ついにその存在と発売時期が明らかになったトヨタの新型クラウン。これまでにない大胆なモデルチェンジはクラウンの新たな道を切り開くのか? 今回は、クラウンの歴史において転換点になったモデルとその成否、そして新たな展開を見せるクラウンについて検証してくことにしたい。
文/長谷川 敦、写真/トヨタ、三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY、FavCars.com
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国産初の高級車、初代クラウンは”日本人の夢”をのせたクルマだった!
初代クラウンが発売されたのは1955年。戦後からの復興の象徴的存在として、海外メーカーからのパーツ供給に頼らずに製造されたのがトヨペット・クラウンだ。
トヨペット・クラウンの販売価格は100万円で、これは当時の国内平均年間所得の実に10倍。庶民にとってはとても手の届かない価格帯であり、購入できるのは富裕層と社用車目的にする景気の良い会社くらいだった。「王冠」の意味を持つクラウンという車名には、それだけの価値があることを指していた。
初代クラウンに搭載されていたエンジンは1.5リッターの直列4気筒OHV型。最高馬力は48psで、この時代では十分にパワフルなエンジンだった。サスペンションにはフロント/ダブルウィッシュボーン、リア/リーフ式リジッドアクスルを採用し、車格に恥じない乗り心地が確保された。
その後はマイナーチェンジやバリエーションの追加も行われ、1962年の2代目登場までトヨタのフラグシップモデルであり続けた初代トヨペット・クラウンは、50年以上も続くことになるクラウン史の幕開けを飾るにふさわしいモデルと言えた。
アグレッシブなデザインが賛否両論だった4代目クラウン
2~3代目クラウンは時代の流れに応じた外観デザインの変更を行い、売り上げ台数も順調に伸ばしてきた。だが、1971年に登場した4代目クラウンは、大幅にデザインを変えたことで市場に驚きを与えた。
スピンドル・シェイプ(紡錘形)と呼ばれたそのスタイルは、直線を基調にした従来のクラウンとは対照的に丸みを帯び、特に目を惹いたのがボディと同色になったフロントバンパーと、ヘッドライト上部に独立して設けられたスモールライトだった。
先代とはあまりに違うデザインに好意的な意見もあったが、同時に「クラウンらしくない」との声も聞かれ、シルエットの丸さからスピンドル・シェイプならぬ「クジラクラウン」と呼ばれることになった。愛称とも揶揄ともとれるこのクジラクラウンの名は、現在でも4代目クラウンとともに語られる。
デザインの変更は見た目だけでなく機能上でも問題を起こしてしまった。フロント回りを絞ったことによりエンジンルームに流れる空気量が減ってオーバーヒートが多発し、運転席から見てクルマの前端がわかりにくいという難点にもつながった。
これらの理由もあって、4代目クラウンの売り上げは直接のライバルだった日産のセドリック/グロリアに遅れをとった。これはクラウンの歴史上唯一の失態とも言われている。この4代目から「トヨペット」の冠が外され、トヨタ クラウンとなったにもかかわらず、幸先の悪いスタートになった。
後継モデルの5代目クラウンは4代目登場からわずか3年後の1974年に販売が開始されるが、この5代目では保守的なデザインに回帰して、売り上げを回復させることに成功している。
ゼロからのリスタートは王政復古の狼煙?
1983年発売の7代目で採用したキャッチコピーの「いつかはクラウン」でさらなる需要喚起に成功したクラウン。この7代目ではシリーズ初の「アスリート」グレードが設定され、高級車でありながらより若い層にアピールする戦略も用いられた。
こうして堅調なセールスを続けていたクラウンだったが、1990年代中盤に入ると、バブル景気崩壊の余波もうけて好調さに陰りが見られるようになる。
人々の価値観の多様化や、ミニバン&SUVブームの影響はクラウンにもおよび、その保守的な路線がネガティブにとらえられるケースも出てきた。これが直接の原因になったのかは不明だが、クラウンの売り上げは緩やかながらも下降傾向に変わっていった。
この状況を打開するため、トヨタは2003年発売の12代目クラウンを新たなるスタートと位置づけ、「ZERO CROWN~かつてゴールだったクルマが、いまスタートになる~」とのキャッチコピーとともに登場させた。
ゼロと言うだけあってプラットフォームは刷新され、エンジンも伝統の直列6気筒からV型6気筒に変更。サスペンションも見直された。ルックスもより現代的なものにあらためられ、新世代のモデルであることを強調した。
ゼロクラウン投入は成功し、クラウンの売り上げは回復傾向を見せた。しかし、それも一時的なものであり、続くモデルのセールスは再び減少していってしまう。
クラウンの神通力が弱体化!? シリーズ消滅の危機に!?
2018年には15代目のクラウンが登場する。オーナーの年齢層を引き下げることを目的に、インターネットを積極的に活用する初代コネクテッドカーの名を掲げてリリースされた15代目だが、この時代に多くの人がクルマに求めたのはエコや使い勝手の良さだった。
大柄な高級セダンというクラウンの車格そのものが一般への訴求力とならず、新型コロナ流行などの向かい風もあって、残念ながらセールスの劇的な回復とはならなかった。とはいえ、売れていないかといえばそうでもなく、2021年の売り上げ台数は約2万1000台と健闘はしている。4ドアセダンの市場自体が小さくなっていることを考えると悪くない数字なのは、やはり“クラウン”のネームバリューの力か?
しかし、クラウンの神通力が弱まっているのも事実であり、7月に新型の発売が正式にアナウンスされるまでは、クラウンシリーズの消滅、あるいはセダンをやめてSUVへ一本化するなどのウワサも流れた。
新型クラウンの登場はマンネリ打破か? それとも…
2022年7月15日、トヨタから通算16代目となる新型クラウンが発表された。消滅の危機までささやかれたクラウンだったが、無事に新型が登場することはファンから歓迎された。だが、公開された新型クラウンの姿は多くの人に驚きを与えた。
「クロスオーバー」「セダン」「スポーツ」「エステート」の4モデルがリリースされることになった新型クラウンには、これまでの4ドアセダンのお手本的デザインからは離れて、リフトアップしたSUV的なルックスが与えられてた。
ある意味SUVへの一本化というウワサを裏づけるような新型クラウンは、従来の路線からの脱却を図っていることがその出で立ちからもわかる。
まずはクロスオーバーから発売され、順次各タイプが登場することが発表されているが、従来型との大きな違いはFRベースではなくFFベースのモデルになること。FRならではの重厚感のある走りがクラウンのウリでもあったが、これがどのように変わってくるのか興味深い。
新型クラウンについてはまだまだ謎の部分も多い。それはこれから明らかになるはずだが、いずれにせよ、“偉大なるマンネリ”からの脱却が狙いであるのは間違いないだろう。
4代目クジラクラウンのように、長いシリーズの間には異色のモデルも存在していたが、基本的には高級4ドアセダンの王道を歩んできたトヨタのクラウン。新型クラウンは、姿は違えどその王道の延長線上にあるのか、あるいは名称と車格を継承するまったくの別モノとなるのか? 今後の動向から目が離せない。
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投稿 時代のトップランナー、クラウンに死角なし!? 偉大なるマンネリズムこそがクラウンの強み!? は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。