イギリスのボリス・ジョンソン首相が7日、保守党党首を辞任し、首相の座も後任が決まり次第、辞める意向を表明した。直前には路線対立で閣僚や政府高官の辞任が相次ぎ、退任は時間の問題と見られていたが、これまでも自身や側近の不祥事、スキャンダルが重なっていた。
50人超の政権高官が辞表提出
英テレビ局ITVは今年5月23日、ジョンソン首相がコロナ禍のロックダウン中にかかわらず首相官邸で開かれたパーティで飲酒している写真を公開した。写真は、2020年11月19日に撮影されたもので、外出規制や店舗閉鎖といった強力なロックダウン措置が取られていた時期だ。
ジョンソン首相の“パーティ問題”については、昨年末以降、屋内での集まりが制限されていた時期に複数の飲み会やパーティが行われていた事実が相次いで判明していた。こうしたことを受け、ジョンソン首相の支持率はこのところ低迷していた。ピーク時に6割を超えていたジョンソン首相の支持率は、“パーティ問題”を受け、今年1月中旬には2割近くにまで下落。支持率は、ロシアのウクライナ侵略への毅然とした対応などでいったん持ち直したものの、このところ再度3割を割り込んでいた。
この状況に輪をかけたのが、側近のスキャンダルだ。ジョンソン首相は、今年2月に与党・保守党の院内副幹事長に任命したクリス・ピンチャー議員の痴漢疑惑が浮上。ピンチャー議員は、過去にも幾度かスキャンダル疑惑が報じられていた。ジョンソン首相は議会から、「そのことを承知しながら重要ポストにつけたのでは?」と議会から追及を受けた。その疑惑について、当初、ジョンソン首相は「何も知らなかった」と弁明。しかし、その後「2年ほど前、報告は受けていたが忘れていた」、最終的に「知っていた」と認め謝罪に追い込まれていた。
嘘をついていたことで、党内でのジョンソン首相への信頼は失墜し、政権高官らの辞表提出が続き、その数は50人を超えた。これでは、政権運営などできるはずもない。
桃ジュースと「かりんとう」
こうして辞任に追い込まれたジョンソン首相だが、ジョンソン首相と言えば、桃ジュースや「かりんとう」を思い出す人も多いのではないだろうか。
2017年12月に行われた日英外相会談の席で、外相時のジョンソン首相が河野太郎外相(当時)の持参した福島県産の桃ジュースをおいしそうに飲む姿がニュースになった。当時、河野氏は、ツイッターでジュースを飲むジョンソン氏の動画付きで次のようにツイートしていた。
ボリス ジョンソン英国外相が福島の桃ジュースを美味しそうに飲むところ。福島の桃を食べたいと言ってくれていたのですが、シーズンを外しているので桃ジュースを代わりに持っていきました。
ボリス ジョンソン英国外相が福島の桃ジュースを美味しそうに飲むところ。福島の桃を食べたいと言ってくれていたのですが、シーズンを外しているので桃ジュースを代わりに持っていきました。 pic.twitter.com/6xjv7jj0In
— 河野太郎 (@konotarogomame) December 14, 2017
さらに、「かりんとう」だ。今年3月に行われた日英首脳会談で、ジョンソン首相が日本のお菓子「かりんとう」を持参し、岸田首相と一緒に食べるという一幕があった。両首脳が食べたのは、福島県本宮市にある「菓子処ぬか茂」の「紅茶かりんとう」。その際、ジョンソン首相は、「自分は福島産かりんとうを愛好している」と述べたという。
福島県産品の輸入規制撤廃
桃ジュースも「かりんとう」も、福島県産。こうしたジョンソン首相の“福島好き”も手伝ってか、11年前の福島第一原発の事故以来続いていた福島県産の食品などに対する輸入規制が先月末、撤廃された。6月28日に行われた日英首脳会談の席でジョンソン首相はこのことに触れ、「ようやく福島県産の食品がイギリスの店頭に並ぶ。うれしいことだ」と述べた。
このニュースに、ツイッターでジョンソン首相へ感謝の意を伝える人は少なくなかった。
ジョンソン首相、いつぞや福島の桃ジュースを飲んでくれたりもしてたな。本当に感謝しかない
福島県民として、ジョンソン首相に御礼申し上げます
ボリスさん、ありがとうございます!
ゼレンスキー大統領「ウクライナの真の友人」
ジョンソン首相の辞任を残念がっている人はほかにもいる。ウクライナの人々だ。ロイターによると、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ジョンソン首相の辞任を「ウクライナ社会全体にとって悲しい知らせだ」としたうえで、ジョンソン首相を「ウクライナの真の友人。あなたは英雄だ。みんなが愛している」と称賛したという。
ジョンソン首相はロシアのウクライナ侵略直後から、積極的に軍事支援、経済支援をする姿勢を見せ、今年4月には当時、戦闘の真っただ中にあった首都・キーウを訪問。キーウの街中をジョンソン首相とゼレンスキー大統領が談笑しながら歩く動画は、世界中の注目を集めた。現在の西側諸国の対ロシア強硬路線はイギリス、ひいてはジョンソン首相が引っ張ったとみる専門家も少なくない。
ジョンソン首相は、今回、国民や議会の信頼を失って退陣する。しかし、ジョンソン首相の指揮下、イギリスが新型コロナで世界に先駆けてワクチンを開発し接種を始めたなど、良かった点や成し遂げた功績についても、伝えられなければならないだろう。