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ガソリンスタンドの減少とどまらず EVのインフラ整備を解決するには?

 毎年7月に環境省資源エネルギー庁から、前年度末の給油所数が公表される。2021年7月31日に公表された資料によると、2020年度末は2019年度末に比べて632の給油所が減少し、2万9005軒ということが分かった。さらに、過去の給油所数をみてみると、年々減少し続けていることが判明した。

 ガソリンスタンドが減少し続けることで、不便を強いられる地域も少なからず出てくる。さらにガソリン価格の上昇もあり、生活に大きな打撃を与えている。

 そんななか、2022年5月、国内市場の4割を占める軽自動車に待望のEVが誕生した。日産サクラと三菱eKクロスEVである。ガソリンではなく、電気を利用し走るEVは、自宅で充電することができ、ガソリンスタンド不足を解消する大きなカギとなるだろう。

 いっぽうで、電力不足という問題もあり、節電がいわれる世のなかではEVの普及の足かせになる可能性は高くなるだろう。

 そこで本稿では、ガソリンスタンド減少傾向のワケと電気自動車がもたらす新たな希望について解説する。さらに、日本でのEV普及最大課題「充電インフラ」を解決する打開策を考察する。

文/御堀直嗣
アイキャッチ写真/Caito – stock.adobe.com
写真/NISSAN、MITSUBISHI、Adobe Stock

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ガソリンスタンドが減少し続ける要因とはなにか

 ガソリンスタンドの減少が止まらなくなっている。もっとも軒数が多かったのはバブル経済崩壊後の1996年の6万400軒あまりで、以後、右肩下がりで減り続け、2019年には2万9637軒となり、ついに半分以下となった。とはいえ、96年の6万軒強という数字が過剰だったとの見方もできる。

 かつて、ガソリンスタンドの開業には制約があった。それが取り払われたこと、また国際的な石油の輸入自由化に対する保護政策が国内では実施され、増加の一途をたどった。1989年には、自動車税制度の変更が行われ、それまで5ナンバー車に対し2倍以上だった3ナンバー車の税額が、5ナンバー車の税額に近づけられ、3ナンバー車が増加することでガソリン消費は増えた。

 ところがガソリンスタンドの数が増えたことで販売競争が激しくなり、経営が立ち行かなくなる店も現れた。時限立法だった保護政策も1996年に廃止され、減少がはじまった。それがさらに今日のように留まるところを知らず減少し続ける背景には、二つの要因が考えられる。

 一つは、新車の燃費向上だ。二つ目は、ガソリンスタンドの地下に埋められている貯蔵タンクの定期的な保守管理の義務化による。

 燃費に関しては、ハイブリッド車(HV)の普及や、近年では電気自動車(EV)の登場の影響ではないかとの見方があるが、そればかりではない。ガソリンエンジン車も燃費目標が設定され、トップランナー基準(最良の性能を目標値とする)の導入により、過去10年で20%以上よくなっている。当然の結果として、その分のガソリン消費は減り、ガソリンスタンドの売り上げは20%減少することになる。

 これに、エンジン出力の補助や回生に寄与するマイルドハイブリッドのほか、ガソリンエンジン車の2倍近い燃費向上を目指すHV、そして日常的な短距離はモーター走行できるプラグインハイブリッド車(PHEV)が加わることで、ガソリン消費はさらに減る。EVとなれば、もちろんガソリンは不要だ。

 EVになると、ガソリンスタンドでの販売品目の一つとなるエンジンオイル交換やガソリン添加剤の販売も不要になり、採算は悪化の一途をたどらざるを得ない。

 二つ目の地下タンクの保守管理については、ガソリンスタンドの地下に埋められた貯蔵タンクは、40年を経過した場合に腐食を防止する対策が義務付けられることになった。対策には、1タンク当たり数百万円単位の費用が掛かると見込まれている。ガソリンだけでなく、灯油も対象になる。

 ガソリンスタンドは地面が舗装されており、その下に埋められているタンクを回収したり交換するためには掘り返さなければならず、大々的な工事となって費用がかさむ。複数の貯蔵タンクへの対策とスタンド施設の工事を含めた出費は、数千万円におよぶとの観測もある。

 いっぽうで燃料の売り上げは先に述べたように年々減り、銀行などで融資を受けることができたとしても、返済の厳しさは増すばかりだろう。ならば、廃業しようと考える経営者が続出してもおかしくない。

ガソリン価格上昇中!! 希望は電気自動車にあり??

日本のEV普及を進めるきっかけとして期待される新型軽乗用EVの日産サクラ

 ガソリンスタンド軒数が減ることによって給油に不便を覚えるようになるのはもちろん、燃料価格も高止まりする懸念がある。ドイツの事情に詳しい知人によれば、ロシアのウクライナ侵攻による燃料の高騰で、ドイツではガソリン価格が平均で296円/Lになっているという。

 ことに欧州は、ロシアに石油や天然ガスを依存してきたので、情勢次第ではこうした燃料価格にもなるということだ。また中東のUAEでも、ガソリン価格が60%も上昇し、EVが新車販売の30%を占めるようになったそうだ。

 そこに登場したのが、新型軽乗用EVの日産サクラと三菱eKクロスEVである。日産も三菱自も、国内市場の約4割を占める軽自動車のEV誕生に、大きな期待を寄せている。

 EVであれば、もはやガソリンスタンドへ行く必要はない。近場の移動や、通勤などでの利用が中心的になるとみられる軽乗用EVでは、自宅での基礎充電がなおさら前提となり、急速充電での課金に比べ、電気代はより抑えられることになるだろう。

 概算だが、日産サクラの1km走行あたりの電気代は、約3.7円と試算できる。ガソリンエンジン車の日産デイズは、7.6~8.4円(自然吸気エンジンと、ターボエンジン)/kmのガソリン代になる。

 自宅で充電すれば、燃料代がほぼ半分になるのである。三菱eKクロスはデイズより燃費性能がよいので、ターボエンジンでも6.7円ほどになるが、それでも電気代のほうが45%ほど安く済む。

 ガソリンスタンドの減少によって、地域によっては数キロメートルから十数キロメートルも離れたところまでわざわざ給油をしに行かなければならない事情も生じており、自宅で充電できれば移動の無駄もなくなる。

日本でのEV普及最大課題「充電インフラ」を解決するには?

 いっぽう、日本で最大の課題は、マンションやアパートなど多くの人が住む集合住宅の駐車場に、200V(ボルト)の充電用コンセントを設置できていないことだ。集合住宅の駐車場は、エレベーターなどと同様に住民の共同利用の場となるため、管理組合や理事会などで合意を得られないと工事ができない。

 EV所有者が、管理組合などへ設置を依頼しても否決される事例がいくつもある。理由は必ずしも合理的な内容だけでなく、自分に関係ないといった感情的な場合もあるようだ。

 こうなると、敷地外の急速充電器で充電するしかなく、ガソリンスタンドへ給油をしに行くのと同じことになり、充電時間の問題もあって、30分も時間を潰すのは無駄だという不都合な話にもなりかねない。こればかりは、社会の理解を待つしか解決の糸口が見つからなかった。

 しかし、日常の足としての軽乗用EVとなると、一つの解決策が考えられる。

 コロナ禍によるリモートでの仕事が増えても、現場での作業が必要な製造業などでは、通勤が不可欠で、その通勤用に軽自動車を利用する人は多く、これをEVにすることで個人も企業にも利点が生まれる可能性がある。

 事業所の従業員用駐車場に200Vのコンセントを企業が設置することで、通勤用の燃料代を抑えることができる。個人で支払っているなら社員の交通費の負担が減り、企業も交通費への支援を行っているのであれば、支給額を軽減できる。

 そのうえで、従業員の多くが通勤にEVを利用するようになれば、企業にとっては事業活動のなかでの二酸化炭素(CO2)排出量削減に貢献できることになる。同時に、それはSDGsにつながるともいえるだろう。EV用の充電コンセントの設置が社会貢献と結びつき、企業価値が高まり、投資を促すことにつながるかもしれない。製品に対する消費者の好感度も上がる可能性はある。

 そして就業中に充電を済ませることができれば、帰宅し、翌日の出社に必要な電力は賄えるだろう。日産サクラと三菱eKクロスEVの一充電走行距離WLTCで180kmは、それに見合う性能であるはずだ。

 就業中の充電は、何かほかのことをしている間に充電が完了するという、エンジン車ではできないEVならではの最大の特徴でもある。

 こうして街を走る軽乗用EVが増えていくことで、集合住宅の管理組合などはもちろん、月極駐車場を管理する不動産業界なども、駐車場へのコンセント設置に理解を示し、前向きに対応してくれるようになることを期待する。

 新型軽乗用EVの登場は、いまなお1%以下といわれる日本のEV普及をさらに促す礎になるのではないか。2年後の2024年には、ホンダから軽商用EVが誕生する予定である。

 それは、ガソリンスタンド経営にとってさらに厳しさを増すことにつながるが、軽EVの存在感が増すことで、EVへの世間の理解がいっそう進むことになるのも、時代の趨勢といえるだろう。

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投稿 約20年でガソリンスタンド半減!! それでも不安なEVの「充電問題」 究極の打開策は?自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。