ついに登場! ワールドプレミア。F1テクノロジーと1,063馬力を備えたメルセデスAMGワン。しかし、300万ユーロ(約4億2千万円)以上するハイパーカーは予定より大幅に遅れてやってきた。そこでおさらいも兼ねて最新全情報をお届け!
時は来た。ついにメルセデスAMG Oneの生産モデルが完成したのだ! 「ついに」と、ファンだけでなく責任者も言う。ハイパーカーの開発は、予想以上に緻密で難度も高く、幾度も延期されてきた。2017年、AMGの創立50周年に際して、「プロジェクト ワン(Project One)」の名でコンセプトモデルが公開された。2019年には、275台限定の市販版を市場に投入する予定だったが、結局それも実現しなかった。それから3年が経過して、ついに、AMGの創立55周年にふさわしい、ユニークな「One」が誕生したのである。
「最新のF1パワートレインを日常的な道路走行に適合させるという膨大な技術的挑戦は、間違いなく我々の限界を超えた」と、メルセデスAMG会長のフィリップ シーメルは率直に認めている。
一方、「AMG One」はホモロゲーションを取得し、公道走行が許可されている。ほとんどのクルマにとっては、そんなたいしたことのないことが、これまでで最もパワフルな市販AMGモデルにとっては、文字通りとてつもない努力の結晶だったのだ。
フェスティバル オブ スピードでお披露目
「プロジェクトAMG One」には、当初から、F1マシンのドライブトレインを公道用にアレンジするという野心的な目標があった。その過程には、数え切れないほどのハードルがあった。例えば、F1レーサーをスタートさせるにはチーム全体が必要だが、「One」ならスタートボタンを押すだけでスタートしなくてはいけないのだから。
また、排気ガスの後処理も課題だった。「AMG One」は、名高いイギリスのイベント、「グッドウッド フェスティバル オブ スピード(2022年6月23日~26日)」で、ダイナミックなデビューを飾り、すべてがフィットすることを証明する予定だ。
排気量1.6リッターのV6ハイブリッドガソリンエンジン
しかし、パワートレインについてはもう少し詳しく見てみよう。内燃機関は、2015年のF1メルセデスに搭載されたものだ。直噴ガソリンエンジンと電動アシスト式シングルターボを備えた1.6リッターV6ガソリンエンジンは、スパーギアで駆動する4本のオーバーヘッドカムシャフトを備えている。
E-コンプレッサー、ドライサンプ潤滑、空気圧式バルブトレイン、最高回転数11,000 rpm。これだけで574馬力、つまりリッターあたり359馬力のパワーを発揮するのだ。
しかし、それは序の口で、V6を支えているのは、4基の電動モーターだ。一基はターボチャージャーに内蔵されているもの(MGU-H)、もう一基は内燃機関に直接設置され、クランクシャフトに接続されているものだ。残りの2基の電動モーターは前輪を駆動する。出力はそれぞれ120kW(163馬力)、e-ターボのみ90kW(122馬力)となっている。
アファルターバッハに本拠を置くAMG社は、システム出力を1,063馬力と発表している。これは、これまでで最もパワフルな量産型AMGである「GT 63 S E-パフォーマンス」よりもさらに220馬力高い出力だ。動力伝達は、ハイパーカーのために特別に開発された、油圧制御4プレートカーボンクラッチを備えた7速ギアボックスが担当する。
エンジン&トランスミッションのユニット全体が、ボディシェルに構造的に一体化されている。ギア比は、eモーターとの組み合わせで、ターボラグが目立たないような設計になっている。
公表値より遅い
「メルセデスAMG One」は速い。0-100km/h加速2.9秒、0-200km/h加速7.0秒、0-300km/h加速15.6秒、最高速度352km/h(電子制御)を実現している。本当に速い。しかし、それでも2017年に約束した数値を守れなかったというのも事実だ。
当時、「One」は時速200kmまでの加速が6秒以下と言われており、「ブガッティ シロン スーパースポーツ(5.8秒)」よりも速いとされていた。0から100km/hまでのスプリントタイムも、かつては2.5秒と言われていた。
誤解を恐れずに言えば、もちろん2.9秒と7.0秒は素晴らしい値であるのは間違いないが、2013年末には、すでに「ポルシェ918スパイダー」がほぼ同じ性能を提供している。「フェラーリSF90ストラダーレ」は、「One」の数分の一の価格である約50万ユーロ(約7,000万円)で、0から時速200kmまでの加速さえも6.7秒と速いのだ。
もちろん、「One」の魅力はそのユニークな駆動コンセプトから生まれるものだ。しかし、特にハイパーカーの分野では、最終的には走行性能と純粋な数字も重要なのだ。
テクニカルデータ: AMG One、最高速度352km/hを達成
