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 毎日が暑い! 全国的に異例に早い梅雨明けも驚きだが、今年の夏は猛暑が続くとの予報も。暑い日には「トロッコ」で涼風を感じてみてはどうだろう。

 鉄道で人を乗せる「トロッコ」といわれるものには大きく二種類あり、ひとつは窓なしの開放型客車に揺られて旅をする「トロッコ列車」と呼ばれるタイプ。もうひとつは、小さな台車に乗って自分で線路上を運転するものだ。自転車型と原付型があり、昔から保線作業などで同じようなものが使われてきたが、一般客が営業線を走ることはさすがにできない。そこで廃線になった鉄道を利用して観光客向けの遊具として整備している場所がある。今回紹介するのは北海道の「トロッコ王国美深」。ここは運転できる距離が片道約5kmと全国最長規模、思う存分走行できるのが実に楽しい。

「トロッコ王国美深」は旧国鉄美幸線の廃線跡を利用した体験型施設。エンジン付きの軌道トロッコを自分で往復約10kmもの距離を運転できる。北海道旭川から北に100㎞程離れた場所にあり、けっして便利な場所ではないが、全国各地から観光客が訪れる
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文・写真/服部朗宏

北海道の赤字廃線跡の線路をエンジン式トロッコで自走する!!

 NPO法人「トロッコ王国美深」は1985(昭和60)年に廃止された国鉄美幸(びこう)線の仁宇布(にうぷ)駅跡地と周辺を整備活用した施設だ。美幸線は旭川から約100km北にある宗谷本線の美深駅から延びていた支線であり、美深から北東に約21.2km行った仁宇布までが1964(昭和39)年に開通した。道北の産業開発を目的とした路線で、計画では山を越えて北上し、オホーツク海側にあった興浜北線の北見枝幸までつながる予定だった。

 その建設工事はなんと1980(昭和55)年まで続けられており、トンネルや路盤は完成してあとは線路を敷くだけの段階まで進んだが、国鉄の赤字路線廃止策のもと完成を待たずに開業区間も含めて全部廃止されてしまった。

美幸線は宗谷本線美深駅から北東方向、オホーツク海に面した幸浜北線の北見枝幸駅を目指して建設がすすめられ1964年、途中の仁宇布駅までが先行開業。この先57.5㎞の予定区間は1985年まで工事が続けられたものの、結局全線開通をすることはなく、先行して開業していた区間も含めて1985年9月17日に全線廃止となった。写真は美幸線さよなら列車(美深駅2階の旧国鉄美幸線資料館展示品を複写したもの)

 美深~仁宇布の開業部分は集落もまばらで一時期「日本一の赤字線」となったが、美深町長が自ら東京で観光客誘致の宣伝を行い話題になったこともあった。現在、美深~仁宇布間には予約専用のデマンドバスが日曜を除く1日5便運行されている。バスといっても、車両はハイエースだ。

 トロッコ王国の拠点は旧仁宇布駅(〒098-2208北海道中川郡美深町字仁宇布215番地)。元もとの駅舎は鉄骨とコンクリートブロックを組み合わせた平屋だったが、すでに解体されている。代わりに木造三角屋根の北海道らしい建物があり、「入国受付&ご案内所」になっている。建物内には美幸線廃止時の「さようなら美幸線」と書かれた看板などが展示されていた。向かいには真新しい木造レストハウスがあり、中ではうどんやそば、カレー、コーヒーなどを楽しむことができる。

日曜以外に美深~仁宇布を1日5往復するデマンドバス。完全予約制で予約の無い便は運休する。バスと言いつつ車両はハイエース

ホンダ製エンジンで走る台車のようなトロッコ車両は結構速いぞ!!

