績によるコンペンセイション・ウエイトを合わせて1355kgに到達していた

自身の地元、フランス・アルザス地方アノー・デュ・ハンでのイベント開催目前に、凱旋の機会を失ったイヴァン・ミューラー

■「すべての関係者、プロモーターにとって『パーフェクトに最悪』の事態」とレイ

 同じくリンク&コーブランドを傘下に収めるジーリーグループ(吉利汽車グループ)モータースポーツ部門責任者であるアレクサンダー・ムルドゼフスキー・シェドビンは「チーム、ドライバー、商業パートナー、そしてファンにとって、長期にわたる非常に苛立たしい状況であり、次第にチャンピオンシップから追い出されたようなものだ」と、より直接的に心情を吐露した。

「解決策を見つけようとするFIAの努力には非常に感謝している。しかし残念ながら、関係者の努力を結集しても我々が安全にWTCRに参加できるようにするための満足のいく解決策は得られなかった」

 ファンや関係者に衝撃を与えたこの決定に対し、前出のWSC代表ロッティは「何の根拠もなく下された決定に驚いている」と懸念を表明した。

「WSCはつねに競技者の決定を尊重してきたが、この場合、私は何の根拠も見つけることができないでいる」と続けたロッティ。「全車レース重量の20kg削減や、週末に使用できるタイヤセット数の増加などはどう考えればいい。その重量削減により、少なくともリンク&コー03 TCRは2021年最終戦より30kg軽くなることは指摘しておく価値があるだろう」

「加えて、週末のスケジュールには2回の追加セッションが設けられ、トラックの特性に関してこれら対策の有効性を評価する機会を、すべてのエントラントに提供している。WSCは今週末、アノー・デュ・ハンに代表として赴き、FIA、プロモーター、エントラント、利害関係者への全面的な支援を約束する」

 さらにプロモーターのディスカバリー・スポーツイベントは独自の声明をリリースし、リンク&コー・シアン・レーシングの動きに「驚きと懸念」を表明した。

「イタリアで発生したタイヤの問題とその懸念に対処するため、FIA、シアン・レーシング、吉利汽車グループ・モータースポーツ、グッドイヤー、そしてWSCの間で広範な対話が行われたことを考慮すると、予想だにしない事態でした」

「シリーズを象徴するふたりのドライバーのホームレースを目前に控え、驚くべきことであるだけでなく、非常に残念なことでもあり、我々は一貫してWTCR Race of Alsace GrandEstのプロモーターやファンと、そのフラストレーションを共有しています」と綴られた。

 また土曜現地のメディア会見では、WTCRのディレクターであるレイが登壇し「2023年の復帰に向け、彼らの組織がタイヤの問題とその解決策を見つけることができると確信している」と語った。

「我々の目標は、来季彼らのWTCR復帰合意を促すため、進行中の議論を継続することだ」と続けたレイ。「シアン・レーシングは長年このシリーズに参加してきた。我々はそれを尊重する必要があり、とくにイヴァンとヤンのことを思うと、この状況はすべての関係者、プロモーターにとって『パーフェクトに最悪』の事態だ」

「彼らにとって難しい決断だったに違いないという事実を軽視する気はないが、我々は協力する必要がある。シリーズの将来に関して、WTCRが現在困難な時期を迎えていることは事実で、状況を修正するため努力を続けていく」

グッドイヤーも「一部のマシンのタイヤ温度がドイツ戦を除き、過去2年のWTCRで見られたどのレベルよりも高く、使用推奨範囲を超えていた」としている
事実上、これでヤン・エルラシェールのシリーズ連覇の芽も絶たれてしまった
第7戦の模様は追って別項でお伝えするが、これで週末の参加台数はわずか12台の状況となった