大手メガネチェーン「JINS(ジンズ)」を展開する株式会社ジンズ(東京都千代田区、田中仁代表取締役CEO)は3日、全国の店舗で働く準社員やパート従業員の待遇を、東京水準に一律化すると発表した。
今年9月勤務分(10月支給分)から新たな給与体系が導入される予定で、昇給額が最も大きい地域での昇給率は30%以上となる。ジンズによれば、メガネなどのアイウェア業界において東京水準で全国一律のベース時給を導入する企業は初めてで、全国展開している小売業界でも過去にほぼ例がないという。
背景に深刻な地方の人手不足
ジンズは、発表にあたって「本改定を通じて、全国47都道府県どこであっても東京水準の給与で働き生活する人々を増やすことで、地方創生の一助となることを目指すとともに、さらなる従業員の待遇改善も検討してまいります」と述べている。
ジンズが画期的な給与体系を導入する背景にあるのは、地方の人手不足だろう。超少子高齢社会にあって、供給力の大きな源泉である人口が減少しつつあり、それは地方都市で特に顕著だ。地方都市の多くは人口減少に悩んでおり、必然的に労働人口も減少している。
新型コロナで若干その動きは弱まったものの、東京への一極集中は続いており、総務省統計局の資料によると、毎年10万人から20万人が地方都市から東京圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に移っている。
また、東京圏への転入が多い都市を転入超過数別に見てみると、札幌市、仙台市、名古屋市、福岡市といった政令指定都市が上位に並んでいる。男女の割合では女性が多く、東京圏への転入の理由としては10代が「進学」、20代以上では「就職」が多かった。
毎年のように10万人から20万人の人が東京圏に移ってしまっては、地方都市の働き手はますます減るばかりだ。進学を理由に東京圏へ転入した10代の多くも、就職の際に地元に戻らず、東京圏でそのまま就職してしまう。将来的にみても、地方の人手不足が解消する見通しは立たない。
地方の居酒屋店主がジンズに期待するワケ
ある政令指定都市で数店舗の居酒屋を経営する40代男性は、地方の人手不足の深刻さを次のように嘆く。
「本当に人手不足は深刻ですね。うちは、ほかの店と比べると10%から20%ほど高い時給を出しているのですが、それでもなかなか集まりません。たとえ雇えたとしても、ほかにもっと待遇が良いところがあればすぐそこに移られてしまう。打つ手なしというのが現状ですね」
そうした中、大手のジンズが東京水準の待遇を保証するとなると、さらに人材獲得が難しくなるのではないか。ただ、この男性に今回のジンズの取り組みへの感想を聞くと、意外なほど、好意的だった。
「地方でも東京並みに稼げるとなると、まず、人材流出がストップするかもしれません。それに、1社が時給を上げるとほかの会社も時給を上げざるを得なくなります。市民の可処分所得が増えれば飲みに出かける人も増えるでしょうし、地域も活性化します。結果的に、いろいろな業界に良い効果が波及してくんじゃないかと期待しています。
とにかく、地方から東京に出ていく流れを少し穏やかにしないと将来的にかなりまずいことになるんじゃないでしょうか」
今回の、ジンズの取り組みはどのような結果になるか。地方活性化を考えるうえで、非常に注目されるだろう。