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ク…クルマがデブになっている!!!! 重量化の欠点と「軽さ」による恩恵とは?

 燃費や電費向上のため、昨今ますます重要になっているクルマの軽量化。軽量化には、走行性能を高める効果もありますが、「軽くなればいい」ということでもなく、軽量化によってリスクを発生させてしまうことも。

 クルマを軽くすることによる燃費(電費)と走行性能のメリット、注意しないとデメリットになる軽量化手法について、ご紹介します。

文:Mr.ソラン、エムスリープロダクション
写真:TOYOTA、NISSAN、HONDA、MAZDA、SUZUKI、ベストカー編集部

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この40年間で車重は5割増

 近年のクルマ開発における最優先テーマのひとつである「軽量化」。従来車比で〇〇%の軽量化に成功、といった謳い文句がよく使われるように、クルマの軽量化は、燃費と走行性能を改善する、大きなアピールポイントとなっています。

 しかし、この40年の車両重量の推移を見ると、クルマの全体平均重量は、1980年頃の約950kgから、現在の約1400kgと50%近く増大しています。この主因は、次の3点が挙げられます。

・快適性向上のための車体の大型化
・安全基準強化に伴う衝突安全性向上のための部材とフレームの強化
・予防安全と電動化のための専用の機器・部品の搭載

 電動化や予防安全技術に伴う重量増が避けられない現在、メーカーは、従来の鋼材主体のボディ構成から、樹脂やアルミ合金、高張力鋼板(ハイテン)、マグネシウム、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)を、適材適所で使い分けるマルチマテリアル化で軽量化を推進しています。

 一方燃費については、車重が40年前の約5割増えながら、驚くことに約半分に改善しています。エンジンの熱効率や各要素部品のフリクション、空力特性、制御技術などがいかに進化しているかが、よく分かりますね。

軽量化によって「加速・減速・曲がる」も向上

 クルマは、軽ければ軽いほど、小さなエネルギーで動かせるので、燃費は良くなります。また、容易にクルマがコントロールできるので、加速や減速、コーナリング走行が軽快になります。

 燃費は、車両重量に対して、ほぼ反比例(実際はやや湾曲)します。例えば、2トンのクルマの平均的な燃費は10km/L、1トンのクルマは20km/Lなので、およそ100kg軽くすることで燃費は1.0km/L改善します。100kgも軽くしても、燃費改善はたったの1.0km/Lかと考えるかもしれませんが、他の方法で燃費を1.0km/L改善するのは至難の業、軽くすれば確実に燃費が低減できる方法として「1gでも軽くしたい」といわれる由縁です。

 加速性能については、運動方程式F(力)=m(車重)×α(加速度)から、同じ力で動かすならクルマの重量が軽いほど、大きな加速度が得られることが分かります。減速力も同じで、軽いほうが停止しやすくなります。クルマの加速性能を評価する一般的な手法としてパワーウェイトレシオ(重量出力比)があり、これは車重(kg)/出力(PS)で表されます。車重1トンで100PSの場合、パワーウェイトレシオは10になります。一般にスポーツモデルは8以下、ファミリカーでは12~15程度の値を示します。

 コーナリングについても、慣性の法則により力F(遠心力)=m(車重)×v×v(車速)/r(旋回半径)で表されます。車重が軽いほど、遠心力(外向きの力)が弱まるので、操縦安定性が増し、軽快なハンドリングが可能となります。

 以上のような軽いクルマのメリットを上手く生かしているのが、マツダのロードスターのような「ライトウェイトスポーツ」です。比較的小排気量エンジンながら、加速性能に優れ、制動距離も短く、さらに軽快なコーナリング性能を発揮するのが特徴です。

1989年にデビューしたマツダの初代「ユーノス・ロードスター」。2シーターオープンでライトウェイトスポーツの草分け的存在

振動・騒音、乗り心地などが悪化する可能性も

 大きなメリットをもたらす軽量化ですが、一方で車体が軽くなることによって、タイヤの接地荷重の低下や剛性、強度の低下といったリスクも潜在します。やみくもに軽量化すると、潜在リスクが表面化してデメリットとなるので、注意が必要です。

・タイヤ接地荷重低下によるトラクションの低下
 一般に、車体が軽くなる、あるいは、クルマの後ろ側だけ軽くするなど重量バランスが崩れると、グリップ力が弱まり、十分なトラクションが発生せず、滑りやすい路面や、急激な加減速を行った際にスリップしやすくなる場合があります。ブレーキ性能も同じで、クルマは軽いけど路面にパワーが設計した通りに伝えきれず、滑りやすい路面などでは、場合によっては危険な状態に陥ることも考えられます。

・ボディ剛性低下による振動・騒音の悪化
 剛性が低下すると、ボディに捻じれやたわみが発生し、サスペンションが本来の機能を果たさず、操縦安定性、特にコーナリング性能が悪化します。さらには、ボディが「ワナワナ」するような揺れが収まりにくくなり、不快な振動・騒音が発生して、乗り心地や快適性も悪化します。

・ボディ強度の低下やボディ特性の変化による衝突安全性の低下
 本来は、運動エネルギーの小さい軽量ボディの方が衝突エネルギーは小さいので、衝突時は安全です。しかし、強度が低下する軽量化やエネルギー分散性の悪い構造となるような軽量化を行うと、衝突安全性能が低下して危険です。衝突時に衝撃を吸収、分散する車体骨格には、頑丈なで質量のある部材が使われています。

・バネ下荷重の軽量化では乗り心地が悪化することも
 バネ下(サスペンションやタイヤ、ホイールなど)が軽くなればサスペンションの動きが軽快になり、路面の凹凸に追従しやすくなり、一般的には乗り心地が良くなります。ただし、細かな振動に対して敏感となるため、乗り心地が悪くなるケースもあります。

 また軽量のアルミホイールを装着した場合、加減速レスポンスが良化することがありますが、タイヤにかかる力が弱まるため、タイヤが振動を吸収できずにロードノイズが大きくなる、振動が気になることもあるので、注意が必要です。

・フライホイールを軽量化では、アイドル回転変動が増大しやすく
 エンジンの後端でクランクシャフトにつられて回転する重い円盤状のフライホイールは、回転変動を抑えてスムーズなエンジン回転を維持する役割を担います。フライホイールを軽くすると、加減速レスポンスに優れたスポーツモデル向きの仕様となりますが、一方でアイドルの回転変動が増大しやすくなります。フライホイールのサイズ・重量は、クルマの性格に応じた選択が必要です。

 このように、軽量化によるリスクはいくつかありますが、メーカーが軽量化する市販車については、構造解析などのシミュレーションや衝突試験などで十分確認しているので、大きな問題は発生しません。しかし、ユーザーが、例えばホイールなどを軽量化したことで、振動・騒音のリスクが高まる可能性があることは、留意しておく必要があります。

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 バッテリーEVでは、大量の重いバッテリーを搭載するので、現状では車重がガソリン車より100kg~200kg増えます。課題である実用的なEV航続距離を実現するためには、バッテリー容量の確保と同時に、軽量化は不可欠。軽くて強い超ハイテンやCFRPへの材料置換をもっと積極的に進めなければならないと考えます。

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