ひとつのバス事業者を掘り下げて紹介する、バスマガジンの名物コーナー、バス会社潜入レポート。今回は2016年に遡って、7月発売号で掲載したアルピコ交通編を振り返って紹介する。
風光明媚な長野の山々を背景に、路線バス、高速バス、貸切バスすべてが共通のGI(グループアイデンティティ)デザインをまとっているアルピコ交通。シンプルなカラーリングながら、どの車種に施しても似合うデザインが人気だ。
過去の路線車はクリーム色だったが、代替により現在は観光ボディ同様のスーパーホワイト塗装の車両が大半である。
(記事の内容は、2016年7月現在のものです)
構成・執筆・写真/湯(バスマガ信州支局)
※2016年7月発売《バスマガジンvol.78》『おじゃまします! バス会社潜入レポート』より
(アルピコ交通特集 後編)
■さまざまな車両の在籍状況
●路線バス標準カラー:日野 QPG-KV234N3 ■長野200か1431 15304 新町営業所
2016年5月1日時点でのアルピコ交通所属車両は452台。統合前は約550台だったため、6年で100台ほど減っている。国内4メーカーすべて在籍し、その内訳はいすゞ車142台、日野車235台、三菱ふそう車68台、日産ディーゼル車7台、トヨタ車1台。
所属車では日野車が最も多い。割合にして約52%で、半数以上を占める。これはハイブリッドバスが多いことと、高速・貸切共にセレガの導入が続いていること、コミュニティバスに使われる小型車のラインナップが他メーカーと比較して充実しているからだ。
続いて多いのがいすゞ車。割合は約31%。ハイブリッドを除く路線車の新車はいすゞ車が多く、ガーラは現在までコンスタントに導入されている。
三菱ふそう車は路線車の導入が少ない。新車で導入されたのはコミュニティバスを除くと僅か3台。しかし高速バスは統合前から主力の一翼を担い、現場からの信頼も厚い。
日産ディーゼル車は最も少数派で、長野管内でしか見ることができない。99年式の貸切車が引退した後は暫く日デ車がいなかったが、13年に中古路線車導入により復活を果たした。
統合前の各社では明確な傾向があった。松本電鉄(現・松本本社)はHIMR車を集中しており、以前はいすゞ車が多かったが統合前は日野車が多数派となった。川中島バス(現・長野支社)は比較的バランスよく3メーカーを入れていた。諏訪バス(現・諏訪支社)は大型車がほぼ三菱ふそう車。
そこから統合前後で2つの変化が起こる。1つは同一の事業者になったため車両の転属がしやすくなったこと。松本本社の新島々営業所にセレガハイブリッドが導入され、路線廃止により余剰になった古いブルーリボンHIMRが松本営業所だけでなく長野支社・諏訪支社に大量に転属した。
諏訪支社に至っては、大型路線車の大半が京阪バス中古のエアロスターだったものが、あっという間に日野車が最大勢力になった。
もう1つは、高速バス用として三菱ふそうエアロエースが本格的に導入され始めたことだ。リコール隠し問題以降、ジェイ・バス系が大半となり、統合前では川バスと諏訪バスで計3台しか入っていなかったエアロエースが12年から主力車種として全支社に導入されている。
また、統合とは関係のない事柄ではあるが、路線車には最大のターニングポイントがあった。
大都市圏の公営事業者などが所有していた初期型ノンステップバスが経年により更新時期を迎え、地方事業者に大都市圏のノンステップバスが中古流通して急速にバリアフリー化が進んだ。アルピコも多く導入し、これまで導入歴のなかった事業者の中古車が入ることにもなった。
■高速バス・貸切バスは新時代へ
●高速バス標準カラー:日野 QTG-RU1ASCA ■松本200か1092 16040 松本営業所
路線車とは違って、高速バス・貸切バスはその時の最新車が常に導入されているのだ。
観光ボディは夜行・昼行以外の差がほぼないほど標準化されているため、見た目に個性的な車両は生じにくいのは他事業者と同様である。
しかし、これまでと違うのは車内設備。松本本社にはSクラスシート、長野支社にはプライムシートというアッパークラスの昼行車が導入され、代表路線である新宿へ向かう便に充当されている。高速バスのイメージを向上させ、新規獲得だけでなくリピーターを増やす努力の一端である。
また、松本には独立3列シート車が増備され、長野では昼行便に充当される独立3列シート車も存在。諏訪支社には15年の大阪線夜行便運行開始のために、4列ではあるが後方乗務員仮眠室を装備した夜行対応ガーラが導入されたことが大きな変化である。
アッパークラスのシートやその配列だけではなく、パウダールーム付きトイレを装備する車両が存在する。バスのトイレは狭い、という常識を覆した快適な設備は新たなバスの可能性を探る。
コンセント付き、プラズマクラスター付きエアコン(注:プラズマクラスターはシャープ株式会社の商標)、大型シート、大型フットレストなど、仕様は多岐に渡る。
貸切バスは80台で、統合後の新社番車だけで44台が存在する。新社番はすべてセレガのハイデッカー車で、座席は11列である。14年式からは前面LED式行先表示器と降車ボタンを装備した高速バス増車対応仕様になっている。この仕様の車両はすでに33台が導入されており、まだ増える見込み。
アルピコ交通所属車両は6年前から約100台減ったものの、路線車の仕様はまだまだ多岐に渡り、1台しかいない型式の車両も複数ある。中古導入された車両が多く、見ていて飽きない。
高速・貸切車は安全装備の充実している現行車種が堅調に増備され、サービス向上につながっているほか、法規制にもしっかり対応。今後のアルピコ交通所属車両から目が離せない。
山紫水明の地、信州で爽やかなカラーリングに彩られた多種多様なバスを運行するバス事業者:アルピコ交通【前編】
投稿 ボディサイドに輝くGIロゴとダイナミックストライプがアルピコのプライドだ!! は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。