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<p>【新聞に喝!】サハリン2に見た経済安保の本質 日本大教授・小谷賢</p><p>【新聞に喝!】サハリン2に見た経済安保の本質 日本大教授・小谷賢 日本政府がポツダム宣言を受諾した後もソ連軍は南樺太での戦闘を続け、現地で日本が築き上げたインフラはそのままソ連に接収されたという苦い過去がある。</p><p>6月30日、ロシアのプーチン大統領は、日本の商社が出資する極東サハリン(樺太)の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」の運営権を、ロシア政府が設立する新企業に移…</p><p>反応 「サハリン2」から日本向けにLNGを積みこむタンカー=2009年9月、サハリン・プリゴロドノエ(気仙英郎撮影) 6月30日、ロシアのプーチン大統領は、日本の商社が出資する極東サハリン(樺太)の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」の運営権を、ロシア政府が設立する新企業に移行する大統領令に署名した。これは事実上、サハリン2の国有化であり、日本側の権益はロシア側に接収される可能性が高まった。思い返せば1945年8月、日本政府がポツダム宣言を受諾した後もソ連軍は南樺太での戦闘を続け、現地で日本が築き上げたインフラはそのままソ連に接収されたという苦い過去がある。しかし21世紀に入ってもそのような接収が実施されようとは、驚きを禁じ得ない。コメントを求められた日本商工会議所の三村明夫会頭は「非常に信じられない。将来ロシアに投資する民間企業はほとんどいなくなる」と発言されたが、まさにその通りであろう。 この問題に対する産経をはじめとする新聞各紙の論調も横並びでロシアの対応を批判するものであるが、要因の分析は微妙に異なっている。一部の新聞はロシア側の言い分を紹介する形で報じており、岸田文雄首相が北大西洋条約機構(NATO)の首脳会合に出席したことがロシア政府を刺激した、ロシアはもともとソ連崩壊後の混乱期に契約を結ばされたことに不満を持っていた、というものである。 情勢分析のためにロシア側の要因を検証しておくことは必要だが、それは無意識にロシア側の意見を受け入れてしまうことにもつながる。先般も東京大学の入学式での祝辞が、ロシア側の立場にも理解を求めるような内容で物議を醸したが、どうしても日本ではこのような「相手の主張にも耳を傾けよう」的な意見が生じる。ただこれは個々人の人間関係に当てはまるものであり、生き馬の目を抜く国際政治の世界では、自らの立ち位置や意見を曖昧にしながら、相手の主張に理解を示すことはあまり得策とはいえない。特にロシアは世界中に偽情報を流布している国であるため、ロシアの言い分に耳を傾けていると、その巧みな偽情報工作に絡めとられる危険性の方がはるかに高いといえる。 他方で、今回の事案は「経済安全保障」の現実を見せつけられたような気分にもなる。われわれ日本人は言葉では理解していても、その本質についての理解がまだ追いついていない。今回のロシアの決定は、経済よりも安全保障(政治)を優先することを示したものであり、米欧諸国でもその文脈で理解されている。英国のシェルが早々に損切り覚悟で「サハリン2」から離脱したのもうなずける。われわれは今回の一件から、さまざまな教訓を学ぶことができよう。 ◇ こたに・けん 昭和48年、京都市生まれ。京都大大学院博士課程修了(学術博士)。専門は英国政治外交史、インテリジェンス研究。著書に『日本軍のインテリジェンス』など。 特集・連載:</p>