2022年F1第13戦ハンガリーGPで各チームが走らせたマシンを、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが観察し、印象に残った点などについて解説。第1回「戦略失敗だけでは説明できないフェラーリの大失速」 に続く今回は、ハースが今季初めて導入したアップデートを紹介する。
────────────────────────────────
ハースが今季初、そして唯一となるであろう大幅アップデートを投入した。ここまで改良版が遅れたのは、F1最小チームのひとつであるハースの資金難から来るものだろうか。それは確かにあるだろう。しかしそれだけではない。
2016年のF1デビュー以来、このチームのマシンのほとんどはダラーラ社のエンジニアが設計し、フェラーリの風洞で作業を続けてきたハースの空力エンジニアたちが完成させてきた。しかし今回のVF-22はハースとしては初めて、ダラーラではなく自チームのエンジニアがコンポーネントを設計したマシンである。
ブダペストまでマシンを作り直すのを待ったのは、レース現場から学ぶためであり、可能なすべてのメカニカルパーツを購入しているスクーデリアからも学びたかったからだ。実際、下の写真のように、ポンツーンのデザインは赤い車のそれを連想させる。ただしハースはコンストラクターとして、たとえマラネロの風洞でシミュレーション作業を行っていても、自ら車体を制作しなければならない。
「ホワイトフェラーリ」とも揶揄される今回のアップデートについて、ギュンター・シュタイナー代表はこう反論している。
「もし、誰かが私たちのマシンがパクリだと言うなら、私はこう答えるだろう。ではフェラーリ以外の何を真似るべきだったのか。ウイリアムズか? 失礼な言い方だが、ウイリアムズとはコンセプトが違うし、順位も我々の後ろだ」
「もし、何かをコピーするのであれば、ベストなものをコピーしたほうがいい。今はそれはレッドブルとフェラーリだ。そして我々はフェラーリと同じエンジン、トランスミッション、サスペンションを搭載している。フェラーリ以外のマシンをコピーする必要はない。F1-75はレースに勝つマシンだし、我々は愚かではない」
「今のF1にはフェラーリ、レッドブル、メルセデスの3つのコンセプトがある。我々はスクーデリアと近い関係にあるので、彼らがやってきたことを見て、それを真似たのだ(下のフェラーリとの比較写真参照)。さらに何がうまくいき、何がうまくいかなかったのかを確認したかったので、時間をかけて検討した。その後、風洞の作業を行った。非常に長いプロセスだったよ」
ハースがシーズン中に大幅アップデートを行うのはほとんど2019年以来ということで、彼らはいっそう慎重な姿勢で臨んだ。というのもこのシーズンは、スペインで登場したVF-19の新パーツが期待どおりに機能せず、マシンから取り外され、そのままの姿で残りの選手権を戦った苦い記憶があったからだ。
この失敗がトラウマになり、同じ過ちを繰り返したくないという思いから、特に空力技術者たちは新しいパーツが意図したとおりに機能するよう、必要な時間をかけたのだった。
「新パーツとセッティングの相性を確認したい、という思いがあった。セッティングに合わないから使えない、などというアップデートは絶対に導入したくなかった」とシュタイナーは言う。
「2018年はいいクルマがあり、持ち込んでいた開発もうまくいっていた。ところが2019年は、自分たちの開発がうまくいっていないことに怯えるようになった。2020年、2021年は、新しいパーツは持ってきていない。『2019年の失敗を繰り返さないために、じっくりと全力を尽くそう』と自分たちに言い聞かせたんだ」