 さて、トロッコに乗るにはまず「入国受付&ご案内所」での“入国手続き”が必要。といっても、名前と電話番号を伝え、料金を支払えばよいだけだ。開国=営業時間は9:00~16:00で、トロッコは毎時1回00分発車となっている。電話やネットで事前予約も可能だが、連休やお盆休みなどのハイシーズンでなければ予約しなくても乗れるだろう。トロッコには6人程度まで乗れて料金は一人1,500円。ただ、自分で運転したいなら1,800円と少し割高になるが1台貸切にするのがおすすめ。そして、車やバイクの運転ができるなら自分で運転する方が絶対に楽しい。

 王国の「トロッコ」はHONDAの小型汎用エンジンを動力とし、チェーンドライブ。エンジンは新しいトロッコではGX-160(排気量163 ㏄)、古いものにはG300(排気量272㏄)が付いていた。運転席は右側にあり、アクセルペダルを踏むと自動変速し、緩めるとエンジンブレーキで減速する。ニュートラルやバックはなく、ほかに完全停止用に足踏みブレーキが付いていて、留置用にロックできる構造になっている。運転操作はゴーカートとほぼ同じだと思えばよく、自動車を運転している人ならすぐに慣れるだろう。スタッフの説明ではアクセルをベタ踏みすると25km/hくらいは出るとのことだったが、吹き曝しなので体感的にはもう少し速く感じられる。

 受付が済んだら、出発前に簡単なレクチャーがある。トロッコ路線の説明のほか、運転中の注意事項をユーモア交えてスタッフが教えてくれる。おもしろいのは、線路と道が交差している場所が数カ所あり、そこでは道路側が優先であること。一旦停止か最徐行で進み、人やクルマが近づいてきた場合は止まって譲らなければならない。また、小さな川を渡る橋が数カ所あり、両側にガードレールなどがないのでここでも徐行しなければならない。

これがトロッコ車両。リアにホンダ製汎用エンジンが搭載されており、アクセル操作のみで自走する。最大6人乗れて、25㎞/h程度出るのだが、風を遮る車体などがないので、体感速度は思いのほか高い

 終端部は「?」のような形の急カーブになっていてU-ターンするのだが、このカーブでスピードを出し過ぎると脱線の危険があることや、逆にゆっくり過ぎると抵抗が大きく止まってしまうことがあるなどの説明もある。いろいろな説明を聞くと少し難しく感じられるかもしれないが、あまり心配せず運転席に座ってそっとアクセルを踏めば、トロッコはもう動き出している!

 駅を出るときにポイントを渡るのでそこはゆっくり目に、本線に出たら後は気の向くままに加速減速を繰り返して運転を楽しもう。レールの継ぎ目を通る時には、タタンタタンという振動が伝わり、道路とは違う感覚がおもしろい。往路は下り坂なので、スピードが出やすく、風が心地よい。木立の中を進む部分もあり、木漏れ日の中を快走しよう。小川を渡る橋では徐行する。コンクリート橋なので古い鉄橋のように下が丸見えということはないが、スリリングなポイントだ。トロッコにはスプリングがないので、振動が直に伝わる。ズボンのポケットに入れておいた財布やスマホが振動で顔を出し、運転中に落としてしまう人も稀にいるそうだ。落としてしまったらまず見つからないとも。

 そうこうするうちに、終点が見えてきた。転回部分にはスタッフが先回りして見守ってくれている。急カーブをゆっくり回り切ったら、一時停止。ここでスタッフがポイントを切り替えてトロッコは再び本線へと戻る。今度は上り勾配が続き、アクセルペダルを少し弱めるだけでも随分と減速するので、ここは力強く踏んで勾配に挑もう。終着の旧仁宇布駅まで往復約30~40分の道のりは、想像以上に長く感じられ、カーブや踏切、橋などがつぎつぎと出現するのでこれまた想像以上に楽しいものだった。降りてもしばらくは興奮が収まらないくらい。この夏、ぜひ体験しに訪れてはどうだろうか。なお、見た目以上に風を受けるうえ、冷涼な土地なので特に春や秋、夏でも天候の悪い日には薄着だと寒さを感じる。薄手の羽織るものがあると便利だろう。

トロッコは前にしか進めないため、起点の旧仁宇布駅では専用の転車台で向きを変える。終点にはぐるっと1回転するループ線が設置されている

■トロッコ王国美深公式サイトhttps://www.torokkobihuka.com/

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