「お客様は神様です」。このフレーズは、歌手の三波春夫さんが生み出したと言われている。お客様=観客へ対して三波さんが、神前で祈るときのように雑念を払い、澄み切った気持ちで歌を届ける姿勢を言葉にしたものだという。三波春夫さんの心構えを表現した、非常にいい言葉だ。
しかし、今では、「お客様は神様」なんだからサービスしなさい、などのクレームの常套句として使われ、サービスを提供する側も「お客様は神様だから仕方ないよな」と、元々の真意から大きくかけ離れた意味合いで使用されることが多い。
この短いフレーズが独り歩きした結果、接客業に携わる人々は様々な経験をしているだろう。その一例として今回は、ディーラー営業マンを取り上げたい。筆者も多数体験してきた、自動車ディーラーで繰り広げられる、ありえない顧客とのやり取りを紹介していきたい。
文/佐々木 亘、写真/AdobeStock、ぱくたそ、写真AC
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■メーカーの役員と関係性があることを匂わせる
ディーラーとメーカーの立場の違いを利用し、ディーラーへ対して圧力をかけようとするケースは頻繁に起こる。どうしてもメーカーよりは弱そうに見えるディーラーの存在。故に、「メーカーの○○と知り合いだ」などと言って、法外なサービスを要求されるケースは多い。
中には、「この金額にならないんだったら、○○に言って、お前を辞めさせるからな」と、もはや恐喝のようなことを言われることもある。もちろんメーカーの役員に、販売店へ勤務する営業マンを辞めさせる権限などないのだが。
挨拶の場や酒席でのやり取りが主だったものだろうから、当人同士がどのようなやり取りをしているのかは、わからない。ただ、名刺1枚、写真1枚で販売活動を妨害されるどころか、自分の職まで心配しなければならないのは、理解に苦しむ。
もちろんメーカーからお願いされて、販売条件をお勉強しながら売るケースはあるが、この場合はメーカーと販売店の上席同士で、密なやり取りがあるものだ。
アポなしの来店で、メーカー役員の名刺を、水戸黄門の印籠のように使う人がいる。こうした人の多くは、最終的に脅しをかけてくるから、早めにお帰り願うのが良い対応だと思う。
■黙って言うことを聞け、お前はクルマを売ればそれでいい
お客様は神様だから、何を言ってもいいわけではない。ただ、そんなことはお構いなしに、様々な言葉を浴びせかけられるのが、全国の営業マンたちだろう。
もちろん来店していただくお客様の9割5分は、良いお客様である。しかし、残りの5%の中に、自称「神様」が存在するのだ。
自称神様の言葉は辛辣だ。中でも、値引きの希望やサービス品の願いが届かなかったときに言われた言葉が衝撃的だった。
「お前はクルマの販売員なんだから、黙って俺の言うとおりにクルマを売ればいいんだよ。生意気言ってないで、これで注文書作れよ、バカが」
年に何回か、こうした言葉を受ける機会がある。パワハラ、モラハラなどと言われるが、これは立派なカスタマーハラスメントと言えるだろう。
■カタログと燃費が違うから返品だ
購入したクルマが、想像と違うと言って、すぐに返品だと騒ぐ人も多い。「色のイメージが違う」「運転がしにくい」「燃費がカタログ通りではない」など、その返品の理由は様々だ。
電話対応ならまだいいが、直接ショールームへきて、「クルマを置いていくから、今すぐ支払ったお金をここに用意しろ」と居座られたのには参った。この返品理由も、クルマの燃費が悪いからというもの。
明らかな不良が原因であれば対応するが、多くはクルマが正常な状態で文句を言われる。この場合は対応が出来ない。自動車においてはクーリングオフ制度がないため、通販の商品のように、期間内に返品すれば返金されるというものではないことを、読者の方には覚えておいてほしい。
また、想像と違う、気に入らないという感情は、人を恐ろしいものへと変えてしまう。
ある程度の期間、付き合いがあったオーナー宅で商談していた時の事だ。下取りに出す予定のクルマを査定し、その金額を伝えたところ、表情が一変した。
おそらく想像よりもかなり低い金額だったようで、睨みつけられながら「なんだ、その額は、なめてんのか。お前の家族いるんだろ、どこだよ、住所言え。今から行って、やってやるよ」と脅された時には正直参った。
仕事しているだけなのに、家族にまで手を上げられては、たまったものではない。脅迫というか、ほぼ暴力。この件では、営業所へ電話で確認するフリをして、ボイスレコーダーを動かし、関係機関に相談した。
商談という時間がかかる作業をする中では、特別に怖い人でなくても、普通の人が豹変するケースが多い。商談は人と人の交渉だ。脅してもゆすっても、いい結果は出ないだろう。営業マンからすると、自称「神様」以外の方々の方が、神様に相応しい人だと思ってしまう。
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投稿 ゆすり、脅迫なんでもあり!? もう勘弁して!! ディーラーマンが経験したありえない顧客たち は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。