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 自動車メーカーの社長と言えばやや堅苦しくて、とにかくビジネスに長けた人材というイメージがあるだろう。しかしトヨタの豊田章男社長にそんなイメージはない。

 ご存知のとおり根っからのクルマ好き。タイトル写真はスーパーGTの現場でのワンカット。「ファストフードのオマケで日産の新型Zが出たから近藤監督にプレゼントしにきたの」といってKONDOレーシングのピットを訪問。その無邪気な表情からは本当にクルマを愛していることが垣間見れる(スーパーGTではルーキーレーシングのオーナーとしての立場だが)。

 そんな豊田社長が舵を取るトヨタは売上高31兆円を誇る、世界を代表する自動車メーカーとして君臨している。その経営手腕については結果がすべてを示しており、日本トップの経営者でもある。

 そしてトヨタが2022年3月期の決算発表の際に公開した有価証券報告書によると、同時期の豊田章男社長の役員報酬は6億8500万円。この金額は庶民には想像つかないものながら、売上高31兆円の世界的な自動車メーカーのトヨタの社長が7億円弱しか報酬をもらっていないというのは少し驚きを隠せない。

 今回は豊田章男社長の役員報酬6億8500万円の価値を異業界、自動車メーカーのトップの役員報酬との比較や豊田章男社長の功績も含め考えてみた。

文:永田恵一/画像:塩川雅人(ベストカー)、TOYOTA

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■日本の大企業トップの役員報酬はどのくらい?

これほどまでにクルマ好きに愛される自動車メーカーの社長も珍しい。自らステアリングを握り24時間レースにも参戦し市販車へのフィードバックも欠かせない

 トヨタの2022年3月期の売上高と純利益はそれぞれ過去最高となる31兆3000億円と2兆8000億円と、圧倒的な日本一である。そこで売上高2位から5位の日本企業のトップの役員報酬を見ていくと、

2位 三菱商事(売上高17兆2000億円)  垣内威彦会長/7億8400万円
3位 本田技研工業(同14兆5000億円)  三部敏宏社長/1億9500万円
4位 伊藤忠商事(同12兆2000億円)   岡藤正広会長/9億7600万円
5位 NTTグループ(同12兆1000億円) 澤田純会長/1億2300万円

 と、売上高とトップの役員報酬は比例していないことが分かる。また、2022年3月期における日本企業の役員報酬が10億円以上だったのはスズキの鈴木修相談役の11憶7200億円など、8人だった。

 なお、日本の乗用車メーカートップで役員報酬が1億円を超えているのは、豊田章男社長とホンダの三部俊宏社長に加え、日産の内田誠/4億9700万円、スバルの中村知美社長/1億800万円、スズキの鈴木俊宏社長/1億3100万円の8社中5人だった。

 このように見ていくと、豊田章男社長の6億8500万円という役員報酬は日本の乗用車メーカーでは高額ながら、日本の大企業のトップとしてはそれほど高くないことが分かる。

 さらに豊田章男社長の役員報酬は日本や日本の自動車業界への貢献、功績を考えれば、かなり安いと言えるのではないだろうか。

■リーマンショックやリコール問題、豊田社長の船出は厳しかった

近年のトヨタはカローラクロスなど派生車種の作り込みもすごく、そのコスパの高さやデザイン性で若年層のファンを増やしている

 具体的に豊田章男社長が残した功績を思い出すと、豊田章男社長がトヨタの社長に就任したのは53歳だった2009年のことである。豊田章男社長の船出は就任した際からリーマンショックによる不景気、2010年の大規模リコール問題、2011年の東日本大震災といった苦難の連続であった。

 そのなかで豊田章男社長がクルマという商品に対して社内に言い続けたのは「もっといいクルマを」というメッセージで、トヨタ車の魅力度はトヨタ新世代のTNGAプラットホーム第一弾となった2015年登場の現行プリウスから結果になって現れ始めた。

 クルマの大きな魅力である趣味的な部分に関しても副社長時代から2012年登場の初代86の誕生を後押しし、2017年にはスポーツブランドのGRを立ち上げ、今ではGRスープラ、GRヤリス、GRカローラという生粋のスポーツモデルが揃い、トヨタは日本の自動車業界でもっとも華のあるメーカーとなった。

 さらにクルマ好きの豊田章男社長はニュル24時間レース、日本ではスーパー耐久、ガズーラリーチャレンジといったモータースポーツ(※編註1)にも積極的に参戦し、トヨタのマスタードライバーとして自ら市販車へフィードバックを行うと同時に、大きな話題も残した。

 そんな豊田章男社長のリーダーシップにより、トヨタ車は安心感だけでなく魅力あるものとなり、現在のトヨタ車はかつてのイメージは完全に払しょくされ、クルマ好きでも積極的に選びたいものが増えた。

 そして日本の自動車業界はトヨタの独走状態となっている。

(※編註1)特に近年のスーパー耐久では水素エンジン車を投入。スバルやマツダ、日産なども巻き込み、カーボンオフセット燃料を使用する自動車メーカーの輪を広げている。新生代燃料の実用化に向けた実験も兼ねておりその存在感を大きく発揮した

■自工会会長として日本の自動車産業のかじ取りも

 また、豊田章男社長は2012年から2014年、2018年から現在まで日本自動車工業会(自工会)の会長も務めている。

 豊田章男社長は自工会でも方向性を変え、2017年の入場者77万人から2019年には130万人という成功を納めた東京モーターショーや、2023年の東京モーターショーのJAPANインダストリーショーへの移行といった、改革にも積極的だ。

 そして、2021年新年の「日本の就労人口の10%は自動車業界である」ということを強調した“550万人の走らせる仲間”というメッセージや(箱根駅伝の合間のテレビCMもなんだかグッときましたね)、雇用やクルマの税負担といった問題提起など、豊田章男社長が自動車業界に与えた影響は書き切れないほどである。

 といったことを総合すると、豊田章男社長はトヨタや日本の自動車業界を超えた日本を代表する経営者だけに、トヨタの業績や自動車業界にとどまらない日本への貢献を考えれば、6億8500万円という役員報酬は安いと言えるだろう。もちろんご本人の思いやトヨタの企業姿勢を加味されての報酬であるので、外野があれこれ言うことではないかもしれないが。

 そんな豊田社長は今年5月で66歳と、そろそろ後継者を考える時期だろう。トヨタのトップは言うまでもなく重要な立場だけに大変難しい問題ではあるが、豊田章男社長の後継者もトヨタという日本のトップ企業のトップに相応しい人となることを期待したい。

 そしてクルマを選ぶ楽しさ、運転する楽しさを提供してくれるトヨタらしさの存続を願うばかりだ。

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