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 インターネット通販で世界最大手のアマゾンは、2022年7月21日、米国の新興自動車メーカー・リヴィアン製のバッテリーEV(BEV)トラックの配備を開始すると発表した。

 アマゾンはリヴィアンに出資しており、2021年から少数の先行生産車による試験を行なっていたが、米国内の大都市を中心に年内に数千台、2030年までに合計10万台を配備する計画だ。

 2019年に”The Climate Pledge”(気候変動対策に関する誓約)を主導したアマゾンは、2040年までに事業による二酸化炭素排出量を実質ゼロにすることを掲げている。配送車の電動化により年間で数百万トンの二酸化炭素削減が可能だという。

 ラストマイル輸送の脱炭素化と併せて、配送拠点周辺の充電設備などインフラ投資も進める。ただ、その後発表したアマゾンの決算はリヴィアンの評価損が利益を相殺する形になっており、巨大IT企業もBEVトラックを軌道に載せるのに苦しんでいる。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/Amazon.com・Rivian


アマゾン専用? リヴィアン製BEV配送車

合計10万台!? 米アマゾンの配送用バッテリーEVトラックの配備が始まる
アマゾン・カスタムEDVの運転席

 米国のボルチモア、シカゴ、ダラス、ナッシュビル、サンディエゴ、シアトルなどの大都市では、間もなくアマゾンのバッテリーEV(BEV)配送トラックを見かけるようになる。

 アマゾンは気候変動への取り組みとして2040年までに事業によるCO2排出量を実質ゼロとすることを掲げている。その目標にコミットするために、より持続可能な配送網を構築する必要があり、BEV配送車もその一部となる。

 車両を製造するリヴィアンはアマゾンも出資する米国の新興自動車メーカーで、創業以来テスラの対抗馬と目されてきた。

 電動配送車(Custom Electric Delivery Vehicle/以下カスタムEDV)はアマゾン用に新規に設計したもので、安全性、持続可能性、快適性の向上を目指し、全米のドライバーにより徹底的な試験が行なわれた。

 両社が2019年に合意した車両開発におけるパートナーシップに基づく製品で、アマゾンはこのカスタムEDVを、2022年末までに米国の100以上の都市に数千台配備する。そして2030年を期限として、実に10万台を既に発注している。

巨大企業の「誓約」

合計10万台!? 米アマゾンの配送用バッテリーEVトラックの配備が始まる
キャブ内は立ち上がれる広さ。左はリヴィアンのスカリンジCEO、右はアマゾンのジャシーCEO

 GAFAMと呼ばれる巨大IT企業の一角であるアマゾンは2040年までに事業による二酸化炭素の排出量を実質ゼロにすることを約束する「The Climate Pledge」(気候変動対策に関する誓約)を2019年に共同で立ち上げている。

 リヴィアンはこの誓約に最初に署名した一社だ。

 誓約の達成のためには持続可能な配送網の構築が不可欠で、アマゾンとリヴィアンは共同でラストマイル輸送の脱炭素化を加速している、また、他社がネット・ゼロを実現するのを手助けするようなイノベーションにも取り組む。

 計画通りに10万台のカスタムEDVが走り出せば、アマゾンの事業による二酸化炭素排出量は、年間で数百万トン削減されるとした。

 アマゾンのアンディ・ジャシーCEOは次のように話している。

 「気候変動の影響と戦うためには、常にイノベーションと行動が必要です。環境への影響を最小化する新しい方法を模索するために、その情熱を共有する企業とパートナーを組んでいます。

 リヴィアンはこのミッションにおける素晴らしいパートナーであり、初めてのBEV配送トラックが走り出したことを嬉しく思っています。アマゾンは誓約の達成のために『Climate Pledge基金』を設立しましたが、最初の出資先の一つがリヴィアン社でした。

