東京都環境審議会は8日、東京都内の一戸建てに対する太陽光パネルの設置を義務付ける条例改正案について、基本方針を答申した。答申を基に今後、議論が行われ、義務化に向けた手続きが本格化する。
都は、2022年度中の義務化を目指しており、実現すれば一戸建て住宅への太陽光パネルの義務化は全国初となる。
国も将来的な義務化示唆
太陽光パネルの設置義務化を目指す動きは、他の地自体でも広まっており、神奈川県川崎市も2024年4月の義務化に向けて検討を進めている。また、京都府と京都市は、10年前の2012年にすでに、延床面積2000平方メートル以上の建築物(特定建築物)への太陽光パネルをはじめとした、再生可能エネルギー設備の設置の義務づけを行っている。
国も太陽光パネルの導入を推進しており、昨年8月に取りまとめられた報告書「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」の中で、
2050年において設置が合理的な住宅・建築物には太陽光発電設備が設置されていることが一般的となることを目指し、また、これに至る 2030年において新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が設置されることを目指すこととして、将来における太陽光発電設備の設置義務化も選択肢の一つ
としている。しかし、太陽光パネルの設置義務化は、このまま拙速に進めていいのだろうか。それは、太陽光パネルには、いまだに多くの課題が残るからだ。
地域ごとに大きく違う発電量
エネルギーや環境分野のシンクタンク、住環境研究所によると、1995年~2009年の15年間の平均的な年間発電量は、地域によってバラバラだ。中部地方や東海地方、四国地方の一部など発電量の多い地域と、北海道、東北地方(日本海側)、山陰地方など発電量の少ない地域とでは、年間発電量にして1.5倍ほどの差がある。
そして今回、設置義務が検討されている東京都は取り立てて発電量が多い地域とは言えない。
発電量の少ない地域は大体、積雪が多い地域で、雪の重みで太陽光パネルが倒壊するリスクがある。海沿いの地域だと塩害のリスクもあるだろう。こうした地域では、他の地域より維持費が余計にかかってしまう。もし、国が全国的に太陽光パネルの設置を義務化するのであれば、補助金を出すなどしないと不公平感はぬぐえない。
10年間でコスト回収できる?
また、東京新聞によると、「新築住宅建設コスト高で住宅の新陳代謝が抑制される」「建築コストとして住民に跳ね返る」といった懸念に対して、都は初期費用の約100万円は、自家消費の電気代と売電によって10年間で回収できると説明しているという。しかし、それは本当なのか。
資源エネルギー庁によると、2012年度の太陽光発電の売電価格は42円/kWhだった。太陽光の売電価格は、年を追うごとに下がり続けており、2017年度は30円/kWh、2022年度は17円/kWh、2023年度は16円/kWhとなることが決定している。
売電価格は、太陽光発電の設置コストなどを基に決められている。コストは普及するにつれ下がっていくのが一般的なため、今後も太陽光の売電価格は下がり続けていくとみられる。そうした中、本当に10年間でペイできるのか。
都は、いくらの設置コスト、いくらの売電価格で、「10年間で回収できる」と説明しているのだろうか。耐用年数を超えた太陽光パネルは廃棄する必要があるが、その廃棄コストも入れた結果の「10年間で回収できる」という説明なのだろうか。
産業廃棄物の最終処分場問題も
さらに、太陽光パネルには有害物質が含まれている点も見過ごせない。環境省の「太陽光発電設備等のリユース・リサイクル・適正処分に関する報告書」には、鉛、セレン、カドミウム、アンチモン、テルルといった有害物質が太陽光パネルに含まれていると指摘されている。
政府は、太陽光パネルの廃棄量が現状におけるピーク時の2030年代後半には年間50万から80万トンの使用済みパネルが廃棄されると試算している。そもそも、産業廃棄物の最終処分場は将来的な不足が指摘されている中、有害物質が含まれる大量の太陽光パネルをどう安全に処理していくかの見通しも示されていない。
数々の問題点がある中、それが解決されないまま、都は太陽光パネルの設置義務化を進めるのだろうか。ただ一つ確実に言えることは、東京都で太陽光パネルの問題が顕在化する頃には、小池都知事はその地位にいないということだろう。