アメリカのトラックといえば、なんといっても迫力満点の大型ボンネットトラックですが、日野自動車が北米市場向けに生産している「XLシリーズ」は、国産自動車メーカー史上初の北米向け大型ボンネットトラックとして注目の存在です。
同社は2020年秋より、親会社のトヨタ自動車とともに北米向けの大型燃料電池トラックの開発・実証事業にも取り組んでいますが、そのプロトタイプのベース車両になっているも、実はこの「XLシリーズ」なのです。
一体、XLシリーズはどんなトラックなのでしょうか? ラインナップ展開や、北米市場での位置づけなどを解説します。
文/緒方五郎 写真/日野自動車、緒方五郎
北米大型トラックの激戦ゾーンに進出!!
2018年3月に登場した「Hino XLシリーズ」は、クラス8モデルの「XL8」とクラス7モデルの「XL7」で構成されています。
北米市場における日野のトラックのラインナップは、それまで上限がクラス7でしたが、XL8の登場により初めてクラス8セグメントへの進出を果たしました。なお、XL7は、従来のクラス7車「L7」の上位モデル(XL8と同じ8.9Lエンジンを搭載)として新規設定されたものです。
ちなみにクラスとは、車両総重量(GVW、北米ではGVWRと表記されている)による区分のこと。クラス8はGVW33001ポンド(14.9t)以上のトラック、クラス7はGVW26001~33000ポンド(11.7~14.9t)のトラックがそれぞれ該当します。
クラス8は、主要メーカーが激しくシェアを争う大型トラックの中心市場となっており、長距離セミトレーラ用トラクタから、ボケーショナルトラック(ダンプ、ミキサー等)、近〜中距離の地場系トラックなど、多彩な用途に合わせてさまざまなモデルが販売されています。
3軸6×4車型も初めて設定
XL8は、地場系のクラス8車で、キャブのバリエーションはベッドレスのデイキャブおよびその延長仕様のエクステンドキャブ、4ドアのダブルキャブのみとなり、長距離車のような大容積コンパートメントを架装することは考えられていません。また、2軸4×2シャシーに加えて、3軸6×4シャシーが新たに設定されました。これも北米向け日野車としては初めてのようです。
ボンネット型ではありますが、キャブのプラットフォームそのものは日本向けの中型トラック「日野レンジャー」と同じものです。インパネも左右のトラバース性を考慮した日野レンジャーに近い形状で、ブラウン基調のインテリアカラーは共通です。ちなみにキャブオーバー車とのキャブ共用は、以前から欧米でよく用いられてきた手法で、特に珍しいものではありません。
エンジンは2021年モデルから、カミンズ製の「L9」と呼ばれる8.9L直列6気筒ディーゼル・コモンレール電子制御燃料噴射装置・インタークーラー付VGターボを採用しました。標準仕様が最高出力300hp・最大トルク1166Nm、オプション仕様が最高出力330hp・最大トルク1356Nm、または最高出力360hp・最大トルク1559Nmで、これは20年モデルまでの日野製A09型とほぼ変わらないスペックです。
なお、排ガス後処理もカミンズ製一体モジュール型DPF+尿素SCRになりました。トランスミッションはアリソン製の6速トルクコンバータ式オートマチックのみで、マニュアル車がないのは米国の地場系トラックらしいところでしょう。
このパワートレインの組み合わせは、地場系クラス8車ではポピュラーなもので、フレイトライナー、インターナショナル、ケンワース/ピータービルトの競合モデルでも採用されていて、ほぼ横並びの状況となっています。
車軸やサスペンションなどのコンポーネントは、現地製を調達していますが、先進ドライバー支援システム(ADAS)も日野オリジナルシステムではなくワブコから調達し、コネクティッド(テレマティクス)は現地ベンダーのものを導入するなど、自社製にこだわらず、現地化が広範に行なわれているのが特徴です。
15年の積み重ねが生んだクラス8ボンネット車
ところで、日野が北米市場専用のボンネットトラックを投入したのは、20年前の2003年にさかのぼります。日野はそれまで日野レンジャーの北米仕様車を販売していましたが、よりマーケットニーズに即したトラックを現地生産してシェア拡大を図るべく、前代未聞の北米市場専用ボンネット車が開発されたのです。
日野はダカールラリーでみられるように、自身の技術で海外へ果敢にチャレンジするような気概のあるトラックメーカーですが、北米市場では、現地で定着しているコンポーネントを導入し、ユーザーに受け入れられやすいトラックづくりを優先するという、新たな考え方を採り入れました。
北米専用ボンネットトラックは、GVW14001~16000ポンド(6.3~7.2t)のクラス4車(モデル145)、GVW16001~19500ポンド(7.2~8.8t)のクラス5車(モデル165/185)、GVW19501~26000ポンド(8.8~11.7t)のクラス6車(モデル238/258/268)、クラス7車(モデル308/338/358)が設定され、小型トラックと中型トラックを展開していました。
クラス4/5の小型トラックは、2011年にキャブオーバー小型トラック「日野デュトロ」の北米仕様ワイドキャブ車へ転換して廃止されました。このクラスは、いすゞのキャブオーバー小型トラック「Nシリーズ」が大きなシェアを持っていたためです。
いっぽうクラス6/7のボンネット中型トラックは、現地架装メーカーに対する完成車用シャシー供給などにも積極的に取り組むことで、着実に北米市場に根づいていきました。その結果、日野にとってはインドネシアに次ぐ2番目の大市場へと育てあげることができたのです。
そして冒頭のとおり、クラス8のXL8が18年から新たに設定され、「600シリーズ」とも呼ばれるようになった日野ボンネットトラックは、日本メーカーで初めてクラス8への進出を果たすことになりました。
ちなみに、日野以外の非米国メーカーでクラス8ボンネット車を展開しているのは、現地トラックメーカーのM&Aで現地市場への浸透を進めてきたボルボトラックスだけです。
トラック電動化プロジェクト
そして現在、日野はクラス4からクラス8まで全クラスのトラックを電動化するプロジェクトを進めています。
その中でXL8は、トヨタの燃料電池システムを搭載する「FCトラクタ」のベース車として6×4セミトラクタ車型が起用され、2021年からカリフォルニア州において、セミトレーラを連結しての実証運行が行なわれています。
またXL7では、4×2セミトラクタと4×2配送ドライバンのBEVプロトタイプが開発されています。
筆者としては、ニコラの「One」のようなクラス8長距離FCEV大型ボンネットトラックが日野から登場したら、日本のトラックが北米大陸を横断する姿がみられるのではないかと、ひそかに夢みているところです。
投稿 北米で活躍する日本のボンネットトラック!! 大型燃料電池車のベースにもなっている日野「XLシリーズ」に迫る!!【世界を走る日本のトラック】 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。