後輪駆動: 1.6リッターV6、直噴、4バルブ/シリンダー、4オーバーヘッドカムシャフト、電動アシストシングルターボチャージャー、およびクランクシャフトに接続した電動モーターを装備
エンジン: V6+電動モーター
排気量: 1599cc
内燃機関出力: 422kW(574PS)
電動モーター出力: 450 kW(611PS)
システム出力: 782kW(1063PS)
電気航続距離: 18.1km
トランスミッション: AMG Performance 4MATIC+可変全輪駆動(ハイブリッド駆動後輪軸、電気駆動前輪軸、トルクベクタリング付)、自動変速AMGスピードシフト7速マニュアルトランスミッション
0-100 km/h加速: 2.9秒
0-200km/h加速: 7.0秒
0-300km/h加速: 15.6秒
最高速度: 352km/h(電子制御)
乾燥重量: 1,695キログラム
平均燃費: 11.4km/ℓ
Oneは、純粋な電気駆動も可能
「AMG One」は常に電動でスタートするため、静かな走行も可能となっている。触媒コンバーターの温度が適正になるまで、内燃エンジンは始動しない。EVモードでは、8.4kWhのバッテリーで、最大18.1kmの航続が可能だという。
そのほか、5つのドライビングモードが用意されている。ドライバーは、「レースセーフ」、「レース」、「インディビジュアル」、「レースプラス」、「ストラト2」から選ぶことができ、最後の2つはレース場でのみ使用可能なドライビングモードだ。「レーススタート」と呼ばれるローンチコントロールは、ドライビングモードの「レース」、「レースプラス」、「ストラト2」で利用可能となっている。
5万km走行時にエンジンオーバーホール
メンテナンスに関しても特筆すべき点がある。F1エンジンは通常、走行距離4,000kmの走行を想定して設計されている。そんな「One」のエンジンは11,000rpmに制限され、ギアボックスも異なるため、通常のメンテナンス間隔に加えて、ドライブトレインの特別なコンポーネントを5万kmごとにオーバーホールする必要があるという。
ハイパーカー用プッシュロッドダンパー
「メルセデスAMG One」は、プッシュロッドサスペンションを採用している。リアアクスルサスペンションのダンパーは横型だ。ひとつは完全に水平に、もうひとつはやや斜め下についている。
フロントとリアにスプリングレートが調整可能な5リンク式で、レーストラック用のモードでは、フロントで37ミリ、リアで30ミリ、油圧で下げることができるようになっている。
「AMG One」には、地下駐車場のエントランスで恐怖を感じないように、必要に応じてフロントアクスルを上げることができるリフトモードが装備されている。
F1スタイルテールパイプ
「AMG One」のフロントは、U字型のフラップで縁取られた大きなエアインテークとフラットなLEDヘッドライトが象徴的だ。2分割されたディフューザーは、中央のテールパイプで遮られている。
大きな丸いアウトレットと、さらに2つの小さな丸い開口部を持つテールパイプのデザインは、F1マシンからそのまま受け継いだものである。
テールライトは、フロントヘッドライトの形状を受け継ぎ、それぞれ3つの菱形のライトエレメントを持ち、AMGのロゴを連想させるものとなっている。「AMG One」のハイブリッド駆動は、2つのフューエルフィラーフラップで確認することができる。後方右側がガソリン用、後方左側がプラグインハイブリッド用バッテリーの充電ソケットだ。
【サイズ一覧】
全長: 4756mm
全幅: 2010mm
全高: 1261mm
ホイールベース: 2720mm
アクティブエアロダイナミクス
フロントボンネットに設けられた黒いエアアウトレットは、ドライバーズキャブのサイドに気流を導く。これにより、ルーフにある吸気路に空気が届くようになる。サイドボディには、ブラックカーボンのエアディフレクターがボディ周りの気流を誘導する。リアには、いわゆるNACA製の大型エアインテークが2つあり、後方に配置されたエンジンとトランスミッションのオイルクーラーに気流を導いている。
「ノーマル」モードでは、アクティブエレメントが格納される。「トラック」モードでは、ボディが下がり、フラップがフロントで伸び、フロントルーバーが開いて、フロントアクスルのダウンフォースとホイールアーチの負圧が増し、リアウィングとフラップがガードポジションになる。これにより、「One」は通常時の5倍のダウンフォースを発生させることができるようになっている。
また、「レースDRS」の設定は、レーストラックでのみ有効だ。ここでは、ステアリングホイールのボタンに触れると、ルーバーが閉じ、フラップが格納される。F1と同様、ダウンフォースは犠牲になるが(この場合は20%)、トップスピードは向上する。しかしAMGは最高速度を352km/hで電子制御している。
スマートフォン収納可能なカーボンモノコック
