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イギリスが生んだもうひとりのスパイ!! 君は『ハリー・パーマー』シリーズを知っているか!?

 スパイが主人公の作品といわれて、誰もが思い浮かべるのは『007シリーズ』だろう。だがその裏側で、007製作者によって生み出されたもう一つのスパイシリーズが今回ご紹介する『ハリー・パーマー』シリーズだ。

 『オースティン・パワーズ』や『キングスマン』も影響を受けたこの名作をご紹介しよう!

文/渡辺麻紀、写真/スターチャンネル
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■ボンドシリーズの製作者自らが生み出した007へのアンチテーゼ

主人公のスパイ、ハリー・パーマー。絵に描いたような地味な風体だが、必殺シリーズの中村主水のような不気味な凄みも感じさせる

 1962年から始まったメイド・イン・UKのスパイシリーズと言えば『007』。世界を股にかけ、高級車を乗り回し、美女をはべらせるゴージャスなスパイ。ジェームズ・ボンドは、みんなが憧れるかっこいい存在として描かれている。

 今回ご紹介するのは、ボンドシリーズの製作者ハリー・サルツマンがそのアンチテーゼ的に作った映画『ハリー・パーマー』シリーズの第一作目『国際諜報局』(1965)のTVリメイク『ハリー・パーマー 国際諜報局』だ。

 ハリー・パーマーは、英国の作家レン・デイトンが生んだキャラクターで、同じ時期に生まれたボンドとは対照的なスパイ。出身も労働者階級、西ベルリンに駐在していたとき物資を東側に横流しして刑務所に入れられている。

 が、そのクレバーさとしたたかさ、人脈の豊かさを買われて、新しく開設された諜報部署にリクルートされるのだ。

 そういうわけなのでボンド的な華やかさはゼロ。黒縁眼鏡にステンカラーコートスタイルがトレードマークで、領収書を提出したりなどデスクワークもこなし、(オリジナルの映画では)スーパーで食料品を買い込み、アパートで自炊する。料理は趣味なので、キッチンの壁や柱にはレシピが貼られているほどだ。

 オリジナルで、その主人公を演じたのはマイケル・ケイン。それまでほぼ無名だった彼が大ブレイクしたきっかけの作品でもあり、その後、『パーマーの危機脱出』(1966)、『10憶ドルの頭脳』(1967)の2本が映画化されている。

■リメイク版テレビシリーズではイギリスを飛び出して世界へ

 このシリーズのファンがいかに多いかは、『オースティン・パワーズ』シリーズや『キングスマン』シリーズを観れば一目瞭然だろう。

 それぞれの主人公が黒縁眼鏡をかけているのはこのハリー・パーマーへのオマージュにほかならないし、『キングスマン』にマイケル・ケインが出演していたのも監督のマシュー・ヴォーンのハリー・パーマーへの愛なのである。

 このTVシリーズは、そういう普遍的な人気を裏付けするかのように作られたと言ってもいい。

 オリジナルの舞台はほぼイギリスだったが、このTVシリーズは、ロンドンはもちろん西ベルリン、ベイルート、ヘルシンキ、太平洋の架空の環礁と、世界を股にかけてのハリーの活躍が描かれる。

■舞台は冷戦時代。涙モノのヴィンテージ・カーの数々

パーマーの同僚である女性スパイ、ルーシーの愛車はクリーム色のMGB ロードスター

 そこで、本コラム的に注目したのが随所に登場するヴィンテージ・カーの数々。よくぞここまで集めたといいたくなる、美しい車が次々と、これでもかというくらい登場するのだ。

 ロンドン・ベルリン・ベイルートで、あらゆる瞬間にそれらの車が現われるのだが、やはり印象的なのはハリーの同僚である上流階級出身のクールビューティな女性スパイ、ルーシーの愛車、クリーム色のMGBロードスター。

 流線形のデザインが美しすぎる名車だ。彼女はこの車を巧みなドライビングテクニックでかっ飛ばす。ちなみに彼女が最終話で乗るのはロータスエリート。これがまたお似合いだし、同じように美しい。

 またあるシーンでは、MGマグネット、オースチンウェストミンスター、オースチンケンブリッジ、ローバー80、英国フォードのフォードゾディアック等のイギリス車に加え、1962年型のフォルクスワーゲン1500、フィアット850、太平洋の島では、かなり使い込まれたシトロエン2CVも登場する。

