中国・上海で6月1日、2カ月に及んだ都市封鎖の段階的解除が始まった。外出には事前PCR検査が必要で行動範囲も限られ、訪れた先の小売店などで同時間帯に感染者が確認された場合は隔離対象となるため、外出をためらう市民も少なくないようだが、下期は華東地域を中心に落ち込んだ化学品需要のV字回復が期待される。経済活動の正常化を控え、日系企業もポストコロナにおける中国経済の変容に備える必要がある。
人口2500万を擁する巨大都市の封鎖は中国景気に大きな影響を及ぼした。UBS、JPモルガン、ゴールドマンサックス、シティグループなど金融大手は5月、相次いで今年の経済成長率予測をおよそ0・5~1ポイント引き下げた。4社中、UBSの成長予測が最も低く3%、最も高いシティは4・2%とした。政府は5月に大規模な景気対策を指示したが、10月とされる党大会まではゼロコロナ政策堅持の可能性が高い。
ただコロナ後を見据え、中国企業は内外で活発な動きをみせている。一帯一路政策やRCEP発効を受けたアジア太平洋地域への投資進出も、その一例だ。化学関連では車載電池大手の寧徳時代新能源科技(CATL)が4月、インドネシアでのニッケル採掘・製錬合弁事業や電池工場投資を発表。5月にはシノケムグループがタイでゴム用酸化防止剤の生産を始めた。日系企業も事業ネットワークをテコに「中国国外での中国需要」をつかもうとしている。
上海封鎖下の工業生産維持に当たっては、江蘇・浙江両省を加えた1市2省からなる長江デルタの調達・物流連携が重視されたが遼寧、安徽、広東など各省でも大規模な物流拠点整備が進み、上海一極集中緩和の試みがみられる。化学では、都市部や東部沿岸の工場を内陸に移転させる政策が打ち出された。現地経営者は「上海に代わる大動脈はあり得ない」と口を揃えるが、中期的なサプライチェーン変容に対応する必要がある。
また上海封鎖直前の1~3月期、中国では新エネルギー車の販売比率が全体の約22%に達した。中国自動車大手の比亜迪(BYD)は3月にガソリン車の生産を停止するなど、コロナを経て新エネ車シフトが加速。材料メーカーの商機は大きい。
一方、海上運賃など懸念材料も残る。5月上旬のアジア~米国間コンテナ船バルチック海運指数(FBX)は昨年9月比で3割以上低いが、中国経済正常化にともない、運賃再上昇の可能性が指摘されている。日系企業は中国のポストコロナ経済における好機とリスクを見極め、持続的な成長を実現させてほしい。
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