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 悲惨な左折巻き込み事故がなかなか減りません。

 これまで注意義務を怠ったトラックドライバーの責任とみなされることの多かった左折事故ですが、自転車やバイク、歩行者の側にももっと気をつけてほしいというのがトラックドライバーの偽らざる心境だと思います。

 ベテランドライバーの「渚・涼のパパ」も、そういった人たちにさまざまな事例をあげて注意を促します。が、それだけではありません。

 トラックの側にも強く自制を求めています。それは、左折死亡事故の悲惨さをよく知っているからです。事故を起こしたドライバーも知り合いなら、亡くなった娘さんの父親も知り合いのドライバーでした。

文/渚・涼のパパ 写真/フルロード編集部・かんちゃん
*2022年6月発行トラックマガジン「アフルロード」第45号より


交通事故の7割強が交差点で発生している

 皆さん、こんにちは! 大阪で海コンドライバーをやっている「渚・涼のパパ」です。

 私は20歳で集配ドライバーに就いてから、4t、10t、配車業務を経て、現在、トレーラに乗務しています。約30年、この業界で「飯」を食べてきました。

 その間、メーカーさんの努力もあり、乗用車同様トラックも進化を遂げ、走行性能だけでなくキャビンの中も快適に過ごせるようになりました。

 同時に「安全対策」も進み、クルマの性能に限らず、道交法の改正もなどもあり、近年の交通死亡事故の減少に繋がっていると思います。全体の流れとして「良い方向」に向かっていると感じます。

 ただ、左折巻き込み事故に関しては、昔から変わらず発生しており、重大事故になる可能性も非常に高い事故になっています。

 業務中、私が気を付けていることは「交通事故の約7割強が交差点で発生している」ということです。このことを常に頭に入れています。

車体の大きなトラックの右左折の注意点

 右折に関してはミラーだけでなく、しっかり目視をすることが必要です。左折に関しては、交差点への侵入前から左側を全体的に見て、ミラーから目を離さずゆっくり左折します。

 トラックの場合は左折する前にケツフリがあるので、右側のミラーも注視する。しかし、左側ばかりに意識が向いていると、意外に見落としがちになるのが「左前方から来る自転車」や「右側からまくってくるバイク」などです。

 まくってくるバイク野郎はやることが無謀なので危険です。前方から直進する自転車や歩行者は、「トラックから自分が見えているし、クルマ側が止まるだろう」と考え、私の経験上、間違いなく突っ込んできます。法律上、歩行者・自転車が優先なので理解できますが、これ、けっこう危ないんですよね。

左折時にはヘッドを右へ振ることが多いトレーラ。右から追い抜きをかけるバイクなどは危険な存在だ

 悪質なのは、信号が変わって赤なのに平気で進入してくる自転車の多いこと! 点滅信号に変わり、手を上げて素早く渡るのならまだしも、普通に何食わぬ顔をして赤信号を渡る方もいます。

 一昔前ならクラクションを鳴らすところですが、今のご時世、何処で誰が見ているかわからないし、勤務先に連絡を入れられると、理由はどうであれこっちとしては面倒なので、できるだけ穏便にやり過ごすことにします。不本意ながら仕方ありません。

 あと、年配の方が乗られている自転車も注意が必要です。ただでさえフラついているし、交差点でもそう。狭い道などでまわりを気にせず「その場」で急に止まります。

 後ろからトラックが接近して怖いのも理解できますが、その先に車道から外れる場所などがあれば、そこまで自転車をこいで行くとか、可能な限り広い場所まで移動するとか、徐行しながら止まらず走るとか、対応してほしいです。そのあたりを行政機関などにもアナウンスして欲しいですね。

 自転車が突然トラックの前に止まると、ドライバーとしても「何がしたいんや?」と思います。ホントに危険です。これって「アウンの呼吸」というか、ドライバーも歩行者も、お互いに「安全確認」や「譲り合い」をしなければ特に問題ないと思うのですが……。

プロドライバーとしての当然のスキル 

 万が一、接触事故が起こると大概はドライバーが悪くなります。本来、強い・弱いとか「立場の違い」ではなく、お互いに「気遣う気持ち」があれば、それだけでも事故は抑制できることでしょう。

 ただ、そうも行かないのが事実で、急いでいる場合は、おのずと周りに注意を払うことができなくなります。いくらクルマの性能が良くなっても、ドライバーはしっかり「自分の目」で確認しないといけないでしょう。それがプロドライバーに求められる「当然のスキル」だと思います。

 交差点に入る前からミニバイクや自転車を注視し、先に行かせる場合は交差点の手前から徐行します。ミニバイクや自転車を追い抜いた場合は、隙間を作らないように、左側にトラックを寄せて交差点へ侵入するのも大切でしょう。

 それでも、隙間を縫って前に行こうとするミニバイクは必ずいます。その場合は、ムリせず先に行かせます。

 あと、最近は見かけなくなりましたが、運送会社によっては交差点への進入時、一時停止を義務付けしていますね。あれは事故が発生した場合、歩行者や自転車の「怪我のリスク」の軽減など、一定の効果は見られるのでしょうが、私は、交差点へ進入する場合、しっかり徐行すれば問題ないと思います。

 何故かというと、トラックが交差点で左折時に一旦停止をすると、自転車や歩行者は「先に行かしてくれるもの」と考えて動き出し、ドライバーは、歩行者や自転車が止まっている時間が長くなると、歩行者側が待ってくれるものと思い、お互いに動き出しヒヤッとする「サンキュー事故」が起こる可能性があります。

 ドライバーは交差点への進入の流れを止めると、改めて「再確認」が必要となります。人通りの多い繁華街ではいいのかも知れませんが(それでもサンキュー事故が心配です)、明らかに「安全確認ができる交差点」は、しっかり徐行していれば、「運転業務の一連の流れ」として捉えることができ、安全かつスムーズに行くと思います。

ある路線運輸会社で起きた左折巻き込み事故の記憶

 左折事故は、巻き込まれた側が死亡事故になる可能性が高い事故です。ここからは、以前、私が出入りしていた路線運輸会社で起こったことを伝えようと思います。

 真冬の暗くなった夕方、大型トラックが歩道を跨ぎ、左折で路線会社の構内へと入場するときに、自転車に乗った女子児童を巻き込む事故が起きました。大型トラックのタイヤに巻き込まれた女の子が死亡する痛ましい事故です。被害者は、路線会社に併設された社宅に住んでいる社員の娘さんでした。

 事故が発生したのは真冬の夕方で、暗くなるのも早く、ドライバーからは「左折入場時に歩行者が見えにくい」との指摘が以前からありました。

 人の通りは少なく、社宅に住む子供たちには「充分に気をつけ、できれば通行しないように」と会社がアナウンスしていました。社宅に住んでいる方々も、危ないから気をつけていたはずです。

 しかし、死亡事故が起きてしまいました。年末の繁忙期で、誰しも疲れていたのは間違いありませんが、ことの重大さを考えれば、なんの言い訳にもなりません。加害者のドライバーは、「疲れが溜まっていて、ついつい寝過ごしてしまい、積み込み先の路線会社の点呼に遅れそうなので、確認不足で左折してしまった」と涙を流しながら供述していたようです。

時間に追われ、急いでるときこそ事故は起きやすい

 積み込み先の点呼なんて電話一本入れれば済む話なのですが、それをするのが煩わしかったのでしょう。私も寝過ごしたことがあり、「接車時間に遅れる」と連絡を入れると、担当者から無愛想な声で「早く来て、番線(トラックをバックで着けて積み込みする場所のこと)の荷物積んでよ!」なんて、言われたものです。

 気持ちはわかります。しかし、何度も言いますが、死亡事故を起こしていい理由にはなりません。

 事故を起こしたのは他社のドライバーでしたが、いつも隣りの番線で冗談を言いながら荷台に積み込みをしていました。彼が口ぐせのように言っていたのは「子供にお金がかかるから、しんどいけど長距離運行やめられない!」でした。

 事情はいろいろあれど、死亡事故を起こしたその瞬間から「交通事故の加害者」になってしまいました。

 被害者の女の子は私もよく知っている若手集配ドライバーの娘さんでした。今、考えても悲惨過ぎます。その後、路線会社の入口には常時ガードマンが立ち、誘導するようになりました。

 しかし亡くなった女の子は戻ってきません。私にとっても、この出来事はショック過ぎて、「トラック運転手辞めようかなぁ」って、考えた時期でもありました。

悲惨な左折事故を少しでも減らすために

 いくら、技術が発達しても、最後は「ドライバーの目」が大事になります。重大事故が発生すると、加害者、被害者、双方の家族、知人、皆が辛い思いをしなければなりません。だから、私は急いでいるときほどスピードを緩め、安全確認をします。だって、自動車レースをしているわけではないでしょう?

 プロドライバーなのですから安全輸送を一番に考えなければなりません。これはベテランも新人も関係なく、運転し、荷物を運び、お金を稼いだ時点で、皆がプロドライバーになります。世間では、ドライバー職は「底辺の仕事」なんて言われますが、そんなことはありません。言いたい奴には言わしといたらいいんです。

 「そんなくだらんことを言う暇があるんやったら、もっと周りに感謝して、御自身を高めることをされたらいかがですか?」と答えてやりたい。

 まぁ、いつものように脱線しましたが、少しずつでも、交差点での左折事故がなくなっていくことを、切に願います。そしてこれからも、安全運転、安全確認を意識して運転するように心掛けます。それでは皆さんもご安全に!

投稿 多発する左折事故を少しでも減らしたい! 悲惨な事故を知るベテラントラック運転手からの提言自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。