 1950年代から1960年代初頭にかけての車が国籍を問わず、舞台になる各都市で走っているのだ。これはもう、クラシックカー・ファン、ヴィンテージカー・ファンにとっては眼福なのである。

 こういうクラシックカーが映えるのも、’60年代の世界観がしっかりと構築されているから。街並みも家のインテリアも、コスチュームも見事に’60年代が再現されている。やっぱりロードスターはロールカラーのセットアップ&キトゥンヒールの’60年代英国ファッションがめちゃくちゃお似合いなのだった。

●解説●

 1963年、核兵器開発を手掛けていた英国人博士が何者かに誘拐された。博士の救出を任されたのは英国の特別諜報機関W.O.O.C.。

 組織のトップであるドルビーが任務遂行のために白羽の矢を立てたのは、東ベルリンに物資を横流した罪で服役していた英国軍軍曹ハリー・パーマーだった。ハリーはW.O.O.C.の女性部員ジーン・コートニーとこの任務に立ち向かう。

 監督&製作総指揮は、ハリー・パーマーの大ファンを自称するジェームズ・ワトキンス。『ブラックミラー』(2011~)や『マクマフィア』(2018)等、英国の人気TVシリーズを手掛けている。

 脚本&製作総指揮は『トレインスポッティング』(1996)『ザ・ビーチ』(2000)等、ダニー・ボイルとのコラボレーションで知られるジョン・ホッジ。

 主人公のハリー・パーマーを演じる英国人俳優のジョン・コールは、ムエタイチャンピオンを演じた『暁に祈れ』(2017)や、バイオレントなTVシリーズ『ギャング・オブ・ロンドン』(2020)で知られる。その他の出演者にルーシー・ボイントン、トム・ホランダー等。

 レン・デントンの原作は一人称で書かれ、主人公のスパイは「わたし」として表記され名前はないのだが、映画化するさい、ハリー・パーマーという名前をつけ、それがシリーズ名として定着したかたちだ。

 ちなみに「ハリー」は製作者のハリー・サルツマンから、「パーマー」は演じたマイケル・ケインの子供時代のクラスメイトの名前で、ケイン曰く「デントンの創造した“わたし”は、退屈そうな男だったから、小学校のとき、隣に座っていた退屈な同級生パーマーの名前を思い出してつけたんだ」と言っている。

 これは筆者が『プレステージ』という映画で彼のインタビューしたときに聴いた話なのだが、当時はケインの主演作『アルフィー』(1966)や『探偵 スルース』(1972)等が続けてリメイクされていたものの、本作に関しては「リメイクの話はまるでない。やはり冷戦時代じゃないと成り立たないストーリーだから」と言っていた。

 が、こうやってちゃんと冷戦時代を舞台にリメイクされたのだから、ファンとしては嬉しい限りだし、パーマーを演じたコールも、ケインとは異なる若いパーマー像を創り上げていて、違和感はなかった。

 ちなみに、パーマーのキャラクターは原作や最初の映画に準じているが、物語はかなり自由奔放。原作を読んでいる人も、オリジナルの映画を観ている人も驚きの展開が待っている。

W.O.O.C.の女性部員ジーン・コートニー

『ハリー・パーマー 国際諜報局』
【脚本・製作総指揮】ジョン・ホッジ(『トレインスポッティング』)
【製作総指揮】ウィル・クラーク(『ホイットニー ~オールウェイズ・ラヴ・ユー~』)
【監督・製作総指揮】ジェームズ・ワトキンス(『ブラック・ミラー』)
【出演】ジョー・コール、ルーシー・ボイントン、トム・ホランダー、アシュリー・トーマス、ジョシュア・ジェームズ、デヴィッド・デンシック ほか

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【配信および放送情報】
【配信】スターチャンネルEX〈字幕版〉全話独占配信中
 ※6月30日(木)まで《第1話無料配信》
〈吹替版〉6月20日(月)より全6話 一挙配信

【放送】BS10 スターチャンネル
【STAR1 字幕版】毎週火曜23:00ほかより 独占放送中
【STAR3 吹替版】毎週木曜22:00ほかより 独占放送中
詳しい放送日程は、ホームページ等でご確認ください。

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