「メルセデスAMG One」のドアは、レース中の慣例として、前方と上方に同時に開くようになっている。カーボンモノコックには、大きなエントランスからアクセスすることができる。パネル類はなく、カーボンを多用し、すべてが機能的に切り取られている。
モノコックには、背もたれを調整できるブラックのバケットシートが2つ組み込まれていて、シートは滑りにくいマイクロファイバーフリースとナッパレザーで覆われている。
シートの高さ調節はできない。ステアリングホイールは電動で調整でき、適切な着座位置を見つけることができる。また、ペダルは機械式で、その位置も11段階に調整可能となっている。
2つの独立した10インチディスプレイは本物の金属で縁取られており、1つはドライバーの正面にやや高く、もう1つはドライバーに向かって右側のセンターコンソールに設置されている。
センタースクリーンの下には、2つの長方形の吹き出し口がある。そして、スタート&ストップボタンのあるセンターコンソールが登場する。その手前には透明な蓋の付いた収納スペースがあり、メルセデスAMGは携帯電話のトレイも設置している。
ハイパーカーに搭載された壮大なステアリングホイール
上下をフラットにし、エアバッグを内蔵したステアリングホイールもF1を彷彿とさせる。内蔵された2つのタッチパッドで、ドライビングプログラムやシャシーの設定、ステアリングホイール上部のLEDギアシフトディスプレイを調整することができる。
動力伝達は、「メルセデスAMG One」のために完全新規に開発された7速ギアボックスによって行われる。油圧で作動し、ステアリングホイールのシフトパドルによる手動シフトと自動シフトが可能となっている。
ウィンドウレギュレータースイッチは、ドアハンドルループの前にあるカーボンファイバー製のドアトリムに設置されている。パワーウィンドウは確かに軽量化にはならないが、快適性は向上する。エアコンと同様に標準装備されている。
また、シート背面の左右に、収納スペースを設けたのも快適性のポイントだ。ルームミラーは、リアルタイムで映像を映し出すスクリーンに変更されている。アルミニウム製のスクリーンハウジングは屋根に一体化され、さらなる制御装置を収納している。
セラミックブレーキと新開発のパイロットスポーツカップ2 R
また、「メルセデスAMG One」専用のセンターロック付き10本スポーク鍛造アルミホイールも新開発された。更に、部分的にカーボン製のカバーを採用し、空力性能とCd値の向上を図っていることも言うまでもない。
減速はセラミックコンポジットブレーキシステムで行う。スポーク部ごとに3つのフラットなベンチレーションスロットを設け、ブレーキからの放熱を最適化するよう設計されている。
「AMG One」のタイヤサイズは、フロント10.0J×19に285/35 ZR 19のミシュラン製パイロットスポーツ カップ2 Rタイヤ(One専用に開発)、リア12.0J×20ホイールに335/30 ZR 20のミシュラン製パイロットスポーツ カップ2となっている。
価格: 275万ユーロ(約3億8,500万円)+税
「メルセデスAMG One」は、合計で275台しか製造されないこと、そして注文書がすでに十分に埋まっていることを明らかにした。現在の受注状況によれば、「メルセデスAMG One」は、約275万ユーロ(約3億8,500万円)+税という価格にもかかわらず、すでに完売しているとのこと。
結論:
「AMG One」のほぼすべてのディテールに、新しい最上級のものがある。この格調高いプロジェクトに、開発者がどれほどの力を注いできたかを考えれば考えるほど、頭が下がる思いだ。あとは、その走りを知りたいというのが率直な想いだ。
【ABJのコメント】
あれ、まだ市販、というかデリバリー開始されてませんでしたっけ(?)と感じてしまった「AMG One」、いよいよすでに(とっくの昔に)決まっていたオーナーのもとに納車される日が近づいてきたようである。4億円という価格も、内燃機関とモーター出力を足して1,000馬力を優に超えるパワーユニットも、おおよそ私の生活やお財布とは関係のない話ではあるが、世の中のメルセデス・ベンツファンの中にはこの車をどうしてもガレージに並べたい、という人が多いが故の完売御礼ではある。
どことなくかつてのメルセデスベンツの実験車を連想させる「One」を見ながら、そういえばこの待たされた感じ、どこかにあったなぁ、と考えていたら「ブガッティ ヴェイロン」の開発時のことを思い出してしまった。もちろんまったくコンセプトも成り立ちも違う2台だが、開発中に様々な問題が勃発し、デリバリーが遅れに遅れたこの感じは(私だけかもしれないけれど)、どことなく似ているようにも思われる。これだけ遅れてもギブアップせずに開発を続け、世の中に送り出したエンジニアたちは偉いなぁ、と思ってしまう。(KO)
Text: Andreas Huber, Alexande Bernt and Jan Götze
加筆: 大林晃平
Photo: Mercedes Benz AG