 2030年までにリヴィアンの車両を10万台導入するという計画は、まだ始まったばかりです。

 この車両は持続可能性に加えてドライバーにとっても素晴らしいものになっています。配送ドライバーの声を取り入れて、常にそのフィードバックを反映して設計しました。今日の道路上で最も安全で、最も快適な配送トラックです」。

 いっぽう、リヴィアンのRJ・スカリンジCEOのコメントは以下の通りだ。

 「アマゾンとリヴィアンのパートナーシップにとって、そして運送業界と地球環境にとって、今日は重要な日となります。

 2019年に私たちは二酸化炭素の排出量を大幅に低減することになる新しい配送トラックを迅速に開発することをお約束しました。私たちのチームの献身的な努力と協調、そして子供の子供の世代により良い世界を残すという共通目標のおかげで、このビジョンは今、実現されつつあります。

 このパートナーシップによってロジスティクスと運送業の脱炭素化プロジェクトが大きく進展することを、大変嬉しく思っています」。

撤退した三菱自動車の工場で製造

 アマゾンはリヴィアンが先行生産した車両による試験配送を2021年から初めており、配達個数は43万個、走行距離は9万マイル(約14万km)に達している。

 この試験配送を通じてリヴィアンは車両の性能、安全性、様々な気候と地形における耐久性、ドライバー満足度を高めるための最新装備、全体の機能性など、改善を続けてきた。

 もちろん、NHTSA/米国運輸省道路交通安全局(貨物輸送などを所管する)、CARB/カリフォルニア大気資源局(排ガス規制などを定めている)、US-EPA/米国環境保護庁の認証も取得した。

 アマゾン用のカスタムEDVは、リヴィアンのイリノイ工場で製造する。

 同工場は三菱自動車が「アウトランダースポーツ」(日本名「RVR」)の製造を行なっていた工場で、三菱自動車が米国内での製造から撤退するのに伴い、リヴィアンが破格で購入したものだ(1600万ドル/2017年当時のレートで約18億円)。

安全性と作業性も向上

合計10万台!? 米アマゾンの配送用バッテリーEVトラックの配備が始まる
運転席と荷室の間の隔壁(バルクヘッド)がドアになっており、ウォークスルーが可能

 アマゾンは、このカスタムEDVに搭載する革新的な機能とテクノロジーとして次のような点を挙げている。

●ドライバーとともに歩行者を守るために、360°全周に優れた視認性をもたらす安全第一の設計
●充実した安全装備、センサー類、運転支援技術。たとえば視認性を向上する大型のウィンドシールド、自動ブレーキ、ACC(アダプティブクルーズコントロール)、衝突警報など
●配送作業と車両機能の統合。ルート設定やナビゲーションなどのドライバーサポートを車両に組み込み、シームレスにアクセス可能とした
●ドライバーのエクスペリエンス向上。ドライバーが近づいたり離れたりするだけで自動でドアをロック/アンロックする機能や、運転席から直接荷台に行けるパワーバルクヘッドドアなど
●運転席側ドアの強化と人間工学に基づいたデザインで安全性と移動しやすい空間を両立した
●バッテリーはコストを考慮しつつ、繰り返し充電しても車両と同程度の寿命を確保した

 詳細なスペックは公表されていないが、リヴィアンの商用バンプラットフォームと同等とすれば、積載重量は最大12トン、荷室容積は約20立方メートル、急速充電はCCS1タイプの最大150kWか。なおリヴィアンはBEV用の充電器も製造している。

 いっぽうアマゾンは米国内の配送拠点周辺に数千か所の充電ステーションを整備すると共に、配送網の持続可能性を支援するためのインフラ投資を今後も続ける。併せて、非営利団体や企業とパートナーを組み「社用車電動化のためのアライアンス」を開始している。

 とはいえ、アマゾンのサステナビリティレポートによると同社の2021年の二酸化炭素排出量はコロナ禍による需要増で+18%の増加に転じているほか、第2四半期の決算では出資するリヴィアンの評価損が利益を相殺した。輸送の電動化はアマゾンにとっても険しい道だ。

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