救急隊の現場到着所要時間および病院収容所要時間が年々伸びている。総務省消防庁の資料によると、救急車の現場到着所要時間は、平成28年のデータで、10年前(平成18年)よりも1.9分、病院収容所要時間は、7.3分も伸びているという。そのひとつとして考えられるのが、道を走るドライバーにとって、救急車のサイレン音が聞こえにくくなっていることだ。
サイレンの音量が小さくなった(サイレン音の音量基準は約70年前から不変)わけではなく、遮音ガラスの採用などによってクルマの外の音が聞こえにくくなったこと、「サイレン音がうるさい」などの苦情が多いことから、スピーカーの位置などを工夫していること(サイレン音の音量は決められた基準よりも小さくすることはできない)などが理由として考えられる。
また、日本の救急車のサイレン音は、高齢者には聞こえづらい周波数であることから、ドライバーの高齢化によってサイレン音が聞こえづらいドライバーが増え、救急車に道を譲る行為が遅れることによって、救急車の現場到着/病院収容時間に影響していることも考えられる。救急車に限らず、緊急走行中の緊急車両には命がかかっている。命を守るためには一刻も早く目的地にたどり着かなければならず、対策が急務だ。
緊急走行中の緊急車両に気づいたとき、ドライバーがとらなければならない行動をご紹介するとともに、ドライバーがなるべく早い段階で緊急車両に気づくにはどうしたらよいか、考えてみよう。
文:吉川賢一
アイキャッチ写真:Adobe Stock_jaraku
写真:Adobe Stock、写真AC
緊急車両を通すため、最大限の努力をする義務がある
ご存じのとおり、緊急走行中の緊急車両に道を譲るのは、道路交通法で規定されているドライバーの義務だ。緊急車両に気づいたら、基本的には道路の左側に寄って、自車の右側に緊急車両が通ることができる隙間をつくる必要がある。
緊急走行中の緊急車両が近づいているにもかかわらず、そのまま走行したり、緊急車両が合流をしようとしているときにそれを妨害すれば、「緊急車等妨害違反」や「本線車道緊急車妨害違反」となり、反則金は6000円(普通車)、交通違反点数1点が加算される。渋滞していたり、道幅が狭い場所であっても、周囲の安全に注意しながら前後左右のクルマと協力して、緊急車両が通行できるよう、最大限の努力をしなければならない。
もちろん、何をしてでも道を譲らなければならない、というわけではなく、「安全運転の義務」(道路交通法第70条)の範囲で努力することが求められる。縁石やガードレールにボディをこすりつけるまでして道をあけたり、前のクルマにぶつけて押し除けたりしてはいけない。
クルマの全幅は大体1.7m~2.0m程度、道路の幅はおおよそ3.0m~3.5m(一車線の幅、場所による)であることを考えれば、たとえ2車線が渋滞で埋まっていたとしても、ちょっとずつ詰めれば、救急車を通すことは可能。バスやトラックといった大型車がいた場合は難しくなるが、それも周囲のクルマと協力すれば何とかなるはずだ。
強制的にドライバーに気づかせる機能が必要
緊急車両が接近してきたら、前述のように道を譲らなければならないが、そもそも気づかなければ道を譲ることができない。ただ、冒頭に触れたような理由で、昨今は緊急車両の接近に気づかない、というケースも少なくない。
冒頭で触れた、サイレン音が、高齢者に聞こえづらい周波数であることに関しては、複数の周波数をもつサイレン音とするなどの改善の余地があると思われる。ただ、クルマの静粛性が上がったことで、ドライバーに聞こえづらくなっていることに関しては、音量をあげるにも限度があることから、なかなか難しい。そこで期待されているのが、緊急車両の接近を教えてくれる先進機能だ。
トヨタがオプション設定している「ITSコネクト」というコネクティッドサービスは、道路とクルマ、あるいはクルマ同士が直接通信して情報を共有することで、安全運転を支援するサービス。その機能のひとつに、サイレンを鳴らしている緊急車両が近づくと、ブザー音が鳴り、自車両に対するおおよその方向、距離、緊急車両の進行方向を表示してくれる「緊急車両存在通知」機能がある。
オプション価格は税込27,500円となっており、設定車種は、プリウス/プリウスPHV、MIRAI、ハリアー、ノア/ヴォクシー、アルファード/ヴェルファイア、新型ランクル、新型クラウンなど、比較的高額車に設定されている。効果のほども実証済で、消防庁が名古屋市および豊田市で行った実証実験では、「救急車が走行する主要道の交差点間(計16区間)において、救急車の緊急走行時間が平均7.7%短縮した」という。
補助金などで、普及推進を!!
ただ、「ITSコネクト」の「緊急車両存在通知」のような機能は、現時点では、国内他メーカーでの導入の流れはない。某自動車メーカー勤務でITSに詳しい担当者によると、ITSコネクトはトヨタ主体の日本国内のみの規格であるため、国際的に進めようとしている「Connected」の規格とはちょっと違うそう。日産やホンダなどは、国際基準に足並みを合わせて開発を進めているが、現在はまだ研究や実証実験を行っている段階とのこと。
ただ、緊急車両の到着が遅れるという、命にも関わるような実害が出ていることを考えれば、国際規格の完成を待たずに、国内のみのルールでも、普及が進んでほしいと考える。「部分最適化」「ガラパゴス化」だと言われようとも、速やかな普及を優先してほしい。
また、トヨタの「ITSコネクト」に関しても、オプション装備であり、価格も安いとはいえない。ITSコネクト推進協議会によるアンケート調査によると、ITSコネクトの認知度は全体の約10%であり、そのうち80%の方が「役立つサービスだと思う」と回答する一方、「自分の車につけたい」と答えたのは全体の約70%(つけたい人のうち約75%が標準装備を望んでいる)、装備したくない理由としては、ダントツで「取り付け費用が高そうだから」だった。
「どれくらいの価格であれば装着したいか」という問いには、27.5%が「0円~5000円」、23.1%が「5000円~1万円」と回答。1万円以上であっても搭載を望む声が残り半数いることを考えると、さらなる認知と低コスト化が進めば、一気に普及すると思われる。繰り返しになるが、街を走るドライバーが緊急走行中の緊急車両の存在に気づき、道を譲ることは、国民の命に関わることであるため、サポカー制度のように、政府補助金や免税、保険料割引などと合わせて、一気に普及させてほしいと思う。
【画像ギャラリー】緊急走行中の緊急車両が近づいてきたとき、ドライバーがとらなければならない行動と、強制的に気づくための最新システム(7枚)画像ギャラリー投稿 知らないのかーっ!?? 救急車が近づいた時にすべきことと標準化してほしい装備 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。