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金融庁が外資系生命保険大手のマニュライフ生命保険に対し、近く保険業法に基づく業務改善命令を出す見通しだと大手メディアが相次いで報じている。

金融庁が問題視しているのは、同社が販売する「節税保険」。租税回避行為を指南するような営業手法を悪質性が高いとみて、今年2~6月の4カ月間にわたり、同社に立ち入り検査を実施し実態を調べていた。業務改善命令が出れば、節税保険をめぐる行政処分としては初となる。生保会社への行政処分としては2019年のかんぽ生命保険以来、3年ぶりとなる。

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マニュライフ生命保険が顧客に対して指南していた租税回避行為とは、以下のようなものだ。問題となっているのは、「低解約返戻金型逓増定期保険」という中小企業などの法人向け商品。契約から5年が経過すると、契約者が受け取る解約返戻金が大きく跳ね上がる仕組みになっている。契約企業は5年目になる直前に、契約の名義を法人から役員個人に変更する。契約を譲渡することになり、返戻金は税制上、個人の一時所得として扱われる。この場合、役員報酬などとして金銭を支払うときと比べて、所得税の負担を大きく軽減できるのだ。

一聴しただけではなかなかわかりづらいカラクリだけに、マニュライフ生命は名義変更による租税回避の仕組みを記した販売マニュアルを作成し、販売代理店に配布して拡販に努めていたという。特定の保険商品に関して節税メリットもあることを顧客に説明するぐらいなら許容範囲だが、租税回避を目的とした保険商品を販売するなら話は別、というわけだ。

繰り返されてきた“イタチごっこ”

節税保険が問題になるのは今回が初めてではなく、この3年間、生保会社が節税保険の商品を開発しては、当局が規制を強化するという“イタチごっこ”が繰り返されてきた。

2019年、中小企業の経営者・役員を被保険者とした定期保険が、国税庁によって問題視された。契約者は経営者や役員ではなく法人であるが、経営者の死亡時の保障を円滑な相続・事業承継に活用したり、解約した際に戻ってくるお金(解約返戻金)を退職慰労金などに充てたりすることなどを想定。支払った保険料の全額または一部が税務上、損金扱いできるため、節税目的に活用されることが多かった。

しかし、定期保険の中には保険料が全額損金扱いにならない商品があるのだが、こうした保険商品の中には支払った保険料の80%以上が解約時に「解約返戻金」として契約者のもとに戻ってくるものもあるのだ。契約者にとっては支払った保険料が全額損金扱いとはならないまでも、そこに80%もの保険料が戻ってくれば、節税効果にプラス臨時収入があるようなもの。この部分を問題視した国税庁は、「経営者向けの定期保険の取り扱いの改正」を発表した。生保各社は定期保険の販売休止に追い込まれた。

崩壊した“節税保険バブル”

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定期保険は中小企業経営者の資金ニーズに応えるものであっただけに当時、国内の生命保険会社の約半数に当たる約20社が扱っており、推定市場規模は新契約年換算保険料ベースで8000億~9000億円だったという。個人保険・個人年金保険料の新契約年換算保険料は約2兆6000億円だったので、その3割にも達していた。

マイナス金利の影響で年金保険など個人向けの貯蓄性保険が縮小する中、“節税保険バブル”と言える状況だった。それだけに定期保険の販売休止によって、保険代理店全体の収入保険料の4割が吹き飛んだとされる。国税庁の発表が2月14日だったことから「バレンタインショック」と呼ばれた。

続いて昨年、「ホワイトデーショック」と呼ばれるニュースが話題になった。低解約型逓増定期保険の契約者を法人から個人へと切り替え、所得税を抑えるという手法(名義変更プラン)の撤廃を国税庁が通告したのだ。通告されたのが3月だったので、ホワイトデーショックと呼ばれた所以だ。いちいち詳しくは説明しないが、カラクリは前述の節税スキームと基本的には同じ構造だ。2年前に改正された規制に対して、新たな考案された抜け道だと言える。

脱法スキームの脱法化

今回の金融庁による行政処分は、生保業界の振る舞いに対して“三度目の正直”としてレッドカードが出された格好だ。生保各社は中小企業の経営者のニーズに寄り添った企業努力だと言い張るかもしれない。

だが、経営者向けの定期保険とは本来、相続・事業承継を円滑に進めるために加入するもの。そのために最も必要なのは十分な死亡保障。節税だけを目的とした保険は、本筋から外れたものだ。

定期保険による節税スキームは、何だかんだいっても「脱法行為」である。当局を出し抜こうとするような企業はコンプライアンス意識が低いとも言え、果たして契約者はそうした企業に信を置いていいものだろうか。状況が変われば、今度は契約者を欺くのではないか、と疑ってかかるのが普通だと思うのだが……。