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25歳のときに俳優業を一時中断して海外での生活を約1年間経験し、ブロードウェイで観劇したりするうちに新たな気持ちで俳優業に取り組む決意を固めたという細田善彦さん。

帰国後、心機一転新たな事務所に所属して仕事をスタート。『真田丸』(NHK)、『連続ドラマW 楽園』(WOWOW)、映画『ピア~まちをつなぐもの~』(綾部真弥監督)、映画『武蔵-むさし-』(三上康雄監督)など多くのドラマ、映画に出演することに。

 

◆「今度は“良い人”で(笑)」

2017年に放送された『連続ドラマW 楽園』は、小説『模倣犯』(宮部みゆき原作)の9年後を描いたドラマ。ライターの前畑滋子(仲間由紀恵)が再びある殺人事件の真相へと迫っていく。

ある夫妻(小林薫・松田美由紀)が長女(伊藤沙莉)を殺害し、遺体を自宅の床下に16年間隠していた事件が発覚。容疑者夫妻は逮捕、次女・誠子(夏帆)はマスコミに追われ、仕事も辞めざるを得ないことになり、当たり前だと思っていた日常が突然壊れていく。細田さんは誠子の夫・井上達夫役を演じた。

-事件発覚後、マスコミが自宅や会社にも殺到し、誠子との別居を強いられますが、ちゃんと受け止めて男気のある夫でしたね-

「はい。夏帆さんの夫をやらせてもらいました。役柄を単純に“良い人”“悪い人”って分けるとですが、“良い人”を任せていただけることも、最近増えてきたと自分では思っています。

ただ単純に比べたらですが、“悪い人”の役のほうが印象に残りやすいんだなと肌で感じますね。

たとえば『ライフ~壮絶なイジメと闘う少女の物語~』(フジテレビ系)のいじめる役とか、自分が想像以上に印象が濃いといいますか、放送してから10年以上経った今でも、そのイメージがあると言われたりもします(笑)。

今度は、“良い人”の役で何年も言われる役との出会いができたらうれしいです」

2019年には映画『ピア~まちをつなぐもの~』に主演。細田さんは、父親の病院を継ぐために大学病院を辞めて地元に戻ってきた主人公の若手医師・高橋雅人役。地域の患者相手の医療になかなか関心をもてずにいたが、訪問診療で出会った患者とその家族がきっかけで考え方が大きく変わることになる。

-在宅医療についていろいろお調べになって役に臨まれたそうですね-

「この映画に関しては、チーム自体が在宅医療に対してすごく熱い思いをもっている方たちばかりだったので、実際の在宅医療の現場にも連れていってくださったんです。空気感や人との距離感など、それまで経験したことのないものを感じました。

在宅医療の先生方が映画に携わっているだけでなく、撮影現場にフラッと来てくださるくらい在宅医療に寄り添った映画だったので、在宅医療の先生を演じるという上では、近くに本当にたくさんの本物の先生方がいたので恵まれた環境でできたかなとは思っています」

-とくにここ数年、在宅医療の重要性が言われています。最初はあまり乗り気じゃなかったのが、患者さんや家族と出会って変わっていく様がとても自然で引き込まれました-

「ありがとうございます。在宅医療のお医者さんたちがどういう動きをしているのかというのは、普段あまり見えないというか、わからないですよね。

それに関してあの映画を1本観るだけで、かなり網羅できるというか、そういうちょっと教材的な要素も含まれているので、今の時代に求められている映画なんじゃないかなと思います。

在宅医療は家族への負担が大きいので、患者さんが遠慮して(在宅医療を)選択しないケースもあります。それを家族はどう思っているのか。もしかすると家族はもっとわがままを言って欲しいと思っているかもしれませんし…。

在宅医療という言葉自体がどういう印象をもたれるべきなのか、それが実際はどういうものなのか、在宅で看取(みと)る意味みたいなものは、しっかり伝えなきゃいけないなという思いでした」

 

◆武蔵を演じるために筋トレと毎日鶏肉1キロ食べて肉体改造

『ピア~まちをつなぐもの~』と同じ2019年、細田さんは映画『武蔵-むさし-』に主演。役作りのために17キロ増量して肉体改造し、二刀流で知られる剣豪・武蔵を演じた。

「この映画では、武蔵を最初から『強い者』として描いてはいないんですよね。戦いとなれば誰だって臆病になる。僕もギリギリの戦いの上で勝っていき、実戦を重ねて徐々に強くなっていく姿を表現したいと思いました」

-監督と宿で次の日の撮影はどうするか、いろいろ相談されていたとか-

「そうですね。監督も熱い思いがあるので、二人の武蔵像を作ろうと、お互いが共通認識していたほうがいいというシーンのときは、監督の部屋で相談していました」

-武蔵の弱さ、こんなはずではなかったという戸惑いも伝わってきました-

「ありがとうございます。ここまで武蔵の弱さが出ている作品はなかなかないと思います。

武蔵自身は誰のことも殺すつもりもなかったし、殺させるつもりもなくて、ただ『強くなりたい』『有名になりたい』という思いで京都に出てきたんですよね。剣の世界で一番になりたかっただけなのに、殺し合いを繰り広げることになってしまうんですよね」

-武蔵を演じるに当たってプレッシャーは?-

「それはありました。名家の錚々(そうそう)たる面々を『武蔵の勢いを止めないといけない』と焦らせるほどの強さを存在感や空気感で出せるかというのがプレッシャーでした」

-からだの筋肉もすごかったですね-

「からだはやっぱり急激にやったので、今でも後遺症はありますね。左の手首が今も痛いんですよ。

三上監督のこだわりがあって、対人の戦うシーンでは竹光(竹を削って刀のように見せかけたもの)を使っているんですけど、武蔵が竹藪で振りをするところとかは刃を落とした真剣を使っているので重いんです。

二刀流なので、右手で止めるのと利き手ではない左手で止める動きがあるのですが、左手が本当にできなくて…。ひたすらに振っていたので、そのときに腱鞘(けんしょう)炎になってしまって、今でも痛いです。

そういう意味でも武蔵はからだに刻まれている、という思いはありますね」

-刀の重さを感じました。「細田さんが並々ならぬ熱意と覚悟で武蔵役に挑んでいた」と監督もおっしゃっていましたね-

「覚悟をもって挑ませていただきました。監督の意向で、殺陣(たて)の稽古がはじまるときに真剣を使って巻き藁(わら)を斬らせてもらえたのは大きかったです。

本物の刀を使ってみたことで、感触とか、刀を振ったときに自分の足を斬らないように自然と左足を引くんだとか、いろいろなことがわかりました」

-肉体改造も大変だったのでは?-

「対峙(たいじ)した相手・小次郎役が松平健さんでしたからね。ライバルの設定じゃないですか。着物姿もカッコいいですし、厚みもあるんですよね。

初めて稽古場で松平さんが目の前で殺陣をやられて、僕が松平さんに対して剣を構えたときに、大きな山に対して向かって構えているみたいな気分になっちゃって(笑)。

『僕が勝たなきゃいけないのに、その説得力はどうやったら出せるんだろう?』っていう思いでがむしゃらにからだを大きくしていました(笑)。

負けないように見えるからだを作らないといけないと思ったので、筋トレはもちろん、プロテインと毎日1キロは鶏肉を食べていたんじゃないかな。撮影が終わったときにはもう鶏肉を見るのもイヤになっていましたから(笑)。

からだを大きくする際にやっぱり1番困るのって食事なんですよね。食費がかかる、かかる。食事の回数を1日5、6回はとっていたので結構大変でしたけど、最終的に17キロぐらい増やしました」

-それはすごいですね。薪を割るシーンでは上半身裸のカットもあって-

「監督も僕のからだがどんどん大きくなっていく姿を目の当たりに見ているので、『そうだな。そういうのをやっぱりちょっと残しておかないとなあ』と言ってくださったので、『じゃあ、お願いします』って言ったら、『じゃあ、とりあえず薪割りは脱いでおけよ』となりました(笑)」

-鍛え上げた肉体美がしっかりスクリーンに刻まれて-

「はい、ありましたね。肉体美なのかどうかわからないですけど(笑)」

-立ち回りも壮絶でした。長回しのシーンも結構あったので大変だったのでは?-

「あの大人数の立ち回りは、前の日に雨が降り、すごいドロドロの中でやっていたので、それが結構大変でした。

相手が斬りに来たときに避けないといけないのに、泥で足が取られちゃってそれどころじゃないんです。無我夢中でやっていました」

-熱意が伝わる作品に仕上がっていますね。この作品に出会えたことは、今後の俳優生活にとっても大きいと思います-

「そうですね。時代劇自体の本数が減っている中で、時代劇にああやって深く携わる機会というのはすごく貴重な経験をさせていただいたなと思っています」

本格時代劇に主演したことで俳優としての幅もさらに広がった細田さんは、『共演NG』(テレビ東京系)、大河ドラマ『青天を衝け』(NHK)、映画『海辺の映画館ーキネマの玉手箱』(大林宣彦監督)、2022年6月25日(土)に公開される映画『人でなしの恋』(井上博貴監督)など話題作に出演することに。

次回はその撮影裏話&撮影エピソードなども紹介。(津島令子)

ヘアメイク:石橋遥(ADDICT_CASE)
スタイリスト:カワサキ